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アーマードマイガール!  作者: 江野木エリ
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act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】15


「……傷を受け取るって、どういうこと?」


「言葉通りの意味です。対象を選択して、その傷を私に移動させる。元々の持ち主の傷は治って、その傷は私に表れる。それが私の能力の一つです」


「……不思議な機能だね。使用そのものがデメリットになる仕様の機能もあるのか。まあでも、話し振りからは即時回復能力だね。即時回復能力って珍しいからね」


カルカヤが赤くなった顔で興味深そうに美羽の手の甲の傷を覗き込む。気がつくと新たなブランデーの瓶の中身が半分なくなっていた。


「即時回復能力?」


「機能の発動と同時に対象を回復させる能力のことよ。アタシの機能も回復は回復だけど、自己治癒能力とか免疫機能の操作だから、発動後すぐに回復、と言うわけにはいかないの。結局のところ治癒能力の強化って事になっちゃうからね」


「なるほど?」


「あんまりよく分かってない顔ね」


「簡単に言うと、ウテナの傷が消えたのは、私の腕に移動したから、ってことです」


「……って事は、美羽はその機能を使うたびに身体に傷が増えるって事?」


「あ、でも、神造機って人間と比べると傷の治りも早いし痛みにも強いので」


「そういうことじゃなくて」


「?」


不思議そうな顔をする美羽。


「痕が残る傷は普通に残るんでしょ」


「ええ、そこはあくまで自己治癒の範囲を出ませんから」


「……だったら、その機能はあんまり使わないでくれ」


「え?」


「美羽は女の子なんだぞ? わざわざ身体に傷が残るようなことしなくても」


「でもウテナ、機能は神造機が神造機であるためのアイデンティティです。私はこの能力をもって私という存在に価値を見出せるんです」



「そんなこと言っても、そんな頻繁に使ったら美羽がボロボロになっていくだけだろ?」


「?」


それの何がいけないんですか?とでも言いたそうな表情を浮かべる美羽。


「いや、だって……」


「人間よりも私たちの方が傷の治りは早いって言いましたね。だったら、人間がずっとその傷を背負い続けるより、私がその傷を貰って短時間で治した方が合理的だと思います。あと、そうですね。例えば他の攻撃性能の高い機能を持つ神造機が損傷した時に、私が傷を請け負うことで再度火力を出せるようになります。結構便利なんですよ?」


「そういう問題じゃなくて!」


「……じゃあ、どういう事なんですか?」


「……それで、美羽が傷ついていい理由にはならないだろ」


美羽の声が少し暗くなったのに気づき、少し言葉を慎重に選ぶウテナ。


「私はそれでいいんです」


「よくない」


ウテナも少し熱くなってしまう。ああ、この流れはまずい。それは分かってはいる。だが、ここは譲る訳にはいかなかった。


「……すみません、ウテナ。ウテナの言う事の意味は分かります。でも、それは感情論だと思います」


「そうだよ、感情論だよ。美羽が無駄に傷つくのが嫌なだけだよ」


「無駄なんかじゃありません!」


「はーい、ストップ」


ヒートアップしてきた2人をカルカヤが制す。


「ウテナ、ちょっと落ち着きな。美羽ちゃんもね。アンタら喧嘩するためにこの話を始めたんじゃないでしょ」


「……ごめん、熱くなった」


「……いえ、私こそ」


カルカヤのおかげで決定的な亀裂にならずに済んだが、依然として気まずい空気が流れていた。その空気を変えるようにカルカヤが口を開く。


「美羽ちゃん、今から1人患者が来るんだけど、対応お願いしていい?」


「えっ、でも」


「大丈夫、来る人に言われた通りに薬出せばいいだけだから。それにほら、こんな酔っ払いで患者見る訳にもいかないでしょ」


「いや、あの」


「あー、ひょっとして免許がどうとかの話? 大丈夫、私も持ってないから」


「持ってないのかよ!」


思わずツッコんでしまうウテナ。


「そりゃそうでしょ。アンタの事を診てた時、アタシ何歳だと思ってんの? 17歳よ、17歳。人間の法律では17歳で医師免許が取れるんですか?」


うっざ。


「この診療所は元々アタシの《花婿》の物だったのよ。その時からの患者だから自分で薬くらい選べるよ」


ああ、なるほど。当時、 (本人曰く) 17歳だったカルカヤが診療所で働いていたのはそういう事だったのか。


「……カルカヤさん?」


「ん、どうしたん。美羽ちゃん」


「すみません、こういうこと、あんまり聞くべきではないかとは思うんですけど」


「いいよ、何でも」


「この診療所は、元々《花婿》さんの物だったんですよね?」


「うん、そうだよ」


「……《花婿》さんは、今は?」


「ああ」


少し寂しげに、小さく笑った後に、カルカヤが言った。


「ーーー死んだよ。アタシが15歳の時に」


「……そう、ですか」


「やだな、湿っぽくならないでよ。んで、そっからはアタシが《花婿》の分までこの診療所を回してるってワケ。幸い機能も回復系だったしね」


「おおーい、カルカヤ」


「あ、来たみたいだね。美羽ちゃん、頼める?」


「はい、行ってきます」


診察室に向かう美羽。休憩室にいるのはウテナとカルカヤだけになった。


「……驚いた?」


「驚きましたよ、色々と」


「何が一番驚いた?」


「カルカヤさんが神造機だったこと、ですかね」


「そこかい」


ハハハ、と笑うカルカヤ。


「……まあ、さっきの喧嘩は、どっちが悪いとかじゃないよ」


「そう思いますか」


「ああ、アンタの言い分も、美羽ちゃんの考えも分かる」


「カルカヤさんは、俺の考えは間違ってると思いますか?」


「いや? そんな事はないよ。美羽ちゃんも言ってたけど、ウテナの意見は感情論でしょ? 感情論に対して正しいとか間違ってるとか、そんな討論がナンセンスよ。感情を正しいとか、間違ってるとか、そんな物でカテゴライズできると思う?」


「……成る程」


「一方で美羽ちゃんなんだけど、まあ言ってる事は正しいよ。でも、正しいだけ。そこに感情とか、そういう混合物が一切ない。そういう意味ではアンタらの意見は対局なんだよ」


「だから、俺は美羽の意見に納得できなかったんですね」


「そういう事。まあでも、アンタの言ったことは少なくとも、美羽ちゃんのことを思い遣っての発言だった。それはきっと美羽ちゃんにも伝わってると思うよ」


「そうだといいんですけど」


「ま、心配なさんなって。お互いのことを思っての喧嘩だから、そんな拗れずに仲直りできるよ。なんならこのカルカヤさんが人肌脱いでしんぜようか?」


「えっ」


「えっ、じゃねえんだわ」


なんだか、嫌な予感がする。

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