act.2【虫喰みの森と晴空の射手座】12
森は、静寂と緊迫を交差させていた。
十数人の宇宙服を見に纏った兵士達、それぞれが黒く鈍く光る銃口を一様にヒヨリへと向けている。
対峙するヒヨリは、自然体。弓を構える訳でもなく、矢に手を伸ばす訳でもなく、唯々鋭く集団の後方に立つ白衣の男を見据えている。
ヒヨリの足元には、ハレとシノを追おうとした二名の兵士が伏していた。
「……あー、足、撃ったのか。見えなかったな。お見事お見事」
倒れ伏した兵士は足を押さえて短く呻き声を上げている。
「見えなかったのなら、このまま帰った方がいいわ。みんな自分の足で帰りたいでしょ?」
「まるで俺達全員を制圧できるみたいな言い方するじゃねえか」
「そのつもりで言ったのだけれど」
「一人で、ねぇ」
白衣の男は嘲笑するように地面に視線を落とした。
「甘いよ、次期頭領」
白衣の男が言い終わるか、終わらないかの瞬間。
男の後方に広がる森、木々を薙ぎ倒すような音と共に、巨大な昆虫たちが出現する。
「……ッ!?」
昆虫たちの表情は、以前からヒヨリが見ていたものとはかけ離れていた。
(何なの? 怒ってる? どうやって? いや、それよりも……ッ!)
真っ直ぐに向かってくる昆虫たち、ヒヨリの後ろには皆の暮らす集落、継承式の前ということもあり、戦えない子供も残っているはず。
「多少手荒でも、止めるしかないってことね……!」
正直言って、昆虫相手にヒヨリたち『碧落楽団』の面々の戦闘スタイルは分が悪いと言える。
動きの速い昆虫には矢が当たらず、鈍足の甲虫には矢が通らない。
これまで友好的な彼らが牙を向いた瞬間、妖精たちは脆弱で無力な存在と化すのである。
このまま昆虫たちが集落に入る事は、妖精たちが好き放題に蹂躙されることを意味していた。
だが。
「……予想以上、だな」
ヒヨリは一人で昆虫の群れを食い止めていた。
飛び回る蜂を正確に射止め、後続の兜虫は脚を弾き、蟷螂の身体を木に縫い付けた。
「まあ、いつまで保つか」
文字通り針の穴に糸を通す様な作業の連続。ヒヨリの精神力は見る間に削られていく。
だがそれでも。
ヒヨリは、昆虫の群れを防ぎ切った。
お久しぶりです。
またよろしくお願いします。




