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有給って、なにそれ?おいしいの?

「なるほど。そういう事情が」


いいながら、メイは差し出されたお茶をすすった。


「う、美味しい。これがエルフの力・・・・・・」


いや、そんなわけないよね。

と、目をやったミリエルは、今やフードを外し、特徴のある耳を外に出している。

メイならば、彼女がエルフだと知っても、騒ぐようなことはないだろう。

そんなふうに思ったのだ。


「それで、メイはどうしてプエラポルタンまで?」

「室長・・・・・・アイオンさんに会いにですけど?」


また、この娘はそんなことを。

ストレートな物言いはメイのよいところの一つだけれど、誰かに聞かれたら誤解されそうだ。


「誤解じゃなくて、まったく伝わらない人ならいるんですけどね」


「でも、よくプエラポルタンまで来れたよね。忙しいんじゃないの? 戦術魔導騎士団だっけ」

「全然。余裕ですよ。メンテナンス室に比べたら」

「あはは、まあそうだよね。あれに比べたら」


あの日々も、もうずいぶん遠い昔なきがするけれど、まだそんなに経ってはいないんだよなあ。

って、そうじゃなくて・・・・・・


「こんなに長い間、帝都をはなれて大丈夫なのかなって。行き帰りだけで結構かかるし」


確か、シャントゥール王国にはそこまで長期間の休暇はなかった気がする。


「ああ、大丈夫ですよ。有給をとりましたので」

「有給!?」


何をいっているんだろう、この娘は。

いやまて、落ち着こう。

僕だって、その単語の意味は知っている。

そのシステムが、シャントゥール王国に存在することも識っている。


おかしいのは、そうだ。『有給』と『とる』っていうふたつの単語が同時に存在することだ。

有給って、なんというか伝説上の存在みたいなものじゃなかったっけ。

だれもが一度、憧れはするけれど、決して手が届くことはない、そんな存在・・・・・・


「アイオンさん、どうしたのですか?」

「室長ってば、私が有給申請したときの係官と、おんなじような貌してとまってる・・・・・・」


ふたりに心配そうにのぞき込まれて、僕は我に返った。


「こういうのは勢いですよ。何か問題でも? って貌していたら、なんにも言い返されませんでしたし」


メイはなんでもなさそうにそういった。

なるほど。僕も一度くらい、とっておけばよかったな。

追放された今となっては、もう不可能なことではあるけれど。


「それより、ですね。せっかく来たんですから、いっしょに少し散歩でもしませんか? 案内して欲しいんです。プエラポルタンのこと」

「困ったな。今少し、立て込んじゃっててさ。お仕事が」


僕は工房の方を見る。

せかされてはいないけれど、できれば急いであげたいメンテナンスの仕事がちょうどまとめてはいってきたところなのだ。


「はー、そういうところ、アイオンさんらしいというか。まあ、いきなり訪ねてきた私が悪いんですけどね」

「わたしが、案内してさしあげられればいいんですけれど」


エルフですし、私自身あんまりこの村に詳しいわけでもないんです。


「気にしなくていいですよ。どのみち、アイオンさんとじゃなければ意味ないですし」

「え、なんて?」

「アイオンさんも気にしなくていいです」


どうしようかな、とメイはあたりを見回した。

そうして、一枚の紙に目をとめる。


「アイオンさん、これ・・・・・・」

「ああ、『収穫祭』の案内だね。僕が改良のお手伝いしたスープが出るんだって」


それを聞いて、メイの目がきらりと光ったような気がした。


「と、いうことはアイオンさんはこれに行ったりするんですか?」

「うん、そのつもりだったよ」

「じゃあ、私がごいっしょしても?」

「もちろん、問題ないけど・・・・・・」


僕はそれから、ミリエルのほうをみた。


「ミリエルもいっしょにどう? お祭り好きだっていってたし、さっき誘おうと思っていたんだけど」

「え、あ、はい、ぜひ。うれしいです」


彼女は驚いた表情で、そうかえした。


「そう来たか。いい? でもこれはチャンスなのよ、メイ。かならずアイオンさんのことを・・・・・・」


メイは下を向いてなにかいっている。

うん、これはあまり気にしてはいけないやつだな。

しばらくして、彼女は顔をあげた。


「それじゃあ、その仕事とやらを片付けてしまいましょう。手伝いますよ、私」

「え、そりゃ悪いよ。休暇できてるんだから、ゆっくりしていってね」

「大丈夫です。私だって元メンテナンス室。こういうのには慣れてますから」


メイは力こぶを作ってみせて、僕を促した。



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