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あなたはだあれ?

作者: 鈴蘭

「ねえ、夜の学校でかくれんぼしない?」

 その一言で、エミ、ミク、アヤ、ルミの4人は夜の学校に集まった。

 彼女らは小学4年生で、今は金曜日の夜の12時である。場所は通っている小学校の裏口前。


「ルールの確認ね」

 エミがにっこりとみんなに微笑みかける。

「夜の学校は先生が見回りにくるから、鬼は見回りの先生。見つかったらそのまま帰ること。見つからないまま明日の朝8時を迎えた人が勝ち」

 ウンウンと3人は頷く。

「5分ごとにみんなでメッセ送りあうんだったよね?」

 ミクが確認するようにエミに問う。

「そうそう。そしたら、誰かが先生に見つかってたとしたら、その人はメッセが送れないでしょ?だから、嘘はつけないってこと」

 また3人はウンウンと頷く。

「とりあえず、メッセを送れる画面にしてること確認しよ」

 ルミの言葉で4人はスマホの画面を見せ合った。

「OK、準備できたね。じゃ、スタート!」

 そうして4人は思い思いの場所へ駆け出していった。


 この小学校は3棟からできている。

 正門から1番近いのが1〜4年生用の第1棟、中間は音楽室や職員室などがある第2棟、そして正門から一番遠い、つまり今いる裏口に一番近いのが5〜6年生用の第3棟だ。

 アヤは第3棟に隠れることに決め、早速中へと入っていった。


 まだ4年生である彼女らは第3棟に来たことはなかった。

 アヤは興味本位で辺りをキョロキョロと見渡す。もちろん、5分ごとにメッセを送ることも忘れない。

「へえ、予備室なんてのもあるんだあ」

 小さく呟きながら、てくてくと階段を昇る。

 他の3人は、構造がわかっている第1、2棟へ向かったようで、周りには静けさが漂っていた。

 しばらく歩いたアヤは、ふうと息を吐き、3階で足を止めた。

「疲れたし、この辺りで隠れようかな」

 アヤは近くの教室の扉に手をかけた。が、ガタガタと音を立てるだけで開かない。

「やば、音立てちゃった。先生いないよね?」

 シン、と静まっているのを確認し、ホッと胸をなでおろす。

「そっか、鍵かかってるよね。失敗したあ」

 いつも使っている第1棟の3年4組の教室の後ろの扉は立て付けが悪く、少し揺らすと内鍵が開いて中に入れる。

 第2棟の理科室の前側の窓は鍵が壊れていていつでも開けることができる。

 それらを思い出し、アヤはため息をついた。

「みんな目的があって動いてたんだあ。どうしよ」

 アヤは落ち込みつつ、どこか鍵が開いていないかを触って確認しながら3階を歩いていった。すると……

「おっラッキー」

 鍵のかけ忘れか何かだろう。3階の端っこの教室の扉には鍵がかかっていなかった。そこには予備室と書かれていた。

「なんだか予備室多いなあ」

 呟きつつ、アヤは3階の予備室へ入った。


「ここはやっぱり掃除用具入れかな?いや、狭いし汚いよね。どこか他に……」

 アヤは教室をぐるぐると回っていた。メッセによると、アヤ以外の3人は隠れ終わったようだ。

 見回りの先生に捕まった人がバラさないように、みんな隠れ場所は隠していた。

 まだ隠れられていない自分に呆れつつ、ふとスマホから顔をあげると……

「えっ」

 制服を着た女の子が目の前に立っていた。

 一瞬見回りの先生かと思ったアヤは、へなへなとその場に座り込んだ。


「どうしたの?」

 と、目の前の女の子が尋ねてきた。

 女の子は細目で丸顔、ショートボブで少し背の高い子だった。

「み、見回りの先生かと思って……」

 アヤが絞り出すような声で答えると、女の子はにっこりと笑った。

「かくれんぼ?」

「うん。そっちも?」

「んー」

 女の子は斜め上を見上げて何かを考えている。

「遊んでるだけ」

「遊んでる?一人で?」

「うん」

 女の子が?夜の学校で?一人で?

「一人なんて怖くないの?」

「そっちだって一人じゃん」

「そうだけど、あ、待って」

 アヤは会話を止めてみんなにメッセを送った。

「ごめんごめん」

「お友達?」

「うん。5分ごとにみんなにメッセ送れなかったら自動的にアウトになっちゃうの」

 ふうん、と女の子は首を傾げた。

「ルール設定が厳しいね」

「うん。でも、嘘つかないようにするためのルールだから。ってかくれなきゃ!見回りの先生に見つかったら終わりだもん」

 アヤは再び隠れ場所を探し始めた。

 それを見た女の子はにっこりと笑っている。

「別に隠れなくても大丈夫だよ」

「何で!?見回りの先生来ちゃうよ!」

「ここ、見回りの先生来ないよ」

 女の子のセリフに思わずポカンと口を開けた。

「どうして?」

「私、いつもここで遊んでるけど、先生が来たことないよ」

 えっとアヤは声を漏らした。2つの意味でだ。

「来ないの?というか、いつも遊んでるって?」

「来ないものは来ないし、いつもはいつもだよ。友達もいないし、親は私をうっとおしがるから、いつもここ」

 アヤは少し首を傾げてうーんと唸った後、女の子の方を向いた。

「ねえ、ここって先生に声響いたりもしない?」

「うん、大丈夫」

「じゃあさ、私と遊ぼうよ。かくれんぼ終わるまで。私アヤ!よろしくね」

「いいの?私ハナ。よろしく。やったあ、嬉しいなあ」


・・・・・・・・・・・・


 次の日の昼ごろ、アヤたち4人が通っている小学校では先生や警察などが駆け巡っていた。

 かくれんぼ中にアヤが失踪したのだ。

 4人はかくれんぼをしていたのだが、途中からアヤから来るメッセがおかしくなった。

 ひっきりなしに、文字化けした文字が送られ続けてくるのだ。

 最初に見回りの先生に見つかったエミが先生に事情を話すと、ミクとルミも慌てて学校から出て先生から事情聴取された後、すぐに家に連絡を入れられ、3人は家へと帰っていった。

 3人ともアヤの隠れ場所を知らなかったが、先生は慌てたように第3棟に走っていった。

 現在も第3棟をメインにして捜索が行われたが、全く手がかりは見つかっていない。

 防犯カメラには、怪しい人が入ってきたところも、アヤが学校を出ていくところも映ってはいなかった。

「どうして第3棟だと思うのですか?」

 との警察からの問いに対して、見回りの先生はこう答えた。

「うちの学校にはある都市伝説があるんです。夜に第3棟の3階に行くと、あるはずのない予備室があって、入ったら出てこられないっていう……あくまで都市伝説なので信じているわけではないんですが、何だか嫌な予感がするんです。生徒の何名かも、その予備室を見たことがあるって言っていて、もしかしたら3階のどこかの部屋にいるんじゃないかって思ってしまうんです」

「そうですか、都市伝説……うーん、でも確かに彼女が第3棟に入っていく姿は防犯カメラで確認できていますしね。もう少し探してみましょう」


 だが、いくら探してもアヤが見つかることはなかった。

 そして、いつの日にか、この学校には都市伝説がもう一つ増えた。

『夜に第3棟の3階に行くと女の子の笑い声がする』






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