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戦術魔術団員の憂鬱 ~ざまあに水をあげましょう~

「ふ、ふぇヒヒ」


女王ヘンリエッタの口から、抑えきれない笑いが漏れた。


王都サイレムに設けられた訓練場。

ど真ん中に特別に設けられた高台、その上から、ヘンリエッタがとある部隊を親覧していた。


その部隊の名を『戦術魔導騎士団』という。


「いいじゃない、いいじゃない。見て、あの制服のみごとなこと。これは映えるわね。あとで宮廷画家を呼んでおきなさい」


戦術魔導騎士団の制服は、隣国エルドラのデザイナーに図面からひかせた、特別製である。

黒を中心に仕立てられたその制服は、スタイリッシュで見栄えがする。

それだけではない。彼らが試用する、『魔道具』から、彼らを教導する指導員まで、すべてがエルドラ印の特注品。


ヘンリエッタの肝いりで設立された、超エリート部隊である。


シャントゥール国じゅうから最優の人材ばかりを引き抜いて設立された部隊だ。

こればかりはヘンリエッタのいうとおり、訓練も見応えのあるものだった。


「あら、あのかたはどなたですの?」


その優秀な者たちのなかにあって、ひとり。

さらに上を行く小柄な姿を、ヘンリエッタは見つけた。


「あれは・・・・・・メイ・リュミエールですな」

「そう、あれがあの・・・・・・」


侍従の言葉に、ヘンリエッタは深くうなずいた。

自分と同じく、『天才』の名を冠された、魔術師の少女。

メイ・リュミエール。


彼女は自分より大きく、年も経験も上であるはずの他の魔術師を、文字通り圧倒していた。

行われているのは、魔術を用いた格闘訓練だ。


ひとり、またひとり。

彼女に対した魔術師たちが、次々に倒され、地に伏していく。

それを見て、ヘンリエッタはまたもや「ふェヒヒ」と笑った。


「やはり、この私の目に狂いはなかったということね」

「おっしゃるとおりでございます」

「最上の魔導少女に、『エルドラ』製の最高の装備。これこそまさに、わたしの求めていたものなのよ!!」


ヘンリエッタがもうほとんど覚えていない、メンテなんとかというかつてあったあの組織。

そんなところに埋まっていたこれだけの才能を見いだした、この私


「フェひひ、さすがはこの私。またひとつ、この国をよりよくしてしまったみたいね」

「おっしゃるとおりでございます」


 ヘンリエッタの目の前で、メイが対峙する最後の魔術師を吹き飛ばした。


                  □■□


「いけないいけない」


メイは対峙する最後の魔術師を吹き飛ばしながら、ヘンリエッタの目から手にした魔道具を隠すようにした。

塗っておいた黒い塗料が一部、剥がれている。

それは、メイがエルドラの魔道具に似せて塗り直した、純国産の魔道具だった。

エルドラ製のそれに比べて、比較的どこでも手に入りやすい彼女のえもの。


それはほかの魔道具と比べ、ひとつだけ異なる点があった。


それはその魔導具が、メイの元上司、アイオンによってメンテされたものだということ。


「え、これ新品だよね。だったらメンテなんてする必要、ないと思うんだけど」


あのとき、そんなふうにいってメイの差し出した魔道具を突き返そうとした、アイオン。


「それが、これ、不良品みたいなんです。事情があって、返品するわけにもいかなくて」

「ほんと?あ、ほんとだ。ちょっと壊れているみたいだね」


メイがついた嘘だった。少なくとも新品の魔道具として、必要充分な性能を発揮できるだけの製品だということは確認済み。

それでもアイオンの『ようせいさんの眼』には、魔道具の『完璧でないところ』が見えているようだった。


彼自身は、単に壊れているところだとしか認識していないみたいだけど。


「少し待ってね。今なおしちゃうから」


噂はほんとうだったんだ。とそのときのメイは思った。


『アイオンにメンテしてもらった魔道具は、以前よりも性能が上がっている』


一部の魔術師の間でささやかれる、そんな噂・・・・・・


はたして、アイオンにメンテしてもらった魔道具はメイの思っていた以上の性能を発揮した。

それは今でも、メイの愛機だ。

世界最新鋭。エルドラ製の魔道具など、使う気にもならないほど。


「メイ・リュミエール。噂には聞いていたがこれほどとは」

「あんたがこの部隊のエースだ、メイ。各部隊から集められたエースオブエースの俺たちが、今は素直にそう思えるよ」


メイによって倒された『戦術魔導騎士団』の魔術師たちが、彼女を囲む。


・・・・・・いや、あなたたちそもそも、たいしたことないから


その言葉を、メイはのみこんだ。


「みんな、精度が低い。もっと高めるべき」


端的に、それだけ口にする。

そう、皆動きの精度が甘すぎる。


メイが所属していた元メンテナンス室。

アイオンの秘密が知りたくて、彼女自身が所属を望んだ、彼が率いるメンテ係員たち。


彼らは、エリートであるはずの『戦術魔導騎士団』の魔術師たちより、はるかに細やかで正確だった。


ましてや、その室長たるアイオンである。


仕事に臨むアイオンの、あの正確無比な動きときたら。


戦闘とメンテ。

ジャンルは違えど、あの動きは万事に通ずる。


それがメイ・リュミエールの持論だった。


「アイオンさんのことを思い出したら、会いたくなっちゃったな」


誰にも聞こえないように、メイはこっそりそう口にした。


もう少ししたら、戦術魔導騎士団員として、長い休暇を取得できる。


「会いに行っちゃっても、いいよね」


今はそれを楽しみに

メイは近づいてくる『顔も見たくない』女王を、精一杯の作り笑顔で迎えるのだった。

【よんでいただき、ありがとうございました】


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