act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】28
「なるほどね、話は大体分かった。お疲れさま、みんな」
カルカヤの診療所にあるパソコンからS.H.I.P.本部の来栖空斗へ映像を繋ぎ、本日あったことの報告を行なっている最中だった。
「しかし、色々と腑に落ちない点はあるね」
「腑に落ちない点、ですか?」
「うん、まず一番大きなところ、何故こんな小さな町にわざわざ戦力を投入したのか、ということ」
「それについては、まあ」
ここまで言ったところでカルカヤが口を閉じる。大きい方の男が言っていた『美羽がいたから』というところまで言ってしまうと、きっとこの子は自分を責めるだろう。少なくとも全員がいる場で伝える事実ではないと考えた。
どうやら一瞬の沈黙でそれを察した空斗が話を続ける。
「それについては推測を巡らせても仕方ないことだね。みんなよく頑張ってくれたよ。ゆっくり休んでくれ、と言いたいところではあるんだけど」
「けど、なに?」
「申し訳ないけど、君達にはまた別の任務を頼みたいと思ってる。一回本部に戻ってもらっていいかな?」
「別の任務、ですか?」
ウテナは美羽を見る。普通に歩けてこそいるが、まだ左腕は吊っている状態であり、とても今すぐに何か、と言う感じではない。
「空斗さん、美羽の怪我はどうするの?」
リコも同じことを心配してくれたみたいだ。
「ああ、そうだね。今回の任務は調査がメインになると想定している。それに、君達の共同任務って形にしようと思っているから、もし戦闘が必要な場合はリコにお願いするよ。元々はリコとセルゲイ君に頼もうと思ってた仕事なんだけど、まあ、ウテナ君と美羽は研修だと思ってくれればいい」
「ああ、なるほどです。それなら」
「まあ、今すぐにって訳でもないから、一旦家に寄ってから明日にでも来てもらえるといいかな」
………
ということで。
「ーーー声帯を認証。リコリス・ビスコッティ様、ようこそおいでなさいました」
四人は人工列島-アロイ・アイル-に向かうため、日本のP.o.r.t.a.l.に向かった。
「登録したんですね、リコ」
「色々便利だよ。美羽も後で登録しといたら?」
「オーダーを受諾。P.o.r.t.a.l.起動します。座標指定を開始、対象地点名称、S.H.I.P.。準備中です。
ーーーオールグリーン。接続します」
「美羽、蓮見くん、先にどうぞ」
「じゃあ、そうさせてもらいますね」
「来栖美羽様、いってらっしゃいませ。貴方の行く先に、幸せがありますようにーーー」
「俺も先、いい?」
「もちろん」
「ゲスト様、いってらっしゃいませ。貴方の行く先に、幸せがありますようにーーー」
………
「怪我人の方は何とかなりそうかい?」
「何とかするよ。そこからはアタシの仕事さね」
四人が診療所を出た後、カルカヤと空斗は事後処理について話し合っていた。
「倒壊した建物の修繕費用とかは出来る限り補填するよ。ただ最近は上の方もケチでね」
「そこはアンタの腕の見せ所よね。期待してる。あ、あと支援物資のリスト見たんだけど……」
事後処理の手際は見事なものであった。次々と問題点が挙がっては解決されていく。
「ところで」
一息ついたところで、空斗が切り出す。
「カルカヤさん、何か上の空だね。どうかした?」
「ああ、うん、そうね」
表面に出さないように気を配っていた筈だが、空斗は恐ろしいほどに勘のいい所がある。カルカヤの疑念は二つ。一つは美羽の傷の治りがやけに速かったこと。『言祝ぎの送り手』を使い、もともと優れている美羽の治癒力を上げたとしても、いくら何でも速すぎる。そしてもう一つは。
「襲撃者の正体は調べてるけど、情報が少なすぎてね。街頭のカメラの映像とかを解析してるけど、時間はかかるだろうね」
「ん、まあ、仕方ないか。まあ進めてくしかないわね」
「ひょっとして、他に不安なことでもある?」
やはり、この男は恐ろしいほどに勘がいい。
「大したことじゃないわ。大丈夫よ」
「カルカヤさんは大丈夫じゃない時も大丈夫だって言うからね。心配だよ。僕も昔とは違ってある程度の悩みくらいなら解決できる力もある。カルカヤさんの為なら全力を尽くすよ」
「……何言ってんの、ガキのくせに」
「……照れた?」
「ナマ言ってんじゃないよ、下の毛も生え揃ってないヤツが」
「流石に生えてるけど!? 23歳だよ!?」
そんな軽口を叩きながらも一旦事後処理の確認は終了した。
「こんなとこかしらね。本当に助かったわ」
「お安い御用だよ。また何かあったら連絡して。あ、それと」
「それと?」
「本当に悩みがあるなら言ってよ。カルカヤさんは僕にとっても大事な人だからね」
「……んだよ、口説いてんの?」
「あはは、本心だよ。じゃあまたね」
そう言い通話を切る空斗。しばらくパソコンの前で立ち尽くすカルカヤ。
「……ほんっと、クソガキの癖に」




