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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
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act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】27

謎の男達と怪腕の襲撃を凌ぎ、ウテナ、美羽、カルカヤ、リコ、セルゲイの五人は診療所に集まっていた。


『……なーんで、美羽ちゃんがこんなに怪我してるのにアンタは無傷なんだ! 女の子も守れないのによく童貞は守ってるよね!』


(……とか、言われると思ってたけど)


「一般人の死者は0、怪我人はまあ、それなりだけど、よくこれで収まったもんだわ。アンタらがいなかったらどうなってた事か。ありがとうね。リコもセルゲイも、ごめんね、仕事明けで疲れてるところに」


「ううん、謝んないでよ、カルカヤさん」


「美羽ちゃんも、ごめんね。私の見立てが甘かった」


「あ、いえ、そんな事は」


右前頭部挫創、左肺挫傷、脾損傷、左上腕骨骨折、左橈骨骨折、左側の第四-七肋骨骨折、左脛骨骨折、腓骨骨折、その他全身に散在する打撲。


普通に考えれば死んでいてもおかしくない重傷。


にも関わらず、美羽は存外余裕そうだ。


「今すぐ治すから。そこに寝て」


そう言いながら美羽に触れるカルカヤ。こういう時の治癒能力遣いほど心強いものはない。


「ウテナ」


「はいっ」


突然カルカヤに声をかけられ思わず背筋が伸びる。ここでお叱りの時間だろうか。


「……」


カルカヤは何も言わずにウテナの顔から左腕へ向けて視線を動かす。そして。


「……使ったんだね」


その一言で、カルカヤが何を言いたいか理解した。


「あ、でも、ほら、全然大丈夫ですから」


そう言いながら大袈裟に左腕を回して見せるウテナ。動かした時に肩に多少の痛みは走るが、周囲を心配させないように必要以上に気丈に振る舞った。


「ごめん、アンタにも苦労かけたね。後でアンタも診るからちょっと待ってて」


そう言いながら治療を続けるカルカヤ。


「ねえねえ、蓮見くん」


待っている間、リコに声をかけられる。


「使ったって、何を?」


「あ、えっと……」


「あ、ごめんね。言いたくない事ならいいよ。完全なキョーミホンイ?ってやつだから」


「いや、そうじゃなくて、どこから話したらいいものか。えっと、まず俺、父親いないんだけど」


「いきなりめっちゃ重いじゃん」


「5歳かな? くらいの時に母親に施設に預けられたんだよね。そっから親とは会ってない。姉ちゃんも居たんだけど、それっきりだな」


「待って、聞いた私が悪かったかも」


「んで施設で暮らしてたんだけど、あんまりその辺よく覚えてないんだよね」


「……本当に、軽い気持ちで聞いてごめん」


「そんな気にする事ないよ。マジでその時の記憶ないから辛い記憶もないし」


「……悪いが、もう一つ、気になっている事がある」


ここまで静かに話を聞いていたセルゲイが口を開く。


「……これでしょ?」


そう言いながら自分の左手に視線を落とすウテナ。青黒く脈打つ腕がそこにあった。


「俺も怪腕と言うものは数える程しか見た事がないが、いずれも共通しているのは外皮の色調だ」


「この色ね」


「怪腕が何処から発生してどういう生態なのか、殆ど分かっていない。未だに謎だらけの生物だ。そして、俺は『身体の一部が怪腕になっている』生き物は初めて見た。……だが」


そこまで言い、言葉を紡ぐのを躊躇うセルゲイ。


「うん、俺もそう思う」


段々と沈んでいくセルゲイの声色とは逆に、あっけらかんとしたウテナの声。


「もしかしたら怪腕が、『俺みたいな生き物の成れの果て』だったらって事だよね?」


セルゲイは少し間を置き、やがてウテナの目を見てゆっくりと頷いた。


「ああ、それをS.H.I.P.で調べてもらってんだよね。まあ、監視の意味もあるんだろうけど。んで、身体のメンテナンスのドクターがカルカヤさんだった訳よ」


「なるほど、それで主治医って事だったんですね」


「ああ、そういうことだったんだよ。まあ、だから俺がいつ怪腕になってもおかしくは無いんだけどな、あはは」


「そのジョークは蓮見くんしか言えないよ……」


「でも、結局それでもウテナはウテナですよね?」


「まあ、それはそうだけど……って美羽!?」


先程まで死にそうな重傷だった美羽が、いつの間にか話に混ざっていた。


「カルカヤさん凄いですね! 私も怪我とか治るの速い体質なんですけど、こんな速いのは初めてです!」


「って言っても、折れた骨はくっついてないし、まだ寝ててほしいんだけどね」


「さっきの話の続きですけど、ウテナが将来怪腕になっても私は関係ないです。もしも、本当に万が一、ウテナが暴れちゃったら私が止めますから」


「……その止めるって言うのは?」


「そうですね、とりあえず動けなくなるまで……」


「動けなくなるまで?」


「私が殴られます」


「だからダメだって!」


そう言いつつも、ウテナは内心救われた気分になっていた。身中に怪物を孕んだ自分を受け入れ肯定してくれる存在は、ウテナにとって何よりも有難いものだったのだ。


「そう言えばウテナ。カルカヤさんが兄に連絡するって言ってたので、私達も報告に同席しましょう」


「そうだね、行こうか」


そう言いながら、スタスタと歩き出す美羽。


「……あれ、本当に折れてるんだよね?」

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