棒倒しって、そういう・・・・・・
「すまないアイオン」
「はじめてギドーの奴らに勝てたからさ、ちょっと調子に乗って騒ぎすぎちまったみてえでさ」
「でもよう、あんなに怒るこたねえと思うんだが」
ボドさんたちがやってきて、僕にぺこぺこ頭をさげた。
いきなり絡んでくるなんて、失礼な奴らだと思っていたけど、ボドさんたちがちょっとやりすぎちゃったのかな?
「まったく。室長が活躍して称賛されるなんて当然なのに。なんて心の小さい奴らなの!?」
メイがそういってぷんぷんしていたけれど、僕みたいなぽっと出にいろいろされたら、そりゃあ気分がよくないかもだよ。
そういうと、メイはますます頬を膨らませた。
「そういうことばっかりいってるから、室長はいいように利用されちゃうんですよ。そんなのダメです」
「ええ!? そうかなあ」
「そうですよ! そんなダメダメな室長には、やっぱり私が必要だって、そう思いません?」
「そうかなあ・・・・・・」
「そうなんです!!」
なぜかぐいぐいと迫ってくるメイを、僕はなんとかするりとかわす。
「なあ、アイオン、その娘、誰なんだ?」
「ああ、この娘はね、王都で僕の部下だったメイっていうんだ」
メイはボドさんたちの方を向いて、愛想よくにっこり笑った。
「今は室長の元部下、メイ=リュミエールと申します。今後、末永くお世話になると思いますので、よろしくおねがいしますね」
なんだか不思議ないいかたをするメイである。
おかしいな、メイの休暇って、そんなに長くなかったと思うんだけど。
「あの、アイオンさん」
僕の袖が、ちょいちょいと引っ張られる。
ミリエルがささやくように続けた。
「例のことを、みなさんにお聞きした方が・・・・・・」
「あ、そうだったね」
僕が顔をあげると、ボドさんたちがニヨニヨと笑いながら、僕たち三人を、かわるがわるに見つめている。
「アイオンさんもなかなかやるねえ」
なんのことだかわからないや。
□■□
「棒倒しか、なるほどねえ」
顎に手をやりながら、ボドさんがいう。
僕が棒倒しといわれて思い浮かべたのは、子どもの頃砂場なんかで遊んだあれだ。
ふたりで向かい合った真ん中に砂山をつくって棒を立て、
交互に砂をとりあっていく。
どんどん小さくなっていく砂山が、だんだんと棒を支えきれなくなっていき、
最後に棒を倒した方が負けって遊び。
そんなに危ない感じはないから、さっきのギドー村人の態度には、そぐわない気はするけれど。
「そうか。まあそれも間違いじゃないんだがね」
ボドさんはいって、頭をかいた。
「まあ、説明するより、見てもらった方がはええかね」
こっちだ、というボドさんのあとを、僕たちは追いかけた。
□■□
ギドー村とスクルという町の棒倒しは、ちょうど佳境にさしかかっているみたいだった。
「そこだ、まわりこめ!!」
「いまだ、殺っちまえ!!」
「倒せ! 殴れ!! すり潰せ!!」
物騒なかけ声があたりに満ちている。
競技場の右と左の端には、4メートルほどの太い丸太が立てられていて、それを屈強な男たちが支えていた。
「相手の棒を倒しきった方が勝ちっていう、単純な勝負だよ」
まわりの騒ぎに負けないよう、叫ぶようにボドさんがいう。
はじめに仕掛けたのは、スクル町の側だった。
何人かの男たちがまとまって、ギドー村の棒へと突っ込んでいく。
見ているだけで凄い迫力だ。
ゴッ
と音がしそうな激しい突撃は、しかしギドー村の男たちによって、簡単に阻まれる。
「ギドー村はな、この競技でも5連覇中なんだぜ」
ボドさんがいうように、両者の実力差はあきらかだった。
ギドー村はスクル町の突撃を防いだあと、ゆっくりと進軍を開始する。
「うわ」
「ぎゃっ」
スクル町の男たちを、一人ひとり放り投げ、押し倒し、踏みつけながら、ギドー村は進んでいった。
「なんだよ、あんなに差があるなら、さっさとおわらせちまえばいいのに」
ギドー村の男たちは、スクル町を痛ぶるのを愉しんでいるかのようだった。
彼らがスクル町の棒へとたどり着いたときには、スクル町の男たちの大半が倒れ、うめき声をあげている。
「ヒデぇ」
ボドさんが絞り出すようにいう。
「勝者、ギドー村!!」
その声があがる前に、僕は駆け出していた。
□■□
「大丈夫ですか!!」
僕が駆けつけた競技場のなかは、外からみるより酷いありさまだった。
負けたスクル町の人たちは、悔しがる余裕もなく、倒れ、痛みをうったえている。
僕はあたりを見回した。
お医者さんかヒーラーは・・・・・・どうやらいないみたいだ。
係員が数人、スクル町の人たちの応急手当をしようとしている。
「だめだ、ムリに動かさないで!!」
『魔眼殺し』を少しだけ上にずらすと、彼らの様子がうすぼんやりと見えてくる。
痛がっているところがうす黄色く見えている人は打撲。
濃くなっていくにつれてそれはだんだん酷くなり、
赤くなっているのは骨折だろうか。
係員がひっくり変えそうとしていた人の患部は赤。
ムリに動かせば、悪化しかねなかった。
「なんだ、あんた医者かなにかか?」
「ほかにお医者さんは!?」
「あいにく出払っていてね。今、呼びにいってるんだが」
僕はもういちど、あたりを見回した。
たくさんの人が苦しんでいる。
こういうとき、できることがあるのなら・・・・・・
「あの、僕が指示をだしてもいいですか?」
「あ、いや、そりゃ助かりますが」
係員は、どうやら僕を医者かなにかと勘違いしてくれたみたいだ。
僕はあえて訂正せず、『魔眼殺し』を外して胸ポケットにひっかけた。
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