龍族の力
森の中にある丘の上にそびえたつ一つの建物。
一見普通の建物に見えるが、そこからは異様な雰囲気が漂っていた。
「準備はできているな?」
建物の中にいるレイドが一室のドアを開けながら声をかけた。
その部屋の中には四人の仲間が椅子に座っていた。
「奴らは俺達と戦う事を選んだらしい、既に戦力をそろえ森の出口で待っているだろうな」
「もう二週間、勝負をしに行く」
レイドの横に立っているアニムスが真剣なまなざしで呟いた。
その呟きによって仲間たちの顔つきが変わる。
「勝負の途中でしたが、そんな時間ですか」
「グレイヴ、帰ったらもう一回ね」
真剣な表情をしながらも、緊張はしていない様子だった。
「俺達の門出だ、気合を入れろ」
「分かっている」
レイドがいつになく真剣な顔つきで発言をした。
四人の仲間たちは目の前の机の上にあるオセロを中止する。
「世界を変えに行くぞ」
レイド達が戦闘に使う装備や道具を持って部屋を出た。
それと同時に世界を巻き込む大きな戦争が始まった。
◆
俺の名前はハーバグ、元冒険者で腕をかわれて今回の戦闘に参加することになった。
相手はたったの六人だってのに、お偉いさん達は二万もの兵士を用意したんだって。
俺だってこんな人数、初めて見たぜ。
「ハーバグさん、準備できました」
短剣と盾を持った若い男が俺に話しかけてくる。
こいつは俺と違って現役の冒険者、今回の戦闘には普通の軍人だけでなく冒険者も総集合している。
扱いずらい冒険者たちのリーダーが俺ってことだ。
「国王が言うには、そろそろ開戦の合図があるはずなんだがな」
人間同士の戦争は魔族との戦争と違い、奇襲などは認められていない。
宣戦布告をして、戦争開始の合図をしてから開戦となる。
相手がどんな奴かは知らないが、この人数を集められ気の毒だ。
「……誰だ?」
俺達は最前線にいる、冒険者などいくら死んでも国王は良いと思っているのだろう。
しかし、俺達の腕は自分で言うのもなんだが本物だ、騎士見たく訓練を受けたわけではないが実戦経験が違う。
「開戦の合図をしに来た」
「……敵襲!」
こんな最前線で開戦の合図、国王が言ってはいたがにわかには信じられなかった。
距離が無い状態で合図などしたら、明らかに不利でしかないからな。
だが、本当にやってくるとは……今回は楽な仕事になりそうだ。
「【龍の咆哮】」
【龍の咆哮】……こいつは龍族か! 人化できるほどの高位の龍、なるほど人数を集めたいわけだ。
しかし、相手も運が悪かったな、相手が龍殺しのハーバグだったとはな!
ヴリドラが天に放った一撃が爆発すると同時に、ハーバグの声で準備を完了した冒険者が襲いかかる。
その向かってくる冒険者を見ながらヴリドラは笑っていた。
「相手は龍族だ! 息を会わせろよお前ら!」
「「「はい!」」」
ハーバグが先陣を切ってヴリドラに襲いかかる。
それを手伝うかのように冒険者たちが魔法なり剣なりで攻撃をした。
「中級剣技【連撃】」
才能のある者しか使えない中級を見せてやる!
人化して弱体化した状態で俺達の目の前に現れた事を後悔するんだな!
ハーバグの剣技がヴリドラに直撃し、ハーバグが離れた瞬間に他の冒険者の攻撃がヴリドラを襲った。
一か所に100を超える冒険者たちの集中砲火をしたため、激しく砂埃が舞っていた。
前に翼の怪我した龍とやった時には苦戦したから警戒していたんだがな。
上位種族も落ちたってことか? いや、俺達が強くなりすぎたようだな。
全快の龍族とはいえ、ここまでの攻撃を受けたんだ、戦闘は不能だろう。
「くだらないな……」
う、嘘だろ……集中砲火が直撃したんだ、普通なら立っていられるはずが無い!
なのに……なのに……なんで一つも傷が無いんだよ!
砂埃がはれると、その中心には武器を離して倒れる冒険者の仲間と暇そうにポケットに手を突っ込んだヴリドラがいた。
ヴリドラの肌には一つも怪我が存在せず、ダメージを負っていないのは明らかだった。
「主は一応、警戒をしておけと言ったが、これでは修業の成果も分からないではないか」
「主だと……?」
龍族は誇り高き種族だ、そんな種族に主と言わせる人物がまだいると言うのか?
こんな化け物じみた強さを持つ龍族をもしのぐ強者が俺達の相手だって言うのか?
「良い獲物だ、有象無象じゃ勝てないな」
テントの中から葉巻をくわえた男が笑いながら登場した。
馬鹿にされたと感じた冒険者たちの視線が一気に男に集まる。
「な、なぜ……!?」
ミルテン、国王直属の戦闘のスペシャリストを集めた暗殺集団の一人。
元冒険者で俺と同じように腕を買われて暗殺集団に入団した。
その腕はA級冒険者に匹敵するとも言われたが問題児でC級どまりだった男。
「お前たちは国に残るんじゃなかったのか!?」
「国王様直々の命令でよ、隊長が戻ってきてるから、他の部隊の支援しに行けだってよ」
隊長だと……誰も素顔を見た事のない正体不明の男。
暗殺対象になった者は姿かたちを見ることなく自分が死んだことも分からずに殺されると言われている。
その実力は勇者と互角かそれ以上とも噂されている。 その男が帰ってきていると言うのか?
「ここは俺達にまかされたはずだ! 増援は頼んでいない!」
「まったく……今の状態でそんなこと言えんのかよ、ボロボロじゃねぇか」
ミルテンがヴリドラと横に倒れている冒険者を見ながら笑った。
言い返す事が出来ないハーバグは下唇を強く噛んだ。
「俺がいなくなってノーム国の冒険者は弱くなったって聞いたんだが、それは本当のようだな」
「なにっ!?」
言い返したいが事実その通りだ……奴がいなくなってから俺達、冒険者は凶悪な魔物を退治する者がいなくなってしまった。
その影響でノーム国の冒険者ギルドには誰も難易度の高い依頼を持ってこなくなった。
その理由もあってか、この国の冒険者たちはどうもやる気が無く、酒と女におぼれていた。
「そんな使えない後輩たちに、優しい俺は手本を見せてやろうと思ってな」
「手本だと……?」
「国に認められたノーム国の伝説の冒険者の実力をな」
ミルテンが腰に掛けている刀を抜いて凄まじい速度でヴリドラに襲いかかった。
あっという間にハーバグの横を通り過ぎ、ヴリドラの正面まで移動していた。
何という速さだ、冒険者時代の実力を見た事があるが明らかに成長している。
あの自信過剰な性格も口だけではないと言うことか……
「蜥蜴野郎! 俺の攻撃は雑魚とは違うぜ!」
「少しはまともな奴が来たか」
ハーバグの鋭い一撃を腕に鱗を出現させて軽く防いだ。
固い鱗と金属の剣がぶつかり激しい金属音が鳴り響いた。
「固い鱗を切ってやるよ! 上級剣技【断斬】」
上級剣技……それは天才の証と言われている。
初級までは努力をすれば誰でも身につける事が出来るが中級からは勝手が違う。
その会得には才能と絶え間ない努力が必要だ。
魔法と同じで剣技も級が上がる事によってSTRに掛けられる倍率が上がる。
上級にもなれば、中級の何倍もの威力を出す事が出来るはず。
「ぬるい……」
ハーバグがミルテンの実力に驚いていると、その攻撃すらもヴリドラは片手で防いでしまった。
自信満々の攻撃を軽く防がれたミルテンは目を見開きながら距離を取った。
「……す、少しはやるようだな」
上級剣技を技を使わずに防ぎやがった!?
ミルテンも平静を装っているが、明らかに動揺している。
当たり前だ、上級を何もなしで防ぐなんて普通じゃありえない。
奴の実力は異次元だ、これだけの人数が動くのも納得がいった。
「チッ……ハーバグ! 力を貸せ!」
この俺に力を貸せだと? 上級剣技すら通じない相手に俺がいくら頑張ろうが無駄だ。
暗殺集団のメンバー全員を集めるべきだ、奴は暗殺集団の隊長と同じ、勇者と互角の存在かもしれないんだ!
「お、俺には……」
「安心しろ! 戦力としてのお前は期待していない、だが龍を倒した実績は俺も認めている。龍の倒し方を俺に教えろ!」
「や、奴は俺が倒した龍とは格が違う! あてになるはずがない! お前たちのメンバーを呼ぶべきだ!」
「いいから教えろ! じゃねぇとお前から殺すぞ!」
ぐっ……! 少し実力があるからって人の話も聞きやしない。
仕方ねぇ、殺されるって言葉にビビったわけじゃないが、教えてやるか!
「龍族は自分のステータスに頼り切っている、搦め手を使えば少しは戦えるはずだ!」
「なるほどな……搦め手か、俺らの得意分野じゃねぇか!」
ハーバグから龍族の弱点を聞いたミルテンがヴリドラに再度、襲いかかった。
同じような攻め方を見たヴリドラは呆れるように鼻で笑った。
「土の精霊よ、ぬかるみを作りたもう、その力を貸したまへ、初級土魔法【泥土】」
自分の攻撃範囲に入る直前に、魔法でヴリドラの足元に泥濘を発生させた。
その泥濘に片足が沈み、一瞬でヴリドラの体勢が崩れた。
流石は暗殺集団の一員だ、相手のすきを作るのが上手い!
いかに防御力があろうが、無防備な場所に攻撃を打ち込めばただでは済まないはずだ!
「死ね! クソ蜥蜴! 中級剣技【波切り】」
波のような軌道を描きながらヴリドラの首をめがけて攻撃を放った。
体勢の崩れたヴリドラにその攻撃は直撃した……はずだった。
「受けても良かったが、それじゃ練習にならないからな」
ぬ、泥濘で片足が動かない事を利用して、その足を軸に飛んできたミルテンを攻撃した……
一瞬で状況を判断して、搦め手を工夫しながら反撃するなんて、龍族ができるはずが無い。
奴らはいかに自分が不利であっても逃げることなどせずに生物としての強さを過信して、単純な攻撃をしてこないはずじゃ……
アッパーのように下から蹴りをくらったミルテンは綺麗な放物線を描いて地面を転がった。
その衝撃で意識を取り戻し、剣を杖代わりにして何とか立ち上がっていた。
「ど、どういうことだ……! 搦め手に弱いんじゃないのか!」
ボロボロの状態のミルテンが怒りをあらわにしてハーバグを怒鳴った。
怒鳴られたハーバグも小刻みに触れながら首を振っていた。
「お、俺の知っている、龍族じゃない……本当に格が違うんだ、こいつは!」
「……お前、龍族を倒したとか言っていたな? その龍族は翼を怪我していなかったか?」
翼を怪我していたさ、だがそこまで致命傷にも見えなかった!
ほぼ全快の状態でも俺達で勝てたんだ、この人数で、しかもミルテンもいて、勝てない相手じゃなかったはずだ!
「怪我していたが、大した怪我じゃなかったさ」
「お前の功績を汚すわけではないが、それは龍族ではない」
「なんだと……? そんなはずはない! 奴は知能を持っていた、ドラゴンではなく龍族だったはずだ!」
ドラゴンだったら大した功績ではない、有名なドラゴンや邪龍や聖龍の近くにいるドラゴン以外なら俺達でも勝てる。
しかし、知能を持っているだけで討伐難易度は遥かに上がる、俺が倒したのは知能を持っていた、龍族に決まっている!
「龍族は18歳になるといきなり成長をする、精神も肉体も。 そのせいで帰って来た主に驚かれたからな」
「そ、それに何の関係が……」
「普通の龍族は18歳になるとドラゴンと戦わされる。そのドラゴンも強いドラゴンだが所詮は知能の無い魔物にすぎない、龍族が負ける相手じゃない。しかし、ごく稀に負けるような龍族のできそこないが生まれる。その龍族は力の証である翼を元に戻す事が出来ないような傷をつけられ追放される」
「まさか……」
「お前が倒したのは稀に生まれる龍族のできそこない、力のない龍族、さらには力まで壊された龍族を倒しただけにすぎない」
俺が倒したのが、龍族のできそこないだと……ふざけるな、あれだけ苦戦をして、仲間を失ってまで倒した相手ができそこないだと…
「けっ……! 通りでおかしいと思ったんだ、龍族なんて上位種族をこいつらが倒せるわけないからな」
「それにしても……あれだけ大口をたたいても人間とはその程度なんだな」
頭を抱えているハーバグを見ながら血の混じった唾を吐き捨てるミルテン。
そんなミルテンを見ながら馬鹿にするようにヴリドラが言った。
「何とでも言いやがれ、俺が勝てなくとも他のメンバーが時期にやってくる、その時がお前の終わりだ」
「ほ、他のメンバーは後ろに下がっているはずじゃ……」
やっと正気を取り戻したハーバグが質問をすると、新しい葉巻を口にくわえながら答えた。
「一万五千もの兵士がいても心配な国王の為に下がっているだけだ、こいつがここにいる時点で攻められてはいないだろうから前線に向かって来ているはずだ」
「はっ……はは……」
暗殺集団の増援が来る! 全員がそろえば龍族だろうが倒せるはずだ!
勝てる、普通なら恐れるべき集団だが、味方になればなんて頼もしいんだ!
ミルテンが笑いながら説明をすると、安心したハーバグは笑い声を洩らした。
そんな様子の二人を見たヴリドラが素朴な質問を投げかけた。
「本群にその集団がいると言うことか?」
「そうだ、いかにお前が強くとも副隊長や隊長に敵うはずが無い!」
「そうか……そいつらも運が悪かったな」
「なんだと……!?」
「多分だが、そいつらは既に死んでいる」
死んでいるだと……何を馬鹿な事を言っているんだ。
あの暗殺集団が死ぬわけがない、仮に龍族の主が出て行こうが不可能だ。
それほど暗殺集団は強すぎる。あの集団さえいればこの国は安泰だ。
「でたらめを言うな! 大事な戦力であるお前がここにいる時点で一万五千の兵士と他のメンバーを倒せるわけがない」
「……教えといてやろう」
葉巻を手に持って自信満々にミルテンが言うと、一瞬でヴリドラが横に移動してポッケの葉巻を一つ奪い取った。
そして口から少しの火を放出し、葉巻に火をつけて口にくわえた。
「いつの間に……!?」
「俺は仲間の中では確かに強い方だが6人の中の三か四番目だ、上の二人にはどうやっても勝てない」
「で、でたらめを……」
「お前たちの言う暗殺集団と本軍が戦うのは主……この世界で最強の男だ、万一にも勝ち目はない」
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