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9/23

これがうわさのウザ絡み(違

「アイオンさん、今日はたらふく、呑んで食べていってくれ」


僕たちのテーブルにも、たくさんの料理や飲み物が運ばれてくる。

もちろん主役は完成した煮込みである。


「やっぱりうめえなぁ。この煮込み」

「あんなに簡単に、ここまで美味しくなるなんてね」

「こりゃ、今年の祭りじゃ優勝間違いなしだぜ」


みんなの笑顔を見ながら、僕も楽しい食事を味わった。

用意された飲み物には、アルコールがはいっているものもいくつかある。


お酒なんて飲み慣れない僕である。

そうだったのに、楽しい席で呑むお酒は意外と美味しく呑めてしまって、

ついつい杯をかさねてしまった。


みんなの話もおもしろいし、なんだかふわふわしていい気分だ。


「あんちゃん、そういやあのフェンリルさんはどうしたね」


いつのまにか僕の前には、馬車でプエラポルタンまで連れてきてくれた、ボドさんが座っていた。

フェンリル? えっと、クロのことかな?


「なんと、アイオンどのは、あの伝説の獣を飼っていらっしゃるのか」


レオがおどけたようにいう。

どうやらボドさんの戯れ言かなにかと思っているみたいだ。

大きくなったり小さくなったり。

たしかに不思議なクロである。


でも、クロがフェンリルだろうとどうだろうと、僕の大事なともだちに代わりはない。


「あ、もしかして、あのちっこい犬っころのことか」

「なるほどなあ。そういや、あのつややかな黒い毛並み。フェンリルなんていわれても、不思議はないかもだ」


レオにジェフ。クロを見たことのあるふたりが、そういってくれる。

クロを褒められるのは、自分のことのようにうれしいな。


「いや、あいつはホントにフェンリルなんだって。すごかったんだぜ? なあ、あんちゃん」

「ボドさん、もう酔っちゃったんスか?」


クロのことを考えるうち、僕は急に心配になってきた。

留守番をいいつけてきたクロ。

ちゃんとお行儀良く送り出してくれたけど、もしかして寂しい思いをしていないだろうか。


出会ってからずっと、僕にべったりだったクロ。

考えればかんがえるほど、クロの顔がうかんではなれなくなった。


「あの、僕はもうそろそろ……」


「おお、あなたがアイオンくんかね。王都から来たっていう?」


僕の声を、大きなしゃがれ声がかき消した。

僕たちよりかなり年上の、太った男が近づいてくる。

誰?


「村のおえらいさんだ」


こそっとレオがささやいてくれる。

おえらいさんは近づいてくるなり、いきなり僕をガバッと抱いた。

臭い、お酒臭いよ、この人。


「ききましたぞ、アイオンさん。なんでもわが村の料理を改良していただいたとか。まずはこの私の感謝をうけてくだされ」


いうなり、彼は僕に無理矢理杯を握らせる。

それからそれに、どぼどぼと酒を注いでくる。


「ささ、どうぞ。ぐいっと」


注がれた酒はいいものなんだろうけれど、僕がいつも呑めないくらいに強そうだった。

こまったな。どうしよう。


「どうしたんです? まさか、この私の酒が呑めないとでも?」


おえらいさんの機嫌があきらかに悪くなるのがわかる。

僕の手から、杯が消えたのはそのときだ。


見ると、レオが僕からかすめ取った杯を、一気に飲み干すところだった。


「な、君。なにをする、だ・・・・・・」

「まあまあまあまあ。ここはどうか、俺の返杯をうけてくださいよ」


酔ったようなふりをして、レオが腕をおえらいさんの肩に回す。

ジェフがすかさず杯をさしだし、そこにボドさんが酒を注いだ。


「なんだね、君たち。離したまえ。こら、杯をおしつけるんじゃない。むぐぐぐ」

「いいじゃないですか、いきましょうよ、ぐいっとね。お強いんでしょう?」


いいながら、レオは僕に目配せした。

その口が動く


きょうはありがとな。いぬっころによろしく。


みんなありがとう、という思いを込めて、僕はぺこりとあたまをさげる。


そうして、クロの待つ家へと駆け出した。

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