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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
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act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】16

「……えっと、どうしましょうか……ウテナ」


「……それね」


夜。カルカヤに『泊まっていきな! 大丈夫だから! 一日くらい! 今すぐの任務もないんでしょ? いいから! 本部にはアタシから連絡しとくから!』と、強引に一晩、診療所の空いている部屋に泊まることを決められてしまったウテナと美羽は、途方に暮れていた。


それもそのはず。


案内された部屋は、ベッドが一つしかなく、更に床には【Don't sleep here!】とあちこちに張り紙が貼られていたのだ。


「カルカヤさん? ちょっと話いいですか」


「駄目だ」


「別の部屋ありますよね?」


「ないよ」


「嘘をつくな嘘を」


「アンタらに貸すための部屋はここだけだ」


「じゃあせめて寝床をもう一つください」


「ないよ」


「ここ病院でしょ」


「ウチは入院やってないからないよ」


「診察室にあるでしょ」


「夜中に急患が来たらどうするよ」


「その時は起きますから」


「アンタはきっと起きない」


「叩き起こしていいです」


「患者の前でそんなこと出来るか」


「カルカヤさん、患者の前でめっちゃ酒飲んでましたよね?」


「うるさい。だいたいアンタらも昨日一緒の部屋で寝たんだろ」


「同じベッドでは寝てないです。俺が床で寝ました」


「主治医としてそんな不健康なこと見過ごせるか、もしアタシが夜中見廻りに来て同じように床で寝てたら酷い風邪ひかすからな」


「本末転倒すぎませんか?」


「じゃあな、不定期的に様子見に来るからな。ちゃんと二人でIIになって寝るんだぞ」


「その表現初めて聞きました」


「でも不純異性交遊はナシだからね」


「一緒の布団で寝ろって言った側からそれって生殺しがすぎませんかね」


「美羽ちゃんに聞こえてるよ」


「あっ」


「いや、その、……私は大丈夫ですから」


「そういうつもりじゃないんだって!」


「ハハハ、気まずい気まずい。それじゃあな。朝になったら夕べはお楽しみでしたね、って言ってやるからな」


「えっ、ちょっと!」


そう言うと疾風の如く退室するカルカヤ。二人きりになった部屋には気まずい沈黙が流れる。さっきの言い争いについては、お互いに謝罪はしたものの、思想の擦り合わせは一切できていないのだ。更に厄介なことに、カルカヤも言う通り、これについては議題について、お互いが持っている結論が真逆であるにも関わらず、『どちらが正しい』という解がないのだ。


「えっと、じゃあ俺、床で寝るから」


「いや、それは駄目です。昨日も結局ウテナが床で寝たんですから」


「俺さ、一個気づいたんだよね」


「気付いた?」


「俺、床で寝るの得意かもしれない」


「……」


「あ、ごめん、そんな目で見ないで」


「……得意、って言葉の真意を計りかねるのですが、少なくともプラスの評価にはなりませんね……」


「いや、最後まで聞いてよ。ほら、昨日も床で寝たじゃん? でもさ、起きたときに全く身体が痛くなくて。俺、床で寝る才能があるんじゃないかって思ったんだけど」


「……あっ」


「あっ?」


「そ、そうですね。ウテナは床で寝る才能がありますよ、きっと。もう、存在が床っていうか。あはは。」


「存在が床……?」


急に訳の分からないことを言い出す美羽と、不審がるウテナ。ウテナがぐいっと美羽の顔を覗き込むと、美羽は視線を右上に泳がせた。


「……美羽」


「……はい」


「……機能、使った?」


美羽の身体が小さく跳ねる。整った顔にタラーッと汗が伝う。


「使ったんだ」


「……使いました。肩も背中も痛いです」


目を逸らしたまま、バツの悪そうな声で白状する美羽。美羽を気遣って床で寝たつもりが、逆に彼女に負担を掛けていたようだ。


ただ、先程喧嘩になりかけた経緯もあり、美羽も機能を使ったことについては多少の引け目はあるようだ。最も、彼女は「機能の行使により生じる自身への弊害と、それについて気を遣わせること」について罪悪感を持っている訳ではなく、「機能を使ったことでウテナとトラブルになる可能性がある」という事実についての引け目を感じているだけなのだが。


とは言え。


ウテナは悩んでいた。


ウテナが床で寝た場合、美羽が身体の痛みを引き受けてしまう。もう一ヶ所ベッドを借りるのは何故かカルカヤが許してくれない。美羽を床で寝せるのは論外だ。


だとすると。


「……こうするしかないのか」


ウテナ、覚悟を決めろ。


「美羽」


「……はい」


「一緒に寝るぞ」


暫しの静寂。数秒の沈黙の後、美羽が表情を変えずに首を傾げた。どうやら言葉の意味がよく理解できていなかったようだ。


「美羽、同じ、ベッドで、隣で、一緒に、寝るぞ」


まるで相手だけでなく、自分にも言い聞かせるように、一つのセンテンスごとに言葉を投げかけるウテナ。さながらそれは、薄氷の上を一歩一歩、強度を確認しながら歩く行為のようだった。


再び数秒の沈黙。そして。


「……へえっ!?」


静と動。美羽は顔を紅潮させ、一歩後ずさった。


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