これがうわさのウザ絡み(違
「アイオンさん、今日はたらふく、呑んで食べていってくれ」
僕たちのテーブルにも、たくさんの料理や飲み物が運ばれてくる。
もちろん主役は完成した煮込みである。
「やっぱりうめえなぁ。この煮込み」
「あんなに簡単に、ここまで美味しくなるなんてね」
「こりゃ、今年の祭りじゃ優勝間違いなしだぜ」
みんなの笑顔を見ながら、僕も楽しい食事を味わった。
用意された飲み物には、アルコールがはいっているものもいくつかある。
お酒なんて飲み慣れない僕である。
そうだったのに、楽しい席で呑むお酒は意外と美味しく呑めてしまって、
ついつい杯をかさねてしまった。
みんなの話もおもしろいし、なんだかふわふわしていい気分だ。
「あんちゃん、そういやあのフェンリルさんはどうしたね」
いつのまにか僕の前には、馬車でプエラポルタンまで連れてきてくれた、ボドさんが座っていた。
フェンリル? えっと、クロのことかな?
「なんと、アイオンどのは、あの伝説の獣を飼っていらっしゃるのか」
レオがおどけたようにいう。
どうやらボドさんの戯れ言かなにかと思っているみたいだ。
大きくなったり小さくなったり。
たしかに不思議なクロである。
でも、クロがフェンリルだろうとどうだろうと、僕の大事なともだちに代わりはない。
「あ、もしかして、あのちっこい犬っころのことか」
「なるほどなあ。そういや、あのつややかな黒い毛並み。フェンリルなんていわれても、不思議はないかもだ」
レオにジェフ。クロを見たことのあるふたりが、そういってくれる。
クロを褒められるのは、自分のことのようにうれしいな。
「いや、あいつはホントにフェンリルなんだって。すごかったんだぜ? なあ、あんちゃん」
「ボドさん、もう酔っちゃったんスか?」
クロのことを考えるうち、僕は急に心配になってきた。
留守番をいいつけてきたクロ。
ちゃんとお行儀良く送り出してくれたけど、もしかして寂しい思いをしていないだろうか。
出会ってからずっと、僕にべったりだったクロ。
考えればかんがえるほど、クロの顔がうかんではなれなくなった。
「あの、僕はもうそろそろ……」
「おお、あなたがアイオンくんかね。王都から来たっていう?」
僕の声を、大きなしゃがれ声がかき消した。
僕たちよりかなり年上の、太った男が近づいてくる。
誰?
「村のおえらいさんだ」
こそっとレオがささやいてくれる。
おえらいさんは近づいてくるなり、いきなり僕をガバッと抱いた。
臭い、お酒臭いよ、この人。
「ききましたぞ、アイオンさん。なんでもわが村の料理を改良していただいたとか。まずはこの私の感謝をうけてくだされ」
いうなり、彼は僕に無理矢理杯を握らせる。
それからそれに、どぼどぼと酒を注いでくる。
「ささ、どうぞ。ぐいっと」
注がれた酒はいいものなんだろうけれど、僕がいつも呑めないくらいに強そうだった。
こまったな。どうしよう。
「どうしたんです? まさか、この私の酒が呑めないとでも?」
おえらいさんの機嫌があきらかに悪くなるのがわかる。
僕の手から、杯が消えたのはそのときだ。
見ると、レオが僕からかすめ取った杯を、一気に飲み干すところだった。
「な、君。なにをする、だ・・・・・・」
「まあまあまあまあ。ここはどうか、俺の返杯をうけてくださいよ」
酔ったようなふりをして、レオが腕をおえらいさんの肩に回す。
ジェフがすかさず杯をさしだし、そこにボドさんが酒を注いだ。
「なんだね、君たち。離したまえ。こら、杯をおしつけるんじゃない。むぐぐぐ」
「いいじゃないですか、いきましょうよ、ぐいっとね。お強いんでしょう?」
いいながら、レオは僕に目配せした。
その口が動く
きょうはありがとな。いぬっころによろしく。
みんなありがとう、という思いを込めて、僕はぺこりとあたまをさげる。
そうして、クロの待つ家へと駆け出した。