元部下、遠方より来たる
「お疲れさまです」
の声に顔を上げると、ミリエルがお茶をもって仕事場にはいってきたところだった。
「あれ、もうそんな時間?」
「集中されていたので・・・・・・声をかけようか迷ったんですけど」
「大丈夫だよ。ありがとう」
そういって受け取って飲んだお茶は、適度にあたたかくて僕の好みにばっちりだ。
僕はそれで、ほっと一息がつけたのだった。
護衛だったエレノールがやらかしてからしばらくの間、彼女の落ち込み方はそうとうなものだったけど
このところやっと元気をとりもどしてきたみたい。
「ご恩をお返しするために、やってきたのにこの始末。もうおそばにおいていただくわけには・・・・・・」
そういって泣きそうにしているミリエルに、
「僕のことよりも、ミリエルはどうしたいの?」
と聞いてから半日と少し。
「許していただけるなら、もう少しアイオンさんといっしょにいたいです」
と小さな声で彼女はいった。
ミリエルのお父さんとお母さん。
エルフ王のメネリオンとそのお妃さまから、彼女のことをくれぐれもよろしくって頼まれている僕である。
ミリエルがそう望むなら、彼女の意思は最大限尊重してあげたいところだ。
「じゃあ、この話はこれでおしまい。また明日からよろしくね」
泣きそうだったミリエルに、少しだけ浮かんだ、うれしそうな表情。
僕はまた、その貌を思い出しているのだった。
「あの、アイオンさん。それは?」
僕の左手。
お茶を飲みながら、なんの気なしにとりあえげていた紙のこと。
それを指しているみたい。
『収穫祭、開催のお知らせ』
そう書かれている。
狩人のレオが、弓をとりにきた時、置いていったものだ。
僕がアドバイスしたあのスープ。
村対抗のコンテストに出すっていっていたあれだ。
そのコンテストの開催されるのが、確かこの収穫祭だったっけ。
「お祭りなんですね」
「ミリエルは好きなの? こういうの」
「はい。昔から大好きなんです」
エルフの里にも年に何回か、こういったお祭りがあるらしい。
どこかで文化が入り交じったのか、人間の世界でも行われる射的や小魚掬いなんかもあるんだとか。
そんな話をするミリエルは、いつになく愉しそうだ。
僕は、といえば。
王都サイレムでも、もちろん祭りは行われていた。
でも、僕がお客としてそれに参加したことはほとんどないのだ。
だって、イベントには緊急メンテがつきものだからね。
いろいろと大変だったなあ、あの時は。
チラシを見れば、開催日はもうすぐそこだ。
「ぜひ、おまえも参加してくれよ、アイオン」
レオもそういっていたし、顔をだしてみるのもいいかもしれないな。
「ねえ、ミリエル、こんどいっしょに・・・・・・」
チリ、リン
玄関のベルが音をたてた。
「あ、わたしが出ますね」
そういうと、ミリエルは耳がかくれるくらいにフードをかぶって、お客さんを迎えに行った。
この光景もだんだんと見慣れてきたな。
最近は村の人たちにも、僕が雇ったお手伝いさんのことは知られてきているみたい。
今では僕が受付に出なくても、みんなそれほど気にはしない。
レオやジェフに、会うたびに『こんど紹介しろよ』っていわれるのが難儀だけどね。
なにしろ、フードをかぶっていてもわかるほど、ミリエルは美人さんだからなあ。
「あれ、ここって室長・・・・・・アイオンさんのお宅ですよね?」
玄関から声がする。
こんどのお客さんは、女の人みたいだ。
あれ、どこかで聞いたことがあるような。
「はい、そうですよ。アイオンさんは奥でお仕事中です。御用ならおよびしましょうか?」
「・・・・・・え、新居に、おんなの人と、いっしょに? なんで・・・・・・オンナノヒト、ナンデ・・・・・・」
「・・・・・・? どうなされました? もしかしてお加減でも?」
なんだか騒がしいな。トラブルだろうか。
僕は立ち上がって、玄関へ向かう。
尋ねてきたお客さん。女の子かな? にミリエルが心配そうに近づくところだった。
っていうより、あの娘は、
「なに、この人、超美人。アイオンさん、まさか・・・・・・」
「あれ、メイじゃないか。どうしたの? こんなところまで」
元メンテナンス室での部下。今はたしか、戦術魔導騎士団員だっけ。
メイ・リュミエールがそこにいた。
彼女は俺とミリエルを交互に見て、それから息を吸い込んで、
「し、室長の、アイオンさんのばかーー」
どこかで聞いたように、そうさけんだ。
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