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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
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act.2【虫喰みの森と晴空の射手座】15

「シノ……、血が出てるよ?」


「ハレ、大丈夫だから」


シノは、ハレを背に隠しながら数匹の蟲と相対していた。『碧落楽団』の中でも優れた射手であるシノであるが、それでも複数の蟲を同時に相手取るのは困難である。


何度か蟲の攻勢を凌いではいるが、無傷で、という訳にはいかなかった。


矢を引く右腕は鍬形虫の顎で深く切られ血が滴っている。


幸い腱までは切れていないようだ。なんとか握力は残っている。


「大丈夫、大丈夫だよ」


ハレを励ますための言葉で自己暗示を掛ける。


なんとかこの場を脱出し救援を呼ぶ。それだけが状況を打開する術であった。


ヒヨリがしたように自分が囮となってハレを一人で集落へ向かわせることも考えた。だが、この先が安全とは言い切れない。別の蟲と邂逅すれば、身を守る手段を持たない彼女が生き残る方法はないだろう。


(そもそもなんで蟲が襲ってくるの……? 偶然、な訳ないよね。ってことは、ヒヨリのところも?)


疑念は尽きないが、ヒヨリが命懸けで作った時間。こんなところで食い潰すわけにはいかない。


であれば。


「ハレ、せーので走ろう」


疲労と貧血で朦朧としかけた意識を揺り起こすようにハレに喋りかけた。


「シノ、大丈夫……?」


不安そうな少女に笑顔で返す。空元気だということはきっとお互いに理解っていた。


鋏虫がキチキチと鋏を鳴らす。攻撃態勢に入ったのだ。


「……せーのッ!」


息を合わせて反転し走り出す二人。当然蟲はそれを許さない。


体長1メートル以上にもなる黄金虫が羽を拡げる。振り向き様に矢を射掛けるが甲羅に当たって弾かれた。


「~~ッ! 足止めにもならないのね!」


続いて他の昆虫たちも羽を拡げ追撃の態勢を取る。


シノは速度を落とさないまま牽制の射撃を続ける。焼けた石に水を掛けるような行為であったが、それでもほんの僅かでも追撃の速度を緩める可能性を信じて撃ち続けた。


ハレは懸命に走った。自分の存在によりシノが状況を打破する選択肢を狭めていることは理解していた。


どれくらい走っただろうか。


シノの懸命な牽制のお陰か、何とか一定の距離を保ちつつ二人の妖精は逃走を続けていた。


が。


「!?」


突然シノの身体が地面に転がった。


「シノ!?」


「なん……でッ?」

少し遅れて右足に灼熱のような痛みが走る。一瞬で思考の全てが持っていかれるような感覚。


「蟻地獄……!?」


シノは蟻地獄の巣に足を取られ、大顎で足を挟まれたのだ。


「なんか、私挟まれてばっかりなんだけど!」


地面に倒れながら射撃を続けるシノ。


「ハレ! ごめん! 先に行ってて!」


「やだよ! 一緒に行かなきゃ!」


「お願いハレ! 私もう走れない!」


流石に血を流しすぎた。握力が底を尽き、矢を落としてしまった。


(ごめんなさい、ヒヨリ。ハレも守れなかった)


友人も、友人の宝物も護れずに斃れる無念に唇を噛む。せめて蟲達が自分に気を取られ、ハレが生き残るチャンスが少しでも残されていれば。そんな一縷の望みを託すようにシノは目を閉じた。


閉じる直前に見た、迫る蟲、そして。


視界の端を駆け抜けた小さな影。


「……ハレ!?」


ハレは、シノの手から弓を奪い、落ちていた矢を拾い、ハレの前に立ち弓を引く。


「駄目! ハレ!」


そして。

ハレは、矢を放つ。


「!?」


一閃。


小さな身体から放たれた流星が、空間を切り裂いた。


流星は真っ直ぐに鍬形虫の大顎を貫き、尚も速度を落とさず空の彼方へと消えた。


蟲は怯まない。続けて鋏虫が二人を襲うため進攻する。


ハレは次の矢を構え、照準を合わせ、放つ。


刹那、弓から鋏虫の身体まで清廉な糸を辿り、地面に縫い付けた。


「ハレ……?」


「シノ、……私も、戦える、から。私も、『碧落楽団』のひとりだから」


「……そうね、ハレ。そうだったね」


――ハレは、私より強くなるよ。


いつか聞いた友の言葉がハレの小さな背中に重なる。


護る、なんて失礼だったね。


シノは未だ足を挟み続けている蟻地獄に矢を突き立て脱出する。


血の流れ続ける足の感覚を確かめるように軽く地面を踏む。


痛むが大丈夫、動ける。


ハレに矢筒を渡す。自分は落ちていた矢を拾い逆手に構える。


『碧羅楽団』は、もともと射撃戦を得意とした集団であるが、その中でもシノはショートボウで近距離での戦闘も可能なタイプである。


生涯初めての近接戦闘。


でも、この子と一緒なら。


「まだこんなところにいたのか?」


奮い立った心を一瞬で冷却する蛇のような声。


「何してんだよ。お前らがモタモタしてるから次期当主様の奮闘も無意味になったな」


「……ッ!」


白衣の男が追いついてきたのだ。


宇宙服のような戦闘服を着た兵士。そして


「お母さん!」


両手を縛られ吊られたヒヨリの姿がそこにあった。


「あああああああ!!」


「ハレ! 待って!」


爆発するように走り出したハレを口では制しつつも、冷静になれるはずがない、と理解していたし、寧ろ自分も今すぐ弾けそうな激情を抑えるのが精一杯だった。


でも。


「いや、近付いたらお終いだろ」


シノも一瞬遅れてハレを追うが、間に合わない。


一斉にハレを狙う数多の銃口。その引き金が引かれる。


過去編が当初の想定より長くなっていますがもう少しだけお付き合いください。

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