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第五官

作者: 香穏

「カノジョいないよね?」


今まで聞かなかった。

だっている人は普通いるっていうでしょ?


あれ、ねえなんでこんなに涙が出るの。

まだ何も聞けてないのに。


東海大学前の改札口で一人、22歳の私がいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼とは、SNSで知りあった。

共通の友人がいてなんとなくしてくれた彼からのいいねがきっかけで

連絡を取り合うようになった。

今となってはよくある話なのかもしれない。


自分にはないところが魅力的で、なんてよくいうけど

まるっきり彼のそんなところがたまらなく好きだった。


絶対アイスは自分が食べてから一口くれるとこ。

電話が終わってからは必ずLINEくれるとこ。

一緒に携帯で動画を観てると私が観やすいように少し傾けてくれるとこ。


絶対に自分のことが好きだと勘違いしてしまうような

行動がいっぱいあって、

そんな行動で私は次の日の嫌味なお局がいる仕事も頑張れて、

自分が阿呆じゃないよね?って

誰かに確認するかのように何度も何度も

思い出すんだ。


二人でいる時の時間は、この世界には二人しかいなくて

ただただ穏やかな時間だけが過ぎていった。


心が常に幸福感でいっぱいで

他に何もいらなかった。




あのマグカップを見つけるまでは…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんか適当に作ってい?」


聞いたのは私の方。


「えっ!作ってくれるの?!」

嬉しそうな声が聞こえる。


…可愛いなあ。仔犬みたい。


「いいよ〜全然大したものほんと作れないからね」


一応ね。っと心の中で呟きながら食器棚を探る。

この食器棚は実家から持ってきたのか、味がある感じだなあなんて

思いながらガサガサしていると

…ん?これはなんだ?


彼のイニシャルともう一個の色違いのマグカップにAと書かれていた。

A?え?と頭が思考停止状態になって

手はピタッと止まっていた。


数秒というところだろうか、時間が経ってから

悪いことをした時のように元に戻す。


まって。もしかして、と思ったときにはもう遅く

さっき止まっていたはずの手は異様に早くもっと奥に

突っ込んでいた。


ああ、やはり、といわんばかりに

ふたつお揃いの茶碗と箸を見つけてしまった。


なんでこんなに第五官といわれる感というものは

当たってしまうのか。


溜息ではない、心のドス黒いものが息となって出ているとおもう。

急に第三者の存在が大きくでてきて夢から覚めてしまうような

無理矢理覚めさせられたような、そんな感覚に襲われた。


そうなってからの時間は

さっきとはまるで別の空間にいるようで

その空間ではしっかり時間というものが動いていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



気がついたら、駅の改札にいた。


前に、親友に彼のことを話したときに言われた言葉を思い出した。

「その人カノジョいないっけ?」


なんだ、世界に二人だけだと思っていたのは

私だけだったんだ。



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