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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
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act.2【虫喰みの森と晴空の射手座】6

管理区域六-二十三。


冬は深い雪に閉ざされる辺境の地域であるが、春夏秋は多様な顔を見せる、自然に包まれた区域である。特に晩春は満開の桜に囲まれた美しい村として知られている。


ウテナたちが訪れた四月の半ば。日本の中でも北部に位置し、桜前線の殿を担うかのようにもどかしく開花を待つ場所。まだ満開には程遠い桜に迎えられながら、四人はこの地に降り立った。


「ようこそおいでなさいました。区域管理者の稲田と申します」


稲田、と名乗った男は慇懃に頭を下げた。


神造機二名にその花婿二名、調査任務とすると過ぎたる陣容である。


ただ。


「ああ」


「美羽、少し落ち着いた?」


「はい……すみません。お見苦しいところを」


「ねえねえ! 美羽! サクラだよ! サクラ! 人工列島にもこんなに沢山咲いてる場所ないよね!」


表情が乏しく何を考えているか分からない男、そもそも何も考えてなさそうな男、到着の時点で虫の息の神造機、全く話を聞いてなさそうな神造機。


(……この人たちで大丈夫なんだろうか?)


稲田は、胸に過る不安を拭えなかった。


----------


「……これが、『虫喰みの森』か」


到着もそこそこに、四人は今回の目的地である場所へと向かった。決して大きな森ではない筈だが、まるで無限に続いていきそうなほどに入り組んだように混生しており、空を覆う暗緑の葉は、陽光を通過させることはなく、幽闇の奥行きを演出していた。


リコが見つけてきた報告書によると、森の中には巨大な昆虫が生息しているとのことであるが、少なくとも外観からそれらの姿を捉える事は出来なかった。それどころか、現在四人がいる地点からは一切の生命の気配もなく、まるで打ち捨てられた住居のような印象さえ覚える空間であった。


『事の発端は、区画の子供が一人で森の中に入った事でした』


稲田の話によると、どうやら管理区域六-二十三で暮らしている十二歳の少年が、何かに導かれるようにフラフラと森の中へ入って行ってしまい、そこからぱったりと消息を絶ってしまったとの事であった。友人が区域の大人に知らせ、少年の捜索隊が結成された。


大人十人からなる小規模の捜索隊であった。彼らは森の近くにベースキャンプを構え、準備を万端にし捜索に進むつもりであった。


が、しかし。


いざ捜索へ、という日の朝。


森が、移動を始めた。


森からしてみれば、ほんの数十メートルの移動。


だがその移動は、捜索隊の気勢を削ぐには十分すぎた。


ベースキャンプは移動してきた木々に蹂躙され、捜索隊は瞬く間に森の中へと誘われた。


それでも意を決した捜索隊は、奥へ奥へと歩を進めた。簡素ではあったがある程度の装備を整え、道中のトラブルにも対応できるように心算していた。


つもりだった。


巨大な昆虫が闊歩しているという情報はあった。それらが、どのくらいの規模で存在しているかは、知らなかった。


そして、それらが人間に対して、敵意を持っているという事実を知らなかった。


満身創痍で逃げ帰った捜索隊は、口々に『巨大な兜虫に追いかけられた』『蝶に幻を見せられた』『蜘蛛のような女を見た』と受けた被害を報告していた。


以降、依然として少年の捜索は打ち切られたままである。


----------


「……って事は、今回の任務は、あくまで調査って名目だけど」


「場合によってはその子の捜索も、って事ですね」


「セルゲイ? 何してるの?」


セルゲイは森の入り口に落ちている葉っぱや枝を、手に持った何かの機械に当てている。


「調査は調査で進めないとな」


「それは何の調査?」


「局長から渡された機械に、虫喰みの森の木の組成を登録させている」


「えっ、いつの間にそんな機械貰ってたの?」


「お前らが来るまでの間、かなり時間があったからな」


「ああ、そういえば具体的な調査の内容とかも聞いてませんでしたね」


「その子供の捜索には諸々準備が必要だろうが、出来る事からやっていくぞ」


「それ、葉っぱとか機械に読ませるだけなんだ?」


「ああ、これでデータが本部に送られる。後は本部で解析されるらしい」


「ほーん、便利ねえ」


その後も次々とデータを送り続けるセルゲイ。葉っぱ、枝、時には樹木そのものなどにも機械を当てていく。


「この作業は俺に任せて管理区域に戻っててもいいぞ」


「ううん、私は一緒にいるよ、美羽たちは?」


「そうですね、なら私たちは戻って情報集めでも……」


突然美羽の言葉が止まる。後方に僅かに視線を遣り、直ぐに目線を戻した。


「美羽?」


「ウテナ、そのまま聞いてくださいね」


声色の変化が、美羽が警戒態勢に入った事を伝えていた。


「見られてます。誰かに」


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