act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】26
「どうやら邪魔が入ったみたいだ」
白衣を着た背の低い男が、大男に向けて呟く。
「ふむ? 邪魔、か?」
「別の神造機の介入だ」
「ああ、増援を呼んでいたのか。強かじゃな」
そう言いながら、大男は膝をついて肩で息をするカルカヤを見る。目立った外傷はないが、その疲労は普通ではなかった。
(……息が上がる。毒……じゃない。酸素が薄くなってる訳でもなさそうね。まるで気道が直接塞がれてるような)
「下がるか。残った怪腕を呼び戻す。と言っても一匹だけか」
「口惜しいの。折角いい女と遊ぶ機会だったんじゃが」
わざとらしく落胆したように肩を落とす大男。ポケットに仕舞っていた右手を出した。
「ッ!」
急に呼吸が楽になる。新鮮な空気が過剰に肺へと流入した反動で激しく咳き込むカルカヤ。
「仕方ないのう、今回は儂等の敗戦か。であれば、せめて傷少なく帰還するとしよう」
「……待ちなさい!」
地に伏した姿勢で、咳き込みながらも二人を睨みつけるカルカヤ。
ここで逃がしてはいけない。こいつらがした事も、こいつらの目的も、何も分かっていない。
「古典通り引き留めるのはいいが、今のお前に何ができる?」
「言っておくが、コイツは儂より強いぞ」
「……ッ」
「お前では手も足も出ないような相手二人を追い返した。それだけで値千金の働きだろう」
「それで『はいそうですか』って帰らせる訳にも行かないのよ……!」
「……思ってたより聞き分けのない奴だな」
「困ったのう、ここで殺してしまってはシナリオに支障が出るな」
「いい、気にせず帰ろう。門を開け」
「心得た」
「……待てって言ってんの!」
帰還しようとする二人に向けて走り出すカルカヤ。
しかし。
「ッ!?」
何かに足を取られ、その場に転倒した。
「ほら、言わんこっちゃない」
(まただ。何かに躓かされたような。今までそこに無かったものが急に現れたような。……まるで、足を掴まれてるみたいだわ)
「すまんな、もう少し遊んでやってもいいんじゃが、ここでお別れだのう」
声に反応して顔を上げるカルカヤ。
そして。
「……?」
二人の男はP.o.r.t.a.l.のような物に吸い込まれ、消えていった。
「……今のは、P.o.r.t.a.l.? なんで、アイツらが持ってるのかしら」
そして、カルカヤの脳裏によぎった、もう一つの違和感。
(あのデカい男、消える前、少し小さくなってなかった?)
「ッ、そうだ、町は」
カルカヤが町の様子に注意を向けた瞬間、スマートフォンが鳴る。電話の主は。
「カルカヤさん、大丈夫ですか?」
「美羽ちゃん、そっちこそ。今どこにいるの?」
「今、診療所に向かってます。ウテナも一緒です。リコが来てくれたので、町の方はリコにも守ってもらってます。とりあえず、人型の怪腕は倒しました」
「わかった、お疲れさま。……多分、もう怪腕はいないはず。アタシも診療所に戻るわ」
そう言い通話を切る。
色々と気になる事は山積みだが。
「……まずは、被害状況の確認と、負傷者の手当ね」
今出来ることをすべく、カルカヤは診療所へと足を向けた。
アルセウスとマスターデュエルに時間を奪われて更新が滞っています。すみません。
えのき




