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まとも

かごめかごめ

かごめかごめ

 未明、明かりの消えた駅に、児童たちの甲高い声が響き渡っている。単線の二両のワンマン列車しか運行していない片田舎では、駅前であっても深夜の人通りは稀である。そのような駅にあって彼らの存在は、似つかわしくなく異様な気配を放っていた。彼らがはたして本当に生者であるかは定かではない。駅前の街灯は心許なく、それだけでは彼らの顔色をうかがうことは困難であった。

 一人の児童が線路にしゃがみ顔を手で覆っている。そして、その周囲を残りの児童が手と手を繋ぎ、輪となって歌いながら、軽やかに回っていた。さながら回転木馬のような陽気な様子で、それが殊更に異様であり、その姿をたまたま目撃していた田中は目を離すことができなくなっていた。

「かごめ、かごめ、籠の中の鳥は、いついつ出やる――」

 昔ながらの遊戯のようであった。それがなぜこのような場面で行われているのか、検討がつかない。田中は懐かしさについ一緒に口ずさんでいた。

「鶴と亀がすべった、後ろの正面だぁれ――」

 そう歌い終わると、周囲の児童たちも座り込み、静寂が周囲を包んだ。異常なほどの静かさであった。田中の耳には、高音のかすかな耳鳴りだけが聞こえていた。数瞬の後、静寂は破られた。

「田 中 ち ゃ ん」

 周囲にスロー再生したような低くゆっくりとした不気味な声が響き渡った。そして中心でしゃがんでいた児童が田中の方を振り返った。その顔は明らかに異形であった。目に瞳はなく、口があるべき場所にはいくつもの小さな穴が空いている。

 見てはいけないと、何か根元的な部分が訴えかけてくるが、どうしても目を離すことができない。怖気だった田中は後ろずさった拍子にアスファルトに尻餅をついてしまった。すると、振り向いた異形の児童の口角が上がり、目が細まりニヤリと笑ったかのように見えた。恐怖に震え田中は目をつぶった。


 しばらくすると、周囲から足音と歌声が聞こえ始めた。

「かごめ、かごめ、籠の中の鳥は、いついつ出やる――」

 それは先程までと違い、コンピューターで合成したような、いびつな甲高い歌声であった。音程もリズムも不自然なほどあっておらず、不協和音となっており不快と言って差し支えない物であった。

「誰か助けて助けて助けて……」

 その歌声に田中はさらに恐怖心を掻き立てられ、恐慌状態となり目を塞ぎ耳を両手で押さえ助けを求めることしかできなかった。助けを求める田中をよそに歌は進んでいく。

「夜明けの晩に、鶴と亀がすべった、後ろの正面だぁれ――」

「助けて助けて……」

「だぁれ、だぁれだぁれだれだれだれ……」

 問いかけの言葉は、はや回しのテープのように加速していく。そしてそれは途切れることなく田中に向けられ続けているようであった。ひたすらに助けを求める田中に救いの手が伸ばされることはなく、延々と奇妙な合成音声のような声で問いかけが続いた。


 際限無く続くかと思われた、その狂った遊戯は、ある瞬間にはたと止んだ。どれほどの間その遊戯が続けられたかは、定かではない。しかし、ある瞬間に声はピタリと止んだのだった。その代わりに田中の耳に入ってきたのは、耳をつんざくような高音と地面を揺らす低音であった。


 驚き振り返った田中の目に映ったのは、今まさにホームに飛び込まんとする一両の列車であった。

後ろの正面、だぁれ……

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