act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】①
ーーー超常の欠片。人間が構成する社会単位の中で、人間の持つ科学力により構造を説明し得ない生命体、または物体、場所。それらを総称して”現象”と定義した。
超常の欠片は、それが人間社会に与える影響を考慮され、 DからSでそれぞれランク付けされている。
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目覚ましが鳴る。
蓮見蕚は、その音により睡眠から現実へ引き戻された。
日常の起床時間よりも少し早い時間での起床、強引に起き上がることでまだ上手く働かない頭を強制的に覚醒させる。
いつもの悪夢、いつもの鬱積とした目覚め。
それが、蓮見蕚、17歳の毎日の始まりであった。
枕元のスマートフォンの画面をつける。新規の連絡の通知は一件。後見人である奥橋耕三からだ。『9:00にS.H.I.P.本部、時間に遅れないように、って莉香が心配しているので連絡しておく』と非常に簡素な文面であった。ちなみに莉香と言うのは奥橋耕三の交際相手なのか、不倫相手なのか、そこら辺の事情については深く立ち入らないようにしている。
顔を洗い、歯を磨き、軽くシャワーを浴び、パジャマを着替え、手袋を履く。起きてから外出できる状態になるまで15分。約束の時間は今から1時間後、約束の場所は歩いて30分程度。今から出れば十分すぎるほど間に合う。
そんなことを考えていると、電話が鳴った。
画面には『莉香さん』と表示されている。
「はい、もしもし」
「私だ、起きてるな?」
「おかげさまで、なんとか」
「起きてるならメールに返信しなさい。まあいい、気をつけて」
そう言うと電話は切れた。ウテナにとって、耕三はいいかげんな父親のような存在だが、莉香は心配性の姉のような存在だ。
外を見ると、雲ひとつない快晴。意味もなく回り道してみるのも良いだろう。出発予定時刻よりだいぶ早いが、ウテナは外出する事にした。
「いってきます」
誰もいない部屋に向けて呟く。誰に向けて言うわけでもなく、誰かに届くことを望んでいるわけでもないが、ウテナは外出前の挨拶を欠かしたことはなかった。
『ウテナ、行ってきます』
遠い昔に聴いたような気がする、暖かくて優しい声。脳裏に響いたのは、誰の声だったか。しばらく考えてみたが思い出せそうもない。芽生えた疑問はひとまず置いておいて、いまに目を向け、外に出た。