8話 勇者の資格
ゴブリン。
それは彼が日本でしていたゲームや見た話の中では雑魚とされていた魔物。
この世界においては厄介な魔物だった。
だが、ロンドは子供と姫を守る為に戦う事を決意するのだった。
俺は憑りつかれた子供達を睨む。
だが、彼らを攻める事は出来ない。
子供が無邪気故にその心に抱えてしまった罪悪感。
それがゴブリンがつけいる隙になる。
つまりあの子供達は悪くない。
だが、確実に近くに本体が居る!!
そいつを叩けば!!
「……見極める。俺のこの目で!!」
俺には魔法の弱点を見極める力がある。
そして、魔物を倒す力もあるという……。
もしそうであれば妖精族であるゴブリンを見つけることもできるはずだ。
「くそ!! どこだ! 何処にいる!!」
子供を見つめるな、周りに居るはずだ!!
根拠なんて知らない、だが、近くに居る!! それは分かっている!!
焦りつつ周りを見渡す俺だったが……注意をしていたから気が付けたのだろう。
「フレイムボルト……」
魔法が唱えられ、ハッとし、前を見る。
するとそこには魔法を唱えたらしき少年が見えた。
「ひっ!?」
そして続いて聞こえるのは怯えたルティナの声。
この土の国を治める王は勿論土の属性を持つ種族エルフだ。
彼らは土の加護を得て、その魔法力を高めるのが仕事だ。
しかし、それでは魔物の活性化につながってしまう。
その為、民は火の属性の加護を受けるヒューマンだ。
有効属性である俺達の大半を住ませる事で魔物の脅威から巫女を守るのが目的だ。
だが、それではどうして反乱がおきないか?
それは簡単だ……。
巫女が居なければこの世界はあっさりと魔物にあふれる事になる。
そうなってしまえば、俺達に生きる術は無くなってしまう。
だからこそ、彼女達巫女は俺達を支える為に力を使い世界を守る。
その巫女を俺達が守る。
これで俺が今いるこの世界の均衡は保たれている。
だからこそ、彼女にとっての脅威は炎の魔法を使う魔物であり……。
この土の都ではゴブリンが天敵となる。
何故ならゴブリンは子供を操りこのように魔法を使うからだ。
そして、彼女は本能で怯えてしまった。
だが――。
「その程度なら!!」
俺は魔法が放たれた瞬間魔法へと目を向け、手に取った石を投げつけた。
すると魔法はその場ではじけ、効果は失われる。
そうだ、こうやって俺は見たんだ……無理に見ようとしたわけじゃない。
自然に……いつの間にか見えるようになっていた。
だから、見たい物を見るように目を向ければ見えるはずだ!
「――焦るな、居るんだ何処かに!!」
自分に言い聞かせ、俺はようやく見つけた――。
「そこだな、そこに居る!! その醜い顔が見えたぞ!!」
ゴブリンと言うのは何処の世界でも同じような顔なのだろうか?
とにかく醜かった、目は狐目で、でこぼこした肌やけに大きい鼻。
色はついていないが、誰もが想像するゴブリンだ!!
「魔物に何を言っても無駄だからな!!」
俺はそう言うと拳を握る。
するとゴブリンは自分が気が付かれた事に気付きナイフを取り出した。
ただのナイフではない。
それはゴブリンの作った物なのだろう、目を凝らさなければそれがナイフだとは気が付かない。
対する俺は素手だ……だが、迷う時間はない!! 俺はこのまま――。
「そうだ、このまま――!! ぶん殴るだけだ!!」
俺は拳を構えゴブリンへと向かう。
するとゴブリンが両手でナイフを構え俺へと向かって来た。
ゴブリンはひ弱だ。
だからこそ、普通にナイフで刺すぐらいじゃすぐには死なない。
だが、ゴブリンは馬鹿じゃない……。
殺す術は知っているし、そのためより力の入りやすくしようと両手で構えているのだろう。
「ぐぅ!?」
事実、俺の足にはナイフが深々と刺さった。
胸じゃなかったのはゴブリンがナイフの重さでふらついたからだ。
運が良い、そう思いつつもほどけそうになった拳を強く握る。
「ろんど!?」
姫様が見てる。
それは十分わかってる。
だからこそ負けられない……ここで子供を見捨てるような奴に彼女を護衛する資格はない。
ましてや、俺の目的を……たった一言告げる事すらできなくなってしまう!!
俺は俺の足を刺してご満悦のゴブリンへと目を向けた。
するとゴブリンは怯えたような表情を浮かべている。
当然だ、ただの子供ならここで泣きわめく……実際そうしたい。
だが、俺は子供じゃない。
「残念だったな……刺せたまでは良い、だがそのナイフお前に抜けるのか? もう一度俺に刺すために使えるのかよぉぉぉおおおお!!」
痛みを咆哮でかき消すかのように俺は声を上げ拳を振るう。
するとゴブリンは慌ててナイフを抜こうとするが間に合わずその顔面に俺の小さな拳がめり込んだ。
『アギャァァァアアアアア!!』
悲鳴を上げると周りに潜んでいたゴブリン達も驚いて出てきた……。透明だ視にくい……だが……。
「そこに居る、分かる……なんて事は無い、居ることが分かってるなら……」
俺はナイフを手に取り引き抜くとニヤリと笑みを浮かべた。
「ゴブリン程度にこんな怪我をしてちゃ話にならないが……子供やルティナを守るためだ……」
そうだ、子供達を傷つける訳にはいかない。
その為にゴブリンには俺が脅威だとしっかり自覚してもらわなきゃな……。
「さぁ……次はどいつだ?」
俺は花畑の中で膝をつく……。
負けた訳じゃない。
なんとかと言った所だが勝てた。
しかし、負った傷は一つじゃない……。
最初の一匹でそうだったように俺はナイフを3本も刺された。
ゴブリンは全部で4匹……子供も4人……これで何とか助けられたはずだ。
「ろんどぉ……ちが……でで……」
涙声で俺の身体を心配するのはルティナだ。
彼女は逃げられなかった上、腰が抜けている。
動けない彼女の元へと向かいたいが、満身創痍だ……。
「なんとか、大丈夫……」
そこまで口にして俺は目にしてしまった。
ゴブリンはまだ居たのだ……。
あろうことかルティナの背後に回り、彼女へとナイフを突き立てようとしている。
「ルティナ!! 伏せろ!!」
俺は叫び透明のナイフを彼女の方へと投げつける。
するとルティナ声に驚いたのだろう身を引くくし……。
『アギィ!?』
ゴブリンへとナイフは命中した。
しかしその時に彼女はゴブリンの返り血を浴びてしまった様だ。
「ひっ!? なに、なになになに!? やだ、なにかべたっとついたぁ!?」
見えない何かが服や体についた感触がしたのだろう、パニックになっていたが、どうやら怪我はない様だ。
「気にするな、帰ったらちゃんとお風呂に入れよ?」
俺はそう口にした、情報が確かならゴブリンの血に毒は無いからな……。