会いたかった、会いたかったよぉ
「ねえ、カズマ。今までありがとう」
彼女は涙を流しながら動けない俺に礼を言う。
「私ね、カズマに会うまではずっと一人だった。ずっと一人で寂しかった。」
――分かった、分かったから。それ以上は言わないでくれ。頼むからそんなお別れみたいなことは言わないでくれ。
どれだけ念じても――の喉から声が出ることはない。
「カズマに会ってからは何もかもが変わった。毎日が楽しかった。だからね、カズマ。私、後悔はない。私は幸せなれた。あなたに会って、あなたと過ごして、本当に幸せだった」
――そんなこと言わないでいいよ。まだまだ幸せになろう?大丈夫、俺とお前なら出来る。そんなの簡単さ。だから、だからさ、やめてくれよ。
「カズマ、私はあなたの事が好きです。例えこの身が滅びようともあなたを愛し続けます。だから、今しばしの間はお別れです。……さようなら」
――待て、―――。行かないでくれ……!
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「――純、――きろ、大丈夫か!?」
突然の怒声に俺は思わず飛び起きる。慌てて時計を見てみるが授業はまだ始まる前だ。なぜ起こされたのかは分からないが、とりあえず授業はまだ始まっていないらしい。
「どうしたんだ。授業まであと数分あるぞ」
「数分しかねえじゃねえか。っていうかお前昼休みいつも寝てるよな。なんでだ?」
「いやあ、だってどうせ授業始まる前までは暇なんだよなあ」
「はあ……、まあいいそんなことはいい。それよりお前相当うなされてたぞ。あまりに酷かったから慌てて起こしたんだが……。悪夢でも見てたのか?」
そう言われて初めて俺かなり汗をかいていることに気付いた。どうやら本当に悪夢を見ていたらしい。
「うーん。なんか嫌な夢を見ていた気はするんだが……。当たり前だが何も思い出せん」
「そうなのか……。まあ、別にいいか。とりあえずそろそろ授業始めるんだし、次の授業の準備もしとけ」
「了解。次の教科なんだっけ?」
「覚えてないのかよ……。」
そんな感じでその日も日常が過ぎていく。……そのはずだった。
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それは放課後に起こった。
「おーい、純。今からどこか行こうぜ」
クラスメートが純に遊びの誘いをしてきた。特に予定もないが、面倒なので断るつもりでいた。
「いや、今日はやめとく――――」
その時、唐突に教室の中心部から悲鳴が上がったかと思うと、足元から魔方陣らしきものが浮かび上がり教室全体に広がった。
得体が知れず急いで外に出るよう呼びかけ、俺も外に出ようとした。
だが、一人だけ転んで逃げ遅れてる人が居ることに気付いたき、無視することも出来ず、思わずそいつを助けに行っていた。
「大丈夫か!何が起こるのか分からない!急いで教室から出るんだ!」
その人を助け、いよいよ教室から出ようとしたとき――――。
パっと魔方陣が一際強い光を放った。
一歩教室から出れなかった俺はその光にのまれ、意識を失った。
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俺は、意識を失っている間。数々の夢――否、自らの記憶を見ていた。
俺はその記憶を見ながら、自らの失った記憶を全て取り戻していた。
だからこそ、先ほど自分を飲み込んだ力の正体にも気づき、またそれが決して邪悪なるものの力ではなく、それどころか自分に一切の危害が加わることも無いと感じていた。
そして、意識は覚醒する。目覚めた場所はどこか大きな広間の中心だった。結構な人数が入りそうな広間だが、そこには俺以外一人、それもどこか懐かしい気配のする女性しかいなかった。
その女性は俺の意識が覚醒したのを確認すると話かけてきた。
「いきなり見知らぬところに連れてきてしまい申し訳ありません。私はセレスといいます。ここはあなたにとっては異世界ということになります」
その懐かしい声を聞きながらもし、これが俺じゃない、若しくは俺が記憶を取り戻す前だったら怒鳴りつけるだろうななんてことを考えていると、
「すみません、話を聞いていますか?」
と、不審に思われてしまった。
もちろん考え事をしていたので聞いているわけがなかった。だが、大体の見当は付いていた。
「あー、あれだろ。魔王が現れたから倒してくれとかそんな奴」
女性は笑いながら言う。
「いえいえ、そんな事させませんよ。今回お呼びしたのは――――」
「と思わせつつ、異世界人には昔から恩があるからこっち側で支障が無いよう用事が無い人を誘って恩返しをして返すつもりだったと」
女性は驚いた顔をし、
「どうして知っているんですか!?」
と問いかけてきた。
「あたってたのか……。まあ、どんな理由であれ人を勝手に呼び出したら反感食らうぞ」
女性の問いは無視し、忠告すると、
「こちらの問いに答えてください!」
と怒られた。
まあ、それも無理はない。まさか呼び出した直後の人に自分の思惑がばれてるとは思ってもみなかっただろう。まあ、俺も今言ったのは冗談だったし、彼女にはもう一つ思惑、というか下心があるだろう。
「あとは、知り合いにもう一度会いたくて呼び出した人の中にいたらなんて思ってたり」
この言葉を聞いた女性は俺に対する警戒度を一気にあげた。
彼女だってほとんど意識してない望みだったんだろう。そんな自分でも分かるか怪しい気持ちを言い当てられたんだ。警戒度も上がるものだろう。
「あなたは何者ですか。なぜ私の考えを知っているんですか?」
「知っているって言っても飽くまで想像だよ。君の性格上悪いことはないって初めから気づいていたしね。まさか、最初に言った思惑については冗談のつもりだったんだけどね」
「なぜ、あなたが私を語るんですか。初対面の筈です。あなたは一体何者――――」
「何者って酷いなあ。俺の事を忘れてしまったのか?アリス」
女性は一瞬驚きに目を瞠ると、その目を潤ませた。そして俺の事をじろじろと見ると、大粒の涙を零しながら抱き着いてきた。
「カズマ、カズマ。会いたかった。会いたかったよぉ。」
「ごめんなアリス。いや、今はセレスか?今さっき召喚されるまで記憶を無くしててな……。今までアリスを忘れてた俺だが、それでも好きでいてくれるか?」
「アリスでいいです。当たり前じゃないですか。言ったはずです。例えこの身が滅びようとも愛し続けると。もう、会えないと思っていました。また、会えただけでも十分です」
正直、返答は分かっていた。もし、既に俺に愛想を尽かしていたらこんな反応はしないだろう。だけど、それでもその返答を貰えて嬉しかった。
俺は自分の気持ちが伝わるよう、より強く抱きしめた。