表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
20/46

act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】19

ほぼ同時刻、同じ町。


診療所から少し離れた家屋の上から、ウテナと美羽の様子を伺う影が二つ。


一方は袖の長い白衣に身を包んだ、目つきの悪い、神経質そうな小柄な男。容姿は十代前半の少年と言っても疑問を持つ者はいないだろう。


もう一方は、袖の無い白衣に身を包んだ巨大な男性。身長は2mをゆうに超えており、横幅も中肉中背の成人男性を3〜4人並べた位の大きさであった。


「……ほぉん、あれが“来栖の姫”と言うわけか」


「ああ、今はまだ取るに足らない雛鳥のような物だ」


巨大な男の発言に小柄な男が答える。


「……なんぞ、含みのある言い方じゃの。あの姫さんが鳳になる未来でも見えたか」


「さて、どうかな。どちらにせよ、彼女が行く道は平坦ではない、っていうのは間違いないようだが」


「ガハハ、よく言うわ。姫さんの進む道に正に今、障害物を放ろうとしているモンが」


そう言いながら、巨大な男が円環を取り出す。P.o.r.t.a.l.で見たものと外観は似ているが、こちらは持ち運び出来そうな程度の大きさだ。


「其れでは、戦争じゃな。儂らの駒は、獣型の怪腕(オルワンデル)が五体、人型が一体。少ないのう」


「ここで芽を摘み取る気はない、ということだろうな。相手は来栖の姫と言祝ぎの送り手 (ギフト・ウンド・ワンド)か。まあ、この程度の嵐も超えられないようであれば、沈んでもらう他ないのだが」


「然もありなん、じゃな。さて、災厄を放つぞ」


巨大な男が持った円環が妖しく光る。そして。


空間を裂くようにして、四つ足の獣が出現した。その肌は青黒く脈打ち、その顔は苦痛に顔を歪めた狼の如く。肥大した前脚を疎ましいような様子を見せる。


少し遅れて、同じく青黒い肌をした《人型》と呼ばれた生き物も現れる。体長は5-6m程にもなり、両腕は異様な程に肥大化し、大兜を被った異形の存在だ。


「準備は出来たぞ」


「ああ。さあ、始めようか。これが、永きに渡る戦争の引き金となるだろう」


ーーーーーーーーーー


青黒い異形の怪物が出現したのとほぼ同時刻、ウテナと美羽は海岸沿いを歩いていた。


厚い雲が水面に映り、やや重たげな色をした海色を湛えている。海からの風はまだ冷たく、上着を持ってくればよかったかな、とウテナが思い始めた頃だった。


「私、砂浜って初めてです」


人工列島-アロイ・アイル-は、読んで如く人工的に形成された島である。水上に浮遊する、水よりも密度の小さい特殊な合金からなる領土の上に、人間の住むことが出来るように土を敷き、その上に生活圏を築いたものだ。その特性上、砂浜などを形成することは難しく、断崖状の海岸線を形成していた。


それ故に、人工列島の居住者の中には、砂浜を見た事がない層も珍しくないのだ。


「この海の向こうに、私達の家があるんですね」


「うん、でもここからじゃ見えないな」


「不思議ですね。まるで地球の果てまでも手の届く場所にありそうなのに、見えるのは空と海の境目だけ。ウテナ、知ってますか? 実は水平線までの距離って、5kmくらいしかないらしいんですよ」


「5kmか。全然走れる距離だな」


そうですね、と美羽が小さく笑う。


「自分が見える範囲であれば、行けないことはない」


「ええ、素敵な考え方だと思います」


そう言うと、再び水平線へ目を向ける美羽。それに釣られるようにしてウテナも同様に海の向こうを見つめる。


暫しの静寂。ウテナがポケットに手を入れ、美羽から預かった指輪を取り出す。


契約。人間と神造機が互いに指輪を嵌め、一節の言葉を述べる。そんな簡単なことだ。


そう、それは、簡単なこと。


それ自体に特別な意味はない。


例えるならば、それは幼児がするお飯事だ。


少なくとも、蓮見蕚にとっては。


であれば。


「……と、いう訳にもいかないんだよな」


「?」


意気地がないのが蓮見蕚である。ここでノータイムで契約できるようであれば、17年間女性経験なしの蓮見蕚はこの世界に存在しないだろう。


「ウテナ、そろそろお腹空きませんか?」


曇り空のため太陽の位置がよくわからないが、時刻を確認すると確かに昼時だ。


「そうだね、何か食べたいものある?」


「何かオススメありますか?」


「えーとね……」


ウテナが幼少期の記憶をひっくり返し、食事処を探していた、その時である。


町の方から、何かが崩れる音が轟いた。遠くからでも分かるくらいの土煙が舞っている。


「……なんでしょうか? 地震?」


「……いや、揺れてない、はず。……とりあえず、何でもないって事はなさそうだな」


「そうですね。行きましょう!」


なんだか嫌な胸騒ぎだ。カルカヤや町の人は大丈夫だろうか。


二人は土煙を目印に、町の方角へ走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ