ねんがんのいえをてにいれたぞ
『エルフと山の村、プレタポルタンへようこそ』
うっすらとそう読める、古びた看板の横を通りすぎる。
それから少しすると、道の両脇にぽつぽつと民家があらわれはじめた。
「このあたり、エルフがいるんですか?」
「いる、って話はあるけんども、オラぁ見たことはねえな。オイラのじいさんが見たって話は聞いたことがあるけんども」
それは残念。
僕もエルフにはあったことがないものだから、ちょっと期待しちゃったな。
僕は膝の上で丸くなっているクロの背をなでた。
クロは気持ちよさそうに眼を細める。
あのときから吠えずさわがず、静かにしているクロ。
ほんとうに、おりこうさんな犬である。
「あんちゃん、言われてた住所はこのあたりだけんども、それでいいだか?」
今度はゆっくりと馬車がとまり、おじさんが声かけてきた。
「はい。いいみたいです。ほんとうにありがとうございました」
「こちらこそ、だな。また、なんかあったらお願いしてもええかね」
「馬車のことですか? いつでも」
「助かるわ、じゃあの」
おじさんの馬車を見送って、僕はあたりを見回した。
数軒の民家に、それから僕の買った家も見える。
「さて、家に行く前に用事をすましちゃおうか」
待っててね、とクロにいって、僕はプレタポルタン村での一歩を踏み出した。
□■□
「いい…」
と僕は家を見上げながらつぶやいた。
決して新しくはないけれど、こぢんまりしていい雰囲気だ。
到着するや、猛ダッシュで走って行ったクロが、家の周りをぐるりまわって僕へと駆け戻ってきた。
僕のそれがうつったのか。
今度は僕のまわりをまわりながら、しっぽをぶんぶんふるまわし、やや興奮気味に見える。
「いい…」
と僕はもう一度つぶやいた。
てにいれたねんがんのいえ
それから元気いっぱいの犬。
うん。これはとってもいい感じだ。
あいさつまわりの用事を終えて、持ってきた手土産は配り終わってしまったから
僕の荷物はあと鞄ひとつにおさまるくらいだ。
その鞄をとさりと置いて、僕は部屋の中を見渡した。
外と同じく、古さはあってもボロさはみじんも感じられない。
基本的な家具はそのまま残されているようで、少しばかり掃除をすれば、すぐに寝起きできそうだ。
念のため、僕は『ようせいさんの眼』で家全体をスキャンする。
見た目から思っていたとおり。
いや、これはそれ以上だ。
全体的に黄色、『近いうちにメンテナンスが必要になる可能性あり』っていうのは古い家だから予想通り。
けれども赤い部分、『メンテナンスが必要』っていう部分は驚くほど少なかった。
これは、前に住んでいた誰かが、よほど丁寧に使っていた証拠だろうな。
僕は数少ない要メンテナンスな箇所を確認しながら、そう思った。
必要なところは、ゆっくりと治していこう。
いまのところ、時間はいっぱいあるのだし。
ふとふりかえると、クロがお行儀良く入り口のすぐ外で座っているのが見えた。
「あ、ごめんね、クロ」
そうだ。クロにも住むところをつくってあげなくちゃ。
どんな犬小屋がいいだろう。
僕はあたまのなかで、いろいろと案をだして、
すぐにそれを、ぜんぶどこかへうっちゃった。
「クロ。この家で、いっしょに住もうか」
そういうと、クロはほんとうにうれしそうに扉をくぐってこちらに駆けてくる。
今日からクロもいっしょの家族。
そう思いながら、駆けてくるクロの後ろを見て、僕は少し後悔した。
今度、クロ用の足拭きマットを買ってこなくっちゃ。