表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/23

帝国技術者、躍動す ~ざまあがすくすく育ちます~

シャントゥール王国、王都サイレム。

その土術研究室に三つの人影があった。


ひとりはシャントゥール王国侍従。

まだその任についたばかりの、年若い男だ。


残りのふたりは、ふたりとも、同じような格好をしていた。

侍従の制服とは根本から異なる、黒を基調とした格好いい装いだ。


「技術者どの、これです。この魔導機。これがまた動かなくなってしまって・・・・・・」

「ふむ、またこれかね」


彼らふたりこそ、エルドラ帝国から派遣されてきている技術者だ。

いまやサイレムのメンテナンス、その大半は彼らが担っていた。


「わかりました。また、やってみましょう」

「お願いします。『なるはや』にてお願いできれば・・・・・・」

「その前に、この書類にサインを」


技術者のひとりが、侍従に紙の束を差し出した。

何枚もある紙の束には、それぞれいちページごと、何項目もの規約がびっしりと書かれている。


「よく、読んでからサインしてくださいね?」


もうひとりがいい添えたが、ことは急を要する話である。

侍従はほとんど内容を読まず、手早く紙をめくり、最後のページにサインした。


「いいでしょう。では、作業を開始します」

「はい、ではお願いします」


侍従はそう応じたが、帝国技術者は立っているばかりで作業をはじめようとはしなかった。


「あの、できれば急いで欲しいのですが」

「書類はお読みになったでしょう? 作業の時は、我々技術者だけにして、他の者は外していただくよう記載してあるはずですが?」

「え、そうなのですか?」

「なにぶん、帝国の機密にかかわる技術も使用しますので」


侍従は書類をめくって見直した。

たしかに、そのような項目がある。

サインしてしまったてまえ、侍従に反論の余地はなかった。


「では、くれぐれもお願いします」


そういって、部屋を出て行くしかない。


扉を閉める侍従を見送って、技術者のひとりがため息をついた。


「まったく。いたところで邪魔になるだけだというのに」

「いいじゃないですか。これだけの作業で、我々のふた月分の給料ほどにも稼げるのですから」


ふたりは笑い合って、土術魔導機に向かった。


「それで、どうなんだ? 故障については。こんどこそ原因がわかるのか?」

「はは、まったく。今回もさっぱりです」


彼らは間違いなく帝国の技術者である。

大陸でも最高峰の技術を誇る、エルドラ帝国の、最精鋭。

その彼らが、この王国製の古い土術魔導機には、あきらかに苦戦していた。


「ただでさえ古い規格。それに加えて、なんだこのでたらめな継ぎ足しは」

「あっちにつながり、こっちにつながり。どこをどういじったらいいのかまったくわかりませんね」


彼らは手にした道具であちこちを叩いたり捻ったり外したりしてみていたが、やがてどうにもならずにお手上げをした。


「まったく、前はどうやってこんなものを十全にメンテしていたんだろうな」

「そうですね。こんなものをきちんとメンテして運用していただなんて。前のメンテ係は天才か変態のどっちかでしょう」

「違いない」


技術者はまた、ふたりで笑い合った。


「それで、どうするんです?」


ひとりが聞くのに、もうひとりがニヤニヤしながら応える。


「どうするもなにも、前と同じ方法でやるしかないだろ」

「まあ、そうですね。でもいいんですか?もしそれでだめになっちゃったりしたら。いやですよ。俺は責任とるなんて」

「心配するな。ちゃんとあの書類に、だめになっても免責できるって書いてあるからな」


もっとも、それを相手が理解してサインしているかどうかなんて、しらんがな。

それを聞いて、技術者のひとりが土術魔導機の前に立つ。


「安心しました。じゃあ、とっととやっちゃいましょうか」


彼の足が、後ろに少し跳ね上がる。


ゴッ


次の瞬間、そのつま先が、魔導機の側面にたたき込まれた。


「どうです?」

「あーダメだな。ちょっとかわれ」


叩いて衝撃を与える。

帝国技術者が選んだのは、最も単純で古典的な方法だった。


「角度が違うんだよ、角度が」


ゴッ


そう言いながら、かわったもうひとりが、今一度魔導機の側面を蹴り飛ばす。


コココココココ


しばらくして、魔導機が乾いた音を立てはじめた。


「さすがですね、先輩」

「ま、これでしばらくは、もつだろうさ」

「これであんなにもらえるなんて、ボロい儲けですね」

「そうだな。今日はさっさと終わって、呑みに行くか」

「いいですね、先輩のおごりで」


ココココ、ゴゴ、コココ、ゴ


ほんとうのところ、魔導機の立てる音は正常とはほど遠いものだったが、そんなことは帝国技術者たちの知ったことではなかった。

シャントゥール王国での長くはない勤務を適当にやり過ごし、そうして稼いだ金で帝国での暮らしを豊かにする。

彼らの頭には、そんな程度の考えしかなかったのだから。


【よんでいただき、ありがとうございました】


評価やブックマークはお任せしますので、よろしければ続きの話も読んでいただけると非常に嬉しいです。


評価はこのページの下の方にある【☆☆☆☆☆】をタップしていただくと、できるようになっています。


ブックマークしていただくと、続きが追いかけやすくなります。


こんごともよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ