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アオハルシリーズ

目覚まし時計が壊れました

作者: 青井はる

夏の暑い朝の出来事。

夏の日差しは朝っぱらから強い。


暑い。本当に暑い。

額からは汗が絶え間なく流れ落ちてくる。

普通に歩いていたらこんなことにはなってないはずなんだけど。

私は走っていた。

理由は単純。

目覚まし時計が壊れたから。


「もう、なんで、鳴んない、の。あの、ポンコツ」


毒づきながら、通学路を行く。

あいにく運動部に所属してない私の体力はたかが知れているので、簡単に息が上がってくる。

スマホで確認した時刻は、いつもより10分遅い。

もうダメ、と思いながらも、もしかしたら間に合うかもという希望も捨て切れなくて必死に走る。

いつもきっちり同じ時間に通学路を通る彼がいるはずが無い事はわかってるけれど。

それでも、息を弾ませながら足を進めた。

目指すは次の曲がり角の先。




朝練に合わせてちょっと早い時間に登校する石田君と朝たまたま会ったのは、私が委員会で早く家を出た日が最初だった。

後ろから追い抜かそうとする自転車が真横で突然止まって、どうしたのだろうと横を見ると爽やかな笑顔の石田君が私を見ていた。


「おはよう早瀬。早いな」

「お、おはよう!今日風紀委員の服装検査の日だから」

「そっか、大変だな」


頑張れよ、と残して自転車を漕ぎ出した石田君の背中を見ながら、ガッツポーズをした。

同じクラスだけど、滅多に話す機会の無い石田君と一言だけでも言葉を交わせるのが嬉しくて、用も無いのに毎日早く登校するようになった。

おはよう、と言って笑ってくれると、一日張り切って過ごせる。

大切な日課だったのに。


「・・・っ」


曲がり角を曲がって、足を止めた。

後ろも振り向いて姿がない事を確認したら、急に走ってきた疲労感が襲ってきた。

はあ~、と深い息を吐きながら、その場にしゃがみ込む。

やっぱり、石田君はもう通り過ぎちゃったようだ。

大げさかも知れないけど、なんだか泣きたい気持ちになってくる。

自転車を止めて、おはよう、と言ってくれるだけの些細な事が、私にとって一日のテンションを左右してしまう。

くっそう、目覚まし時計のばか。

はあ、ともうひとつため息をついたとき、ふっと影が落ちてきた。


「早瀬、どうした!?」


焦ったような声に顔を上げると、ちょうど私の目の高さに屈んだ石田君と目が合った。

心配そうな石田君が、私を伺うように顔を覗きこんでくる。

近すぎる顔に、照れるとか見惚れるよりも、ぽかんとしてしまった。


「腹でも痛いのか?大丈夫か?」

「え、ううん、全然、平気、だけど・・・」

「なんだ、そっか。しゃがみ込んでるから具合悪いのかと思った」


石田君はほっとしたように顔を弛ませた。

彼がそのまま立ち上がったので、私もそれに合わせて身体を起こした。

よく見ると、石田君の横に自転車が見当たらない。


「・・・石田君、今日歩きなの?」

「ん?ああ、いや、違う」

「でもじゃあ自転車は?」

「学校に置いてきた」


置いてきた?

首を傾げると、石田君が苦笑いをした。


「実は、引き返して来たんだ」

「え?」

「一回学校行って、駐輪場に自転車置いて」

「どうして?・・・あ、忘れ物?」

「違うよ。・・・早瀬が」

「?私?」


石田君はじっと私を見て、少し黙った。

それが、なんだか恥ずかしくて、カーッと顔に熱が集まってきた。

彼はそんな事お構いなしに私を見つめたまま、口を開いた。


「早瀬が、いなかったから」

「・・・え?」

「いっつもここで会えるはずの早瀬がいなかったから引き返して来たんだ」

「えっ、な、なんで!?」

「だって、早瀬と話せるチャンス、ここくらいしかないだろ」

「えっ?」

「早瀬のおはようを聞かないとダメなんだ。俺」

「・・・へ」


暑い。

夏だから、だけじゃない。

石田君の顔が赤いのも、多分私の顔も赤いだろうけど。

まさか、石田君も、私と同じ事を思ってくれていたなんて想像もしてなかった。


「私もっ、・・・私も石田君のおはようを聞きたくて、走ってきた」

「えっ、ほんとに?」

「うん」

「なんだ、まるで俺ら、ここで待ち合わせしてたみたいだな」


はは、と石田君が嬉しそうに笑ったので、私も自然と顔が綻んだ。


「なあ」

「何?」

「どうせだから、これからは正式に待ち合わせしませんか」

「えっ、ええ!?」

「そんなに驚かなくても・・・」

「でも、だって」

「だめ?」

「そんなことない!」


じゃあ、いい?

少しだけ不安そうに首を傾げる石田君に、私がノーといえるはずが無い。

こくりと控えめに頷くと、頭上からほっと息が漏れた。


「そしたら、行くか」

「う、うん」

「・・・あ、」

「?何?」


歩き出した足を一歩で止めて、石田君が真面目な顔で振り向いた。


「まだ言ってなかった」

「・・・何を?」

「おはよう」

「・・・あ、おはよう」

「・・・うん」


満足そうに笑って、石田君はまた足を進め始めた。


「ところで」

「ん?」

「石田君、朝練は?」

「・・・それはもちろん、遅刻です」


ボツも含めて、通学路の話ばっかり書いてることに気付いた。通学路って、なんかロマンがあるというか・・・

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