家族(レイド編)
「レイド本当に行くの?」
アニムスが前を歩いているレイドに質問をした。
そのレイドの手には一枚の手紙があり、その手紙にはノーム国王の印があった。
「戦争が始まるから戦闘要員として協力しろ、禁術を教えるなんて信じられない、それに禁術の内容まで知らない」
「……」
「さらに相手が悪名高いノーム国王、罠の可能性が高い」
「……」
「それでも契約しにノーム国に行くの?」
「……」
アニムスがいくら心配そうに注意をしてもレイドは無言のまま歩き続けた。
そして他の仲間たちが集まっている部屋のドアを開いた。
「事情は既に聞いているはずだ、俺とアニムスはノーム国に行ってくる、その間に戦争の準備をしておいてくれ」
「レイド……!?」
あれだけ忠告をしたのにもかかわらず、意見を変えないレイドにアニムスは驚く。
他の仲間たちもレイドの指示に少し険しい顔をしていた。
「主、今回は怪しすぎる、行くべきではない」
「僕もそう思うな、タロットカードの占いでは良い事は起きなさそうだ」
「ヴリドラとルージュに僕も賛成かな」
「私も皆に賛成ですな」
レイド以外の全てが行かないべきだと主張した。
しかし、レイドは鋭い目で仲間を見つめた。
「罠だとしても普通の人間ごときが俺達の脅威になるはずが無い、それはお前達も知っているはずだ」
レイドの言う通り、この部屋にいるのは人間を超越した者たち。
邪龍のヴリドラ、フェンラルの一族のジャック、悪魔大佐の単独撃破が可能なルージュ、医療の神玉使いのグレイヴ、闇の神玉使いのアニムス、そして【神玉解放】が使えるようになったレイド。
人間達がどう抗っても勝てるメンツではなかった。
「戦闘能力だけが勝負じゃない、それはレイドも知っているはず」
「アニムス殿の言う通りですな、ノーム国には制限の魔道具があります、力を知っている以上、その魔道具の装着は義務付けられるでしょう」
レイドの言葉にアニムスが反論し、それを補佐するかのごとく情報をグレイヴが付け足した。
他の仲間達の顔を見ると、全員賛同するように小さくうなずいていた。
「確かに、お前たちの意見が正しい、普通に考えたらこれは罠だ」
「なら……「だがな、それでも俺は行くぞ」」
アニムスが少し明るそうな顔をした瞬間、言葉を遮って強く言った。
全く変わらないレイドの意見にルージュは疑問を感じ、質問をした。
「レイドはさ、何が目的なの?」
「……どういうことだ?」
ルージュが目を細めながら質問をすると、少し間が空いた後に返答した。
その少しの間で何かを隠している事が仲間全員には分かった。
「禁術の中には様々な種類がある。その中には死んだ者との会話も可能、それを狙っているってこと?」
「……そうだ、よくわかったな」
またレイドは間を空けて返事をした。
「ヴァラーグは魂ごと消えている。ヴァラーグと会話するのが目的じゃないよね?」
「……俺が、お前らに隠し事をしていると思っているのか?」
「レイドさ、嘘をつくの本当に下手だよね」
「なんだと……」
ルージュがへらへらしながらそう言うと、少し不機嫌そうな表情をした。
初めて見る仲間割れに他の仲間達も動きを止めてしまう。
「隠し事をしてないなんて嘘はよくないよ、魔法の勇者レイド・イシス」
「……」
ルージュが不敵な笑みを浮かべながらレイドにそう言った。
聞いた事のない神名と勇者という響きに仲間達はレイドの方を向いた。
「やっぱり、話してなかったんだ……そろそろ話したらどうなの? 君の昔を」
「……くだらない、そんな話しをしている場合じゃないだろう」
話題をそらすようにレイドが吐き捨てると、アニムスがレイドの正面に入り、目を見つめた。
アニムスの目を見たレイドはため息をつき、近くの椅子に座った。
「俺は……」
◆
一人の銀髪の男の子が眠そうに二階から下りてくる。
そんな様子の男の子の視線の先には二人づつ女性と男性がいた。
「おはよう、レイド」
「おはよう、母さん、父さん、エル姉ちゃん、ケン兄ちゃん」
銀髪の男の子……幼きころのレイドが母さんと呼んでいる人に挨拶をされる。
レイドは眠そうな顔をしながら家族全員に挨拶をした。
「今日は遅かったな、剣の稽古の時間ギリギリだぞ」
「昨日、ケン兄ちゃんと一緒に「風と太陽」を読んでて、すっかり遅くなっちゃたんだ」
「ケン、稽古の前日は読むなって言っただろ」
「ごめん、ごめん」
レイドが寝坊した理由を説明すると、父親がケンという長男を叱った。
ケンは父親の遺伝子が色濃く影響しており、似たような顔立ちをしていた。
「レイドは本に夢中になっちゃうんだから、前だって「魔王と英雄」を私が渡したら一向に眠らないんだもん」
「ケン兄ちゃんもエル姉ちゃんも楽しい本を選んでくるだよ、仕方ないじゃん」
レイドは椅子に座り、机に置いてあるパンを食べながらそう言った。
今のレイドからは考えられないほど明るい性格をしている様子だった。
「食べ終わったら来いよ、今日は俺が相手をしてやるからな」
父親が壁に掛けていた剣を手に取りながらそう言い、庭へと向かった。
エルとケンもレイドの頭をポンポンとして父親について行った。
「母さん! 今日は父さんいつまでいるの?」
「そうね、戦争も今は落ち着いているから一週間入るんじゃない」
「やった! 父さんとたくさん稽古ができる!」
母親の言葉でレイドが両手を伸ばして嬉しそうに言った。
その様子を母親は微笑ましい物を見るような目で見ていた。
「本当にお父さんとの稽古が好きなのね」
「当然じゃん! だって父さんは人族がみんな恐れる、恐剣ガウラだよ!」
レイドの言う通り父親のガウラは魔族と人族の戦争において畏怖の対象となっている。
戦術級剣技を使えることから、ガウラ一人で戦況を変えることができると言われている。
「ごちそうさま! 行ってくるよ!」
「はい、行ってらっしゃい」
手を合わせて完食の挨拶をして、剣を持ち庭へと向かった。
母親は手を振り、レイドを見送った後、食器を洗い始めた。
「父さん、来たよ!」
レイドが庭に付くと、そこには息を乱して倒れているエルとケンの姿があった。
持って行った刃の付いていない剣が吹き飛ばされていることからガウラに負けたということがわかった。
「遅かったな、二人はもうギブだってよ」
「はぁ……はぁ……俺と姉ちゃんは魔法使いなんだから手加減してよね」
「本当にそれ……父さんとかレイド見たく……脳筋じゃないんだから……」
息を乱しながらエルとケンは言い訳を始めた。
そんな言い訳を無視してガウラがレイドに丸い剣の先を向ける。
「レイド、こんな軟弱者と違って俺の戦闘スタイルを受け継いでるってのは母さんから聞いている、まずは、どのくらい強くなったのか確かめさせてもらうぞ」
「はい!」
大きな声で返事をしてレイドが綺麗な型をとる。
そんなレイドにガウラが凄まじい速度で襲いかかる。
「初級剣技【初撃】」
レイドが上から鋭い一撃を放つ。
その攻撃をガウラは手首を回し、受け流しながら攻撃に移った。
「初級剣技【打ち】」
剣の横でレイドの顔面を攻撃する。
その攻撃をレイドは体を後ろに反らして回避した。
「よく避けたな、だが……」
ガウラが少し関心しながらレイドの両足を払う。
地面に唯一、接している両足が空中を舞い、重力により地面に引き寄せられる。
「少し甘いな」
ガウラがそう呟いた瞬間、レイドが剣をが腕の上に通し、剣の先を片方の手でつかみ重力に逆らった。
そして体に勢いをつけ、ガウラの顔の位置までジャンプする。
「もらった! 中級剣技【波切り】」
剣を持っている腕を脱力し、波のように揺らしながら攻撃を放った。
「もう中級が使えるのか……中級剣技【表流し】」
レイドの攻撃に驚きながらも、ガウラは剣技を放つ。
ガウラの剣技によって、レイドの攻撃の方向が変化し、自分に直撃した。
「うぎっ……」
痛みで小さく声を上げながら地面に倒れこんだ。
倒れたレイドに近寄り、ガウラは膝を曲げて声をかけた。
「いつの間に中級剣技を使えるようになったんだ?」
「痛て……三週間ぐらい前に本見て真似してたら出来るようになった」
「独学か……」
剣技というのは魔法よりも努力と才能が必要で、普通の者は初級を覚えるだけで精一杯になる。
中級を覚えるためには、本来ならば絶え間ない努力と見合った才能が必要になる。
それを本を見ただけで覚えた自分の息子の才能にガウラは嬉しくも恐ろしくもあった。
◆
「……俺は幸せだった、あの時までは」
「……やっぱりレイドは魔族だったんだね」
「あぁ……」
レイドが魔族だったという事を知った仲間達は何も動揺していなかった。
皆、種族など関係が無いような性格をしていたからである。
「……」
「……」
レイドの話を仲間たちは話の続きを待っていた。
こんな話ならば隠し事ですらないからである。
「その後に何があったんですか?」
いつまでたっても続きを話そうとしないレイドに痺れを切らしたグレイヴが質問をした。
レイドは一回目を瞑り深呼吸をして話を続けた。
「俺たち、家族は犯罪者として捕まった」
「「「「えっ……?」」」」
いきなりの話しの流れの変化に皆、声をそろえて驚いた。
「誰かが犯罪を犯してしまったのですか?」
「いや、結果としては誰もしていなかった、冤罪をかけられたんだ……」
◆
冤罪をかけられたレイド一家は処刑宣告をされた。
しかし、抵抗の末にガウラは命を犠牲にして家族を逃がすことに成功した。
「はぁ……はぁ……」
ガウラが死に際に渡した剣を持ち、泣きながら家族とは逆方向に逃げるレイド。
その理由は嫌いだった人間達に助けを求めるために。
レイドはジュエリニアに数日間をかけジュエリニアに到着した。
そこで勇者として認められ、神と会話することになった、その神がイシスだった。
「冤罪? 何のために!」
『魔王は魔族と人間のハーフが許せなかったのでしょう』
イシスの言葉を聞いたレイドは魔王を倒すために嫌いな人間達に協力して魔王を倒すことにした。
魔王城まで到着すると、仲間とは離れ離れにされる。そして、ついに魔王と対面したが、そこには仲間はいなかった。
魔王の発言は信じられなかったが強制的に家族が逃げている魔族の村へと転移させられた。
転移した先に会ったのは地獄だった、家族や逃げるのを手伝ってくれた人たちの死体が転がっていた。
そして人間である母親がガウラに魔族は危険だからといわれ渡された魔道具……一回だけ魔族の力を半減させる液体をレイドは仲間達に掛けられた。
弱体化の力は強く、仲間たちには完敗してしまう。そしてとどめを刺されそうになった瞬間、白い空間に転移した。
そこで出会ったのがロキだった。誰も信じられなくなったレイドはロキの事を信じなかった。
しかし、十分な証拠と口のうまさでレイドは信じ切っていた。
「冤罪をかけたのは魔王と人族の王」という事実を。
ハーフは本来ならば種族の良さが両方とも消えてしまい才能のない物が生まれることが多いため良くない存在とされている。
しかし、ごく稀に才能に溢れた者がハーフから生まれる両親の組み合わせがある。それがレイド一家だった。
魔王は自分が殺され、次世代の魔王になる可能性をなくすために処刑をし、人間は禁忌とされるハーフを処刑したかった。
どちらもレイド一家を殺すことに賛成し、協力的な関係となった。
その事を知ったレイドは魔族と人間の両方が復讐の対象となった。
そして、復讐を開始したレイドはアニムスと出会った。
◆
「レイド、君は知りたかったんでしょ? 自分の家族を地獄へと突き落としたのは本当に魔王と国王なのか……でも二人とも既に死んでいる、だから禁術をどうしても手に入れたかったわけだ」
「………」
レイドはルージュの質問を無言で返した。
この場合の無言を仲間たちはみな、肯定を意味していると考えていた。
「ならば行ってくると良い」
沈黙が響く部屋の中でヴリドラが軽く言った。
他の仲間たちも首を縦に振って、賛成していた。
「俺達は目的を果たすために協力し合っている、主の目的に関わってくるのであれば危険を犯してでも行くべきだ」
「そうですね、目的の為なら危ない場所に行くのも賛成しますよ」
ヴリドラの言葉に加えて、グレイヴも賛成した。
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