act.2【虫喰みの森と晴空の射手座】10
「ああ、データは問題なく送られてきてるよ、木々の調査はこれで大体オッケーだね」
ウテナ達は管理区域に戻り、本部の空斗とコンタクトを取っていた。
「では、後は森の内部か」
「そうだね。出発前も言ったと思うけど、『虫喰みの森』って名前の通り、敵性の昆虫との遭遇も想定しておいてね。なるべく日中に捜索はした方がいいと思うよ。……ところでなんだけど」
「……空斗さんが言いたいことはわかりますよ」
「森の中を調べる前からそんな大怪我するとは思ってなかったけどなあ」
左腕を軽く振りながら答えるウテナに対し、空斗が呆れたような顔をする。
「何というか、色々ありまして」
「色々なかったらそうはならないよね。うーん、森の中の調査が心配だよ。さてと、どこから聞けばいいかな」
「兄さん、まずこの二人を紹介させてもらっていいですか?」
「そうだね、一番気になるのはそれだ」
促されるようにシノが一歩前に出る。
「初めまして、『S.H.I.P.』のリーダーさん。私達は『碧落楽団』です。ここにいるのが二代目頭領のハレ。私はシノっていいます」
「ああ、これはご丁寧にどうも。『碧落楽団』ね。先代はよく知ってるよ」
「お祖父様を知ってるの!?」
釣られて身を乗り出すハレ。
「こう見えても"超常の欠片"に関してはある程度知ってるつもりだよ。特に日本でこの規模の妖精の集団なんてそうそうないしね」
「へえー、そうなんだ。君って見かけによらず凄いのね」
「見かけによらずって何? とにかく『碧落楽団』は凄いの、分かった?」
「ところで」
空斗の視線が鋭くなる。
「基本的には、妖精ってのはあまり人前に姿を晒すことは好まない、って理解してるけど、出て来ざるを得ない理由でもあるのかな?」
「うっ」
ハレの顔が一瞬で曇る。
「図星だね。普通は森の中で人目を避けるように暮らしている君達がここにいるって事は、君達の今の拠点は『虫喰みの森』だね。昆虫は人間は敵視するかもしれないけど、妖精とは別にそんな事ないはずだ。君達が拠点に選んでることからもそれは違いないだろう。でも、こうして君達は森の外に出てきてる。そう、出て来ざるを得ない理由があるんだ」
ハレの顔がみるみる青くなる。
「森の中で何かあったんだね。しかも『碧落楽団』の戦力を持ってしても解決できない事、な訳だ。あるいは、『碧落楽団』の中で何かトラブルが起こってる、とか?」
「シノ! この人怖い!」
既に涙目になっているハレを宥めながら、シノが口を開く。
「……流石、概ねその通りです。その上でこちらから交渉したいことがあります」
「うん、そうだと思ったよ。まず聞こう」
「私達がお出しできる物は『虫喰みの森』の地理と道案内です。皆さんには『虫喰みの森』の奪還を依頼したいです」




