act.1 【模造の怪腕と被虐の聖女】12
時空間の旅は、思いの外あっさりと終わった。
「ウテナ、お疲れさまでした」
「美羽、先に行くなら行くって言ってよ」
「あはは」
「お疲れさまでした。P.o.r.t.a.l.日本支部へようこそ。またのお越しをお待ちしております。貴方の行く先に、幸せがありますように」
「あれ、エヴァも一緒に来てるの?」
「あ、本当ですね。エヴァさんだ」
P.o.r.t.a.l.日本支部、と呼ばれた場所には、先程までS.H.I.P.にいたエヴァがいた。
その時、美羽のスマートフォンが鳴った。
「あ、もしもしー、美羽、大丈夫?」
「兄さん、ええ、無事に日本に着いたみたいです」
「よかったよかった。ウテナ君もいるかい?」
「ウテナです。無事です」
「うん、お疲れさまー」
「あの、兄さん。エヴァさんまでこっちに来てるみたいなんですけど」
「ああ、それはサクヤだね」
「さくや?」
「うん、エヴァの後継機というか、同じモデルだね。二つの場所を繋げるのに、どちらにもP.o.r.t.a.l.が必要なんだ。だから現状P.o.r.t.a.l.で飛べる場所ってそんなに多くないんだけどね」
「なるほど、そうだったんですね」
「君らの音声も登録しといたから、S.H.I.P.へ、ってオーダー入れればそこから帰ってこれるからね。じゃあ頑張れー」
そう言って通話を切る空斗。
「何はともあれ、無事に来れてよかったです」
「にしても美羽は、怖いもの知らずだよね」
「何でですか?」
「P.o.r.t.a.l.が変な所に繋がって帰って来れなくなったら、って考えると、ちょっと使うの躊躇しない?」
「うーん、それもそうなんですけど」
「けど?」
「私はどちらかと言うと、躊躇ってる時間に大事な物が遠くへ行ってしまう方が怖いです」
ウテナはハッとした。
そうなのだ。この少女は、これまで自分の知らないところで母を失い、父を失い、姉を失い、妹を失ったのだ。それに加えて、神造機である彼女に残された時間は、人間よりも遥かに少ない。その事実が美羽の思想に影響しているのか、それとも神造機全般に言えることなのか、それについては今のウテナに確かめる術はないが、少なくともこの少女は前に進む事を選んでいるのだ。
「……その通りだ。うん、そう思う」
「ウテナ?」
「よし、行こうぜ! カルカヤさんの所へ!」
「はい! お供します!」
だったら、ウテナのする事は一つだ。彼女がその歩みを止めないように、全力で先を行く事。まずは恩人であるカルカヤに美羽を紹介する。
ところで。
「美羽、ここ、どこ?」
「知らなかったんですか?」




