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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
25/46

act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】24

ーーーあれ?


確か、瓦礫が、頭に当たった筈。


完全に意識を持ってかれるような当たり方だったような。


いつの間にか横になっている。


瓦礫が当たったことは確かだろう。


一瞬、ほんの一瞬だけ、記憶に空白がある。


一瞬で戻ったところを見ると、よっぽど当たりどころが良かったのだろうか。


頭に手を運ぶ。出血もしていない。


そんな事が、あるか?


よくよく考えてみると、瓦礫を受けていた他の部位、身体全体に鈍い痛みは残っているが、動かない所はない。


「……どういう事?」


「ウテナ」


ふと、優しい声をかけられる。


「……美羽?」


「よかった、無事みたいですね」


頭の上から聞こえた声の主は、美羽だった。


「……あの家族は?」


「大丈夫です。ウテナが盾になってくれたおかげで怪我はありませんでした」


「そっか、よかった」


「でも、このまま逃げ続けるのもきっと大変です。それに、他の人も巻き込んでしまうかもしれません。だから、ここで怪腕を止めます」


「止める、って?」


「私に任せてください」


そう言うと、怪腕の方へ向けて歩き出す美羽。


「……美羽!」


美羽が振り返る。その姿を見て、ウテナは言葉を失った。


ボロボロだ。


頭からは流血し、僅かに見える首元や手の甲などには青痣を作っている。


まさか。


「機能を……使ったのか……!?」


ちょっと困った様に笑う美羽。


「ウテナも、自分の身を犠牲にして私達を護ってくれました。私がウテナを護っても、文句は言わせませんよ」


「いや、だって、そういうことじゃ」


「だいたい、私ちょっと怒ってるんです。私には傷ついてまで誰かを助けるのはやめろって言う癖に、自分は傷ついてもいいなんて。本当に、自分勝手で、不器用で。だから私は、心から、ウテナの神造機になれて良かったと思います」


人型の怪腕は目前まで迫ってきている。美羽に引く様子はない。ボロボロの身体で、立っているのもやっと、といった様子で、いったい何が出来るのだろうか


「私の機能の一つは、傷を受け取ること。そう言ったと思います。神造機は、まず基本的に持っている機能があります。これは任意のタイミングで使える機能です。私で言うところの傷を受け取る機能ですね」


昨日、カルカヤの診療所でウテナの傷を治した機能。そして、たった今、ウテナの全身の傷を治した機能の事か。


「そしてもう一つ、神造機として電源を入れる事で使える様になる機能があります。それは、前述の機能の強化の延長線上や、全く種類の違う機能である事もあります」


「全く、種類の違う?」


「ええ。ーーー起動(アクティベート)。『被虐(ハームフル)聖女(キュア)』」


起動の合図と共に、美羽の身体が淡く光出す。


「ーーー接続(リンク)!」


そして、怪腕の左腕がゆっくりと持ち上がり。


「ウテナ、ちゃんと逃げてくださいね」


美羽に向けて、振り下ろされた。


「……ッ!?」


まるで、人体が鉄塊とぶつかる音。ゴキリ、と、何かが砕けるような音を放ちながら、美羽の小さな身体はゴムボールの様に跳ね、家屋の壁に叩きつけられた。


だが、それだけではなかった。


美羽が吹き飛んだのと同じように、怪腕も、まるで何かに殴られたように吹き飛んだ。


「……美羽!!」


急いで美羽に駆け寄るウテナ。家屋の崩れた壁を急いで退かし、美羽を救い出す。


「美羽! 美羽!?」


「……ウテナ、早く逃げてください。私が生きているってことは、怪腕も生きてます」


げほっ、と血の塊を吐き出しながら、それでも逃亡を促す美羽。


「『被虐の聖女』の機能は、発動中に受けたダメージを対象と共有します。きっと暫くは動けないでしょう」


「美羽、そこまでして……」


怪腕がゆっくりと身体を起こす。


「嘘、もう……?」


それもそうだ。美羽は怪腕と違い、機能の発動前から満身創痍だったのだ。今の一撃で受けたダメージは同じではあったものの、それまでに蓄積されたダメージまでは共有できない。故に、美羽の想定よりも怪腕の体力は残っていたのだ。


「ウテナ、ごめんなさい。思ったよりも足止め出来なそうです。でも、もう一度『被虐の聖女』を起動したまま攻撃を受ければ」


「駄目だ。そんな身体で耐えられる訳ないだろ」


「でも、全滅するよりは全然いいです」


「そんな訳ない!」


つい感情的になる。この少女は此処で命を捨てる覚悟だったのだ。


「美羽、ごめんな。俺の甘さが美羽を傷つけた」


「……どういうことですか?」


「俺も、覚悟を決めなきゃ駄目だったんだ。覚悟が足りなかったのは、俺だ」


「そんな事は……」


「美羽、あとは俺に任せて」


そう言うとウテナは、左手に履いた手袋を脱いだ。


そこにあったのは。


「……腕……?」


怪腕の腕と同じ、青黒く変色した左腕だった。


そして、美羽から貰った指輪に、左手の薬指を通す。


「『ーーー死が二人を別つまで』」


「契約……を?」


「これで、俺は美羽の花婿(グルーム)になったって事、だね?」


「……はい、花婿様、健やかなる時も、病める時も、身命を賭して貴方をお護り致します」


「でも、今から護るのは俺の方だ。行ってくるよ、美羽」


怪腕に向かって歩を進める。自分より遥かに大きい相手。ダメージを受けているとは言え、サイズの差による力の差は簡単に埋められるものではない。


「---上等!」


そんな事は関係ない。自分の後ろには護りたい人がいる。それだけで十分だ。


怪腕がゆっくりと右腕を振りかぶる。そのまま殴りつけようとしているのだろう。左腕は折れているのか、動かそうとしない。


迎撃する。


左腕に力を込めると、腕が焼けるようだ。左腕がその他の身体を侵食するような、そんな感触。呪いにも似た、忌まわしき力。


全部纏めて、飲み込んでやる。


「偶には、力を貸しやがれよ!」


左腕を大きく振りかぶり、接近してくる、ウテナの身体よりも大きな拳に向かって叩きつけた。


全長四ー五メートル、体重は千キログラムにもなろうかという怪腕。その拳を、身長一七〇センチメートルの蓮見蕚が受け止める。


そして。


「ああああッ!!!」


弾き飛ばした。


攻撃を受け止める際に支えにした左脚が痛む。完全に骨が砕け潰れたような感覚がしたが、折れていないようだ。


まさか。


「美羽!?」


骨折を、受け取ったのか。


吹き飛ばされた人型の怪腕は、ゆっくりと身体を起こそうとしている。本来ならば折れていた筈の左脚。もう一撃は受けられない。


関係あるか。


もう一撃は受けられないことも、怪腕が体勢を整えていることも、どうでもいい。


来栖美羽を、護る。


「……来るなら来いよ!」


怪腕がゆっくりと距離を詰め、そして再び右手を振りかぶる。


迎撃の姿勢をとるウテナ。


そして。


起動(アクティベート)。『要塞戦姫(フォートレス・アクトレス)』」


突如、号砲が火を吹く音が響き、怪腕の身体が爆発し、その場に倒れ込む。


何が起こった?


「蓮見くん、大丈夫?」


重厚な爆発音にそぐわない、鈴を転がしたような声を聴く。


「……リコリス、さん?」


「リコでいいよ」


そこにいたのは、S.H.I.P.の隊服に身を包んだリコリス・ヴィスコットとセルゲイ・アルバカム。


「助けに来たぜ、蓮見くん」


タピオカの入ったプラスチックコップを啜りながら、ウインクを飛ばした。

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