仲間の…(レイド編)
レイドは【メラメラ山】と呼ばれている火山活動の活発な山で神玉持ちと戦っていた。
相手はミノ・ミノタウロスで獣の神玉を偶然手に入れた魔獣だった。
「グゴォォォォ!」
「獣程度が神玉を持ってるんじゃねぇ、戦略級剣技【乱れ桜】」
力任せに攻撃してくるミノタウロスの攻撃をかわしながら攻撃を確実に当てていく。
獣の神玉によりタフになっているとはいえレイドの猛攻には10分も持たなかった。
「グゥゥゥゥ…」
「知能すらねぇのに神玉使えるあたりお前は天才だったんだろうな、だが相手が悪かったな、反逆の力、神の力を手に入れるため、理に反逆せよ【神奪】」
レイドは戦闘不能になっているミノタウロスから神玉と魂を同時に奪った。そして神玉は謎の箱に、魂は自分の体の中に入れた。
「さて、隠れ家に帰るか…」
レイドは山を降りて自分たちの隠れ家に向かった。
隠れ家は見た目はただの洞窟だが、奥にアニムスの隠蔽魔法が掛けられたドアの先にある。
そのドアはアニムスが専用に作った魔道具を持っていないものにはただの岩に見えるようになっている。
「今帰った」
「レイド…怪我は大丈夫?」
隠れ家に入ると魔法の練習をしていたアニムスはそれを止めてレイドに近寄った。
そして怪我がないかを確かめ、無いことがわかると、ほっとした表情を浮かべた。
「よかった…」
「…魔法の練習をしていたようだが頼んでいたものは大丈夫か?」
「うん、少し前にできた」
アニムスはそう言いながら魔法で地図を持ってきた。
そして近くの椅子に二人は座り地図を広げ一緒に見る。
「この地図にはレイドに頼まれたように、神玉のある程度の場所が出るようになってる、グレイヴを仲間にしてから二年…私が1、グレイヴが1、ジャックが0、そしてレイドが5だから残り93…まだまだ足りない」
「二年…もう二年になるのか…」
レイドは上を向き目を瞑りながらこの二年間を思い出した。
神玉持ちとの戦い、隠れ家の完成、そしてジャック達との出会い。
「…そういえばジャックとグレイヴは?」
「グレイヴは前にレイドが取って来た医学の神玉を研究してるよ」
「まだ吸収していなかったのか?」
「吸収するなら特性とかわかっておきたいんだって」
「ふーん、それで?なにかわかったの?」
「何もわかってないって」
レイドの質問にアニムスはため息交じりにあきれたように応えた。
その答えを聞いてレイドは少し笑顔になっていた。
「じゃあ、ジャックは?」
「ジャックはそろそろ…」
アニムスが何か言うと同時に隠れ家のドアが勢い良く開きオオカミが侵入してきた。
そしてアニムスに近寄り頭をなでるのを要求するように甘えた。
「ジャック…今レイドと話してるの、邪魔」
「アニムス様が!?僕のこと邪魔…邪魔っていった!?」
「うん、邪魔は邪魔」
「ガーン!!」
邪魔と言われたジャックと呼ばれる黄金色の狼はショックでその場に力無く倒れた。
そんなジャックの姿を見て、レイドはあった時のことを思い出す。
「ジャックもあの頃と違って大きくなったよな」
「はい!今ならあの蜥蜴にも負けません!」
「まったく瀕死だったのが嘘みたいだ」
「ジャックは少し元気すぎ、少し怪我しておいた方がいい」
「アニムス様~酷いですよ~」
ジャックはアニムスの言葉で涙目になりながら地面に伏せる。
その様子を見た2人は声を上げて笑い円満な空気が流れる。
これだけアニムスになついているのも最初に見つけ応急処置したのがアニムスだったからである。
「…そうだジャック、渡しておきたいものがある」
笑うのをやめてレイドは【空間倉庫】から神玉の入った謎の箱を取り出した。
そしてジャックに中の神玉について説明する。
「この神玉は獣の神玉だ、お前によく適合するだろう」
「僕に神玉くれるんですか!?」
「あぁ、ちょっと戦力が欲しくてな、なんせ次に向かうのは下だからな」
レイドはそう言って下を指さした。
そして何を言っているかわかっていないジャックは首をかしげた。
「レイド殿、ついに向かうのですね!」
「とうとう…」
「え…?え…?アニムス様もグレイヴも知ってるの?」
部屋から飛び出て来たグレイヴを見ながら、レイドの言葉の意味が一人だけわからないジャックは困惑していた。
「地獄に行くぞ…!」
レイドのその言葉を聞いたアニムスとグレイヴは準備を始めた。
グレイヴはついに神玉を吸収し、アニムスは戦闘用の杖を箱から取り出した。
「その前に…」
レイドは準備で忙しそうにしている三人?に見つからないように急いで近くの山に向かった。
そして頂上付近にある洞窟に入ると何者かに声をかける。
「準備できているか?ヴァラーグ、ヴリドラ」
「愚問だ、我ら邪龍に準備など必要は無い」
「……」
「相変わらず無口な息子だな」
「すまぬ、愚息でな…未だに殿を警戒しているようだ」
「……」
「他の奴らと会った時も無口だったからな」
レイドは少し落ち込みながらそう呟く。
その様子を見た親であるヴァラーグが笑いながら訂正する。
「お嬢の時は楽しく話しておった」
「あー、確かにな、アニムスは何だが動物に好かれるらしいな」
レイドはジャックの甘えている顔を思い出して引きつった顔をしながらそう言った。
そしてヴリドラとレイドはヴァラーグの背中に乗り三人を迎えに行った。
「お嬢、グレイヴ、ジャック、向かうぞ」
「おぉ、随分と久しいではありませんか、とっくにいなくなったものだと思いましたよ」
「よろしく頼む~」
「よろしく…それとジャックは早く私から離れて」
グレイヴは久しぶりに会ったヴァラーグ達に驚きながらも優雅に一礼した。
アニムスは近寄ってくるジャックを手で引き離しながら挨拶をした。
「さて、みんな乗ったよな…よし、行くぞ」
レイドの合図によりヴァラーグが地獄への入口に向かって飛び立った。
◆
地獄の門の前に着いたヴァラーグはゆっくりと着陸しみんなを地面に下ろす。
そして森の中心に禍々しくそびえたつ門の前に並ぶとレイドはアニムスに合図を送った。
「アニムス、頼む」
「はい、戦術級闇魔法【闇場】」
アニムスから出た黒い闇が森全体を包み込み生物の全てが眠りに就いた。
そして魔法が森全体に行きわたるのを確認すると詠唱を開始した。
「魔族を封印せし力よ、魂を代償にその門を開きたまへ、【開門】」
レイドが吸収していた神玉に耐えることのできる魂が生贄になり門がゆっくりと開いた。
鎖も切れ、禍々しい風が吹き荒れ、断末魔が脳に響いた。
「この魂でも連れてこれるのは悪魔100体程度だが…俺の予想が正しければ…」
門から出てきたのは一体の悪魔だった。
その悪魔は、普通の悪魔の比ではない恐ろしいほどの力を持った悪魔だった。
「予想通り、悪魔…いや、この力は大将か?」
悪魔には階級があり、大罪悪魔などは除いて考えると、悪魔→悪魔大尉→悪魔大佐→悪魔大将となっている。一般的に召喚されるのは悪魔で、悪魔大尉になると膨大な対価が必要になる。
「いい魂だ…うーん、マルファス様の復活だー!」
「…楽しんでるとこ悪いが、無視すんなよ」
体を伸ばしているマルフォスにレイドはそう言いながら攻撃を放った。
油断していたこともあり、マルフォスは簡単に吹き飛ばされた。
「あぁ?いったい何が…」
「戦術級闇魔法【闇渦】」
マルフォスは殴られた場所を押さえながら起き上がる。
その瞬間にアニムスが魔法の黒い渦でマルフォスを上空に上げた。
「アニムス様にカッコいいところ見せる機会だ!」
上空を舞っているマルフォスの手を口にはさみそのまま地面にたたきつけた。
そしてその場所から離れヴァラーグの邪魔にならないようにする。
「【龍の咆哮】」
ヴァラーグの攻撃はマルフォスに直撃し地面を砕いた。
土煙が舞いマルフォスの姿が見えなくなる。
「さて、これでどのくらい効いてるかな?」
レイドはそう呟きながら土煙を注意深く観察をした。
土煙がはれると、そこには屈伸をしているマルフォスの姿があった。
「いやー、寝起きのマッサージとは随分歓迎してくれるじゃないか」
「…予想以上だ」
「レイド、出し惜しみしない方が…」
「わかっている」
レイドとアニムスがそう会話をするとグレイヴに合図を送った。
合図を送られたグレイヴは頷き神玉の力を解放した。
「医学の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」
グレイヴが力を解放したのを確認すると、レイドとアニムスも力を解放する。
「破壊の力、剣の力、反逆の力、それらの力を解放しろ【勇者解放】」
「闇の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」
二人の模様が光り出し、レイドは禍々しいオーラを放ち、アニムスは空を暗くさせた。
その様子を見ていたマルフォスは笑いながら手を叩く。
「神玉持ちとはすばらしい…すばらしい…すばらしいぃぃ!」
マルフォスの背中から翼が生え周りに合った草木が枯れ始めた。
そして笑顔のままレイドに攻撃を仕掛けた。
「楽しませて下さいよぉ!」
マルフォスの鋭い蹴りがレイドを襲った。
レイドはその攻撃に反応しその攻撃を受け止めた。
「戦略級闇魔法【超重力】」
レイドを巻き込みながらもマルファスを攻撃した。
しかし重力が5倍になった空間でも二人は支障が無いかの如く激しい戦闘を行う。
「戦術級拳技【爆裂拳】」
レイドの凄まじい猛攻がマルフォスを襲う。
しかしその攻撃をいとも簡単にマルフォスは相殺していく。
「流石だ…」
「そちらこそっ!」
さらにレイド達とマルフォスの戦闘は激化していった。
◆
レイド達の戦闘が始まってから1時間が経過した。
そしてそれと同時に戦闘が終わった。
「はぁ…はぁ…大将…流石の実力だったが、はぁ…はぁ…なんとか勝てたな」
「…少し危なかった、グレイヴがいなかったら出血的にこっちがやられてた」
「確かに…僕も体力が…」
「我も…」
レイド達はそんな言葉をこぼしながらその場に倒れた。
マルフォスはそんなレイド達を睨みながら話しかけた。
「私を…ここまでにしておいて…許しませんよ」
「はぁ…はぁ…今のお前にはどうすることもできない」
レイドはゆっくりと立ちマルフォスに冷たい言葉を投げかけた。
「私は死ぬでしょう、しかし…あなたたちも道連れです…私の魂を全て使えば…少しぐらいは…」
マルフォスがそんな不安な言葉を吐きながら絶命した。
そしてそれと同時に魂が体から離れ地獄の扉に飲み込まれていった。
「有象無象が現れようが…変わらない…」
レイドは剣を取り出して大軍を待ち構える。
そしてその瞬間、レイドは十数メートル吹き飛ばされた。
「マルフォスよ、魂を使って殺すのがさっきのゴミか?怠けすぎたな」
「レ、レイド!」
「貴様、よくも殿を!」
ヴァラーグが拳を握り地獄の門から出てきた悪魔に拳を放った。
悪魔はその拳を片手で受け止め、地面にたたきつけた。
「うがぁっ!」
「ヴァラーグ!災害級闇魔法【混沌】」
アニムスが悪魔に近寄り最大火力を誇る魔法を放った。
しかし、その魔法も片手で受け止められ握り消された。
「ふわぁぁぁ~、つまらなすぎる、ちゃんとやれ」
あくびをしながら暇そうにそう言った悪魔に近寄った者がいた。
それは吹き飛ばされ血だらけのレイドだった。
「ほぉ、強めに撃ったのに生きていたか」
「舐めるなよ!災害級剣技【天麗斬】」
地獄の門を除いた周りにある物が全て真っ二つになるほどの一撃が悪魔を襲う。
しかし、そんな鋭い一撃も悪魔は片手で止めてしまった。
「もう少し、もう少し強ければ楽しめたかもな」
「なっ…!?」
そう言いながら悪魔がレイドに蹴りを入れる。
凄まじい早さで吹き飛ばされ、木々を折りながらまた数十メートル吹き飛ばされた。
レイドはより血だらけになり、骨のほとんどが折れていた。
「さて、どこのどいつだが知らないがな、まだ生きてるとはタフじゃねぇか」
レイドは朦朧とする意識の中、悪魔の声を聞く。
(いったい…こいつは…)
悪魔はレイドの髪をつかみ、顔を覗き込みながら自己紹介をした。
「お前を殺すやつの名前はルシファー、悪魔大将ルシファーだ、その魂に刻みこみな」
そう言ってルシファーはレイドにとどめの一撃を入れようとする。
そんな様子をレイドは半目で見ていた。
(悪魔…大将……お前だ…った………か)
ルシファーの攻撃がレイドの体を貫く瞬間、何かがレイドを連れ去った。
それは…ジャックとヴァラーグが引いている馬車のようなものだった。
「レイド!しっかりして!レイド!」
「アニムス殿、どいて下さい!」
レイドに近づき声をかけるアニムスをどかしてグレイヴが治療を開始した。
今までにないほどの傷に、グレイヴもレイドが助かる可能性があまり見いだせていなかった。
「あっ!あの悪魔追ってくる!」
ヴリドラが追ってきているルシファーを指さしながら大声を出す。
そしてアニムスは決意したかのような目で荷台から降りようとした。
「アニムス殿いったい何を!?」
「…いま追いつかれたらレイドは確実に殺される、誰かが時間を稼がないと」
「だからと言ってアニムス様が…」
「じゃあ誰が行くの!?」
「…っ!」
アニムスの言葉に反論しようとしたジャックが聞いたことのないような大声で押し黙る。
そして拳を強く握りながら説明をする。
「ヴァラーグとジャックはこれを引いている、グレイヴは治療している。ヴリドラは戦えない…なら私しかいない!」
「ですがっ…「グレイヴ…レイドをお願い」……了解いたしました」
まだ止めようとするグレイヴにそう声をかけるとグレイヴは下を向きながら答えた。
そしてアニムスは追ってきているルシファーの方を向き飛び降りようとした…
「お嬢は殿の隣にいてやってください」
瞬間、人化したヴァラーグがアニムスを荷台に引き戻し自分が荷台の外に出た。
「…ジャックは獣の神玉を吸収した、我がいなくても問題はあるまい」
「ヴァラーグ!いったい何を!」
「お嬢がいなくなれば殿が悲しみます、目が覚めた時にお嬢がいた方がいいでしょう」
その言葉を最後にして声が届く距離は終わってしまった。
そしてヴァラーグはルシファーの方を向いて、笑う。
「お前一人で俺を止めるつもりか?」
「…この闇を抜ければお嬢は転移魔法が使える、そうすればお主がいなくなるまでの時間は充分であろう」
「すぅー、あのスピードで行くと10分…お前に耐えれると?」
「…普通じゃ無理であろう、しかし神ならどうだ?」
「貴様っ!神龍になるつもりか!」
ルシファーが怒りをあらわにしながら叫ぶ。
ヴァラーグは笑みを絶やさずに沈黙する。
「魂ごと消える…その意味がわかっているのか!」
「知っている、龍である我ならば5000万年もすれば転生できるだろう、しかしだな長年生きて龍生を終わらすのに、
魂をささげるのに値する主人ができたのでな…」
「貴様…本気か!」
「ふぅ…はぁ…ふぅ…はぁ…」
ヴァラーグは静かに深呼吸をした。
◆
グレイヴの治療により走っている途中でレイドは目を覚ました。
「レイド!よかった!」
「…アニ…ムス、俺は…」
レイドは今の状態を確認するかのように周りを見る。
そしてヴリドラが涙を流しているのとヴァラーグの姿が見つからないことがわかった。
「おい…ヴァラーグ……は…?」
「「「……」」」
レイドの質問に全員が沈黙で答えた。
そしてレイドは強めの声で再び確認をした。
「言え…!ヴァラーグはどこに…行きやがった…!」
「……」
「アニムス…!」
「…ルシファーを……一人で」
「なっ…!?」
レイドはアニムスの発言を聞くと体を置きあがらせて増援に向かおうとする。
しかしグレイヴによってすぐに抑えつけられた。
「な…何しやがる…!」
「レイド殿が行って何になるんですか!」
「だからと行って見殺しにするつもりか!」
その言葉と同時に後方でまばゆい光が発生した。
その光を見たレイドは信じられないといった表情で固まっていた。
「ま、まさか…あれを…」
「お父さん!」
その光は【神龍化】というスキルで発生した光だった。
【神龍化】は神の力と相当の力を引き出すことができるスキル、しかし代償として魂を削っていく。
「……っ!?」
【神龍化】によって聞こえてくるヴァラーグの言葉にみんな耳を傾けた。
◆
まばゆい光が止むとそこには金色に光るヴァラーグの姿があった。
そしてヴァラーグは最後の言葉を贈る。
「殿、お嬢、我の腐りかけていた龍生を意味のあるものにしていただいた恩を返させてもらう。殿…いや、レイド、お主の世界が見れないのが残念だが仕方あるまい。アニムス、レイドが暴走したら止めてやってくれ、クールにふるまってはいるがお主がいないとレイドはダメだ」
ヴァラーグは天を仰ぎ昔を思い出しながらそう語る。
「そして…愚息ヴリドラよ、我が見れない殿たちの景色を我の代わりに見てくれ。最後まで泣き虫は治らんかったが我がいなくなった後、殿たちに仕えるのはお前だ。最強を目指す者に使える者として恥のない龍になれ!言っておく!お主には龍の血が流れているのだ!」
そう言ってヴァラーグとルシファーの戦闘が始まった。
その戦闘は凄まじく音がレイド達のもとに届いていた。
「……」
レイドは天を見ながら静かに泣いた。
いや…レイド以外の者たちも気づかれないように泣いていた。
次の話は短くなります。




