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7話 姫と共に

 エルフの姫君ルティナと遊ぶことになったロンド。

 だが、彼女の服装では走り回ったりは無理だろう。

 そう考えた彼は普段のロンドと同じ事をしたいとせがむ彼女を説得し、他の遊びを始めるのだった。

「これがたべれるの?」

「ああ、美味しいぞ」


 そう言うと全く疑わずに笑みを浮かべて野イチゴを頬張るのはルティナという姫様だ。

 みずみずしいそれを食べ、口元が汚れてしまっている。

 どうやら気に入ったらしく夢中で食べてるが、俺は冷や冷やとしていた。

 何故なら彼女の服を汚す訳にはいかない。

 しかし、彼女は自分で野イチゴを取ろうとし、俺は慌てて実を取って彼女に手渡した。


「えへへ……」


 一瞬目を丸くした彼女は嬉しそうに野イチゴを再び口に運び始めた。

 野イチゴの味はどうだ? なんて聞く必要はないな。


「ねぇ? ほかにはなにをするの?」


 野イチゴを食べ終わった彼女は期待をするように俺を見つめてきた。

 見た目だけなら完全に年上のお姉さんだ。

 これはおねしょたと言って良いのだろうか?


 それにしても……。

 これが未来の巫女様か……。

 だが、この子を守って世界を巡礼する。

 それが俺の夢だった。

 そして、その夢は儚く散ってしまっていた。

 魔法が使えない、転生して俺が最初にぶつかった壁だ。

 チートなんて無かった。

 人よりも優れた魔力も無かった……。


 だが、それは変わった。

 俺にはチート能力があった。

 魔法を消す方法を俺は知っている。

 そして、この世界は魔物という驚異に晒されていた。

 その魔物は魔法では倒せない。

 だが、その魔物に対抗できる方法は俺の力らしい。


「…………」

「ろんど?」


 彼女に名前を呼ばれ俺は彼女の方へと目を向けた。

 王様は俺とルティナを仲良くさせたいらしい。

 それはそうだろう。

 自分の娘の命を預ける人間だ。

 互いに信頼している者が好ましい。

 だが……。

 この子が頑張っても出来る事は封印だけ……。

 9つの封印……それが破られた時、俺達は魔王の脅威に晒されるんだろう。


「ろんどー? こわいかおしてる」

「ん? ああ、ゴメン何でもない」


 不安そうな彼女に俺は声をかけた。

 今はこの子と遊ぶことをしよう。


「そうだな、この先に綺麗な花畑があるんだ……そこに行こう」


 都の中なら安全だ。

 魔物と突然遭遇する可能性は低い。

 そんな余裕が俺の判断を鈍らせていた……。








 花畑に着くと先客がいた。

 彼らは確か都の子供達だ。

 壁に近い方だからこの花畑には近づかないはずなのに珍しいな……。

 外は知らないがこの街は壁があるから魔物が入って来るとは思えないが……何処を見ても大人はいない。

 まぁ、遊べる場所ではあるし、入ってはいけない場所でもない。

 子供が居てもおかしくはないか……。


 そう思っていると彼らが俺達に気が付いた。

 彼らは気が付いたと言っても何かをしてくるわけでもない。

 再び遊び始めた。

 だが、何か不自然だ……。

 一体なにが? だがどこかおかしい……。

 花畑に座り込む子供達。

 見た目は普通だよな? 一心不乱に花を摘んで……いや、掘り返してるのか?


「っ!? ろんど、なにかへん……」

「ああ……嫌な予感がする……下がろう」


 そう思いつつ俺は子供達を注意深く観察する。

 街の中に現れる魔物と言ったらなんだ? この世界の魔物にまだ詳しい訳じゃないが知らない訳じゃない。

 特にこの一帯に現れる魔物の事は一応学んでいる。

 いや、学び始めたと言った方が良いか……。


 まず、イーター系と言われるものでフラワーイーターその名の通り花の魔力を餌とする魔物だ。

 だが、花を摘んでいるというかそれには目もくれず穴を掘っている。

 そもそもイーターは人の形はしていない。

 というか、イーターなら目につくから街に入る前に討伐されるだろう。

 いや、封印だったか? とにかくイーターではない事は確かだ。

 なら……ミスルトか? あれは植物だけではなく人にも寄生して養分を吸い取るはずだ。

 だが、それらしき蔓は見つからない。

 やっぱり魔物じゃないのか? だとしたら変な子供達だな。


「ろんどぉ……」


 不安そうに俺の服を掴むルティナ。

 とにかくこの子を安全な所に……そう思って俺は後ろへと下がる。

 すると不意にバキィという音が聞こえた。

 どうやら枝を踏んだみたいだ。

 だが、案ずる事は無い……奴らはすでに俺達に気が付いている。

 何かするならその時にもうすでにしているはずだ……そう思っていた。

 物音を立てると一斉にこちらを振り向いたのだ。

 それだけなら良い……問題は俺の後ろに居るルティナを見るとその顔をにたぁっと歪めた。

 何が起きたのか俺はルティナの方へと目を向けると彼女はガチガチと震え涙を流していた。

 怯えた顔に反応したのか? 見た目はただの子供。

 何処もおかしい所はない! だが、彼らはゆらりと揺れながら立ち上がり、此方へと身体を向けた。

 この習性はこの前習った覚えがある……もし、いや……だとしたらこれは……ミスルトなんて甘いもんじゃない……!

 子供達は……操られているんだ。

 ようやく彼らの正体が分かったやっぱり魔物だ!!


「ゴブリン!!」


 悪戯好きの子喰い妖精(ゴブリン)たちは人間を見ても何も反応しない。

 だが、一度彼らに怯えた様子を見せれば違う。

 目の色を変えて襲ってくる。

 しかもこいつらの質が悪い所は本体が見えない所にある。

 

 子供操り襲うのだ。

 当然子供にその意識はなく、操られた子供が気が付いた時に血塗れになった自分と同じく血塗れで倒れた親を見るなんて事はよくある事だ。

 そして、最後に絶望したその子供を食らう。

 お前が殺したんだ、お前のせいだと幼い心に傷を負わせながら生きながらに食う……。

 それがゴブリン……。


 そして、今、あの子供達はそれに操られている。

 挙句、ルティナの怯えた表情に反応してしまった。

 ゴブリンは彼女を狙っている!!


「逃げるぞ!! ルティナ!!」


 俺が叫び彼女の手を取ろうとしたが先程までそこにあった手はなかった。

 それどころか彼女は地べたに腰を下ろしている。


「あ? あああ?」


 何が起きているかまだ良く分かっていないのだろう。

 だが、確実に恐怖は感じている。

 それが本能なのか何なのか分からない。

 だが……迂闊だった……。

 ゴブリンは目には見えない……この都の中に居ないとは限らないってのに……。

 なのに俺は人気のない場所へこの子を連れて来てしまった。

 その所為でこの子は怯えている。


「くそっ!!」


 俺には魔法が使えない。

 ゴブリンを見つけて封印することは出来ない。


「何が勇者だ……何が勇者なんだよ!!」


 だから俺は勇者なんてあがめて欲しくはなかった。

 ただの子供なんだ。

 昔から、高校生のあの時から何も変わっていない!!

 ただの……。

 だけど……それでも……。


「ルティナを守らなきゃ……」


 そうだ、俺はこの子を守らなきゃいけない。

 それだけじゃない。

 俺は姿こそ子供だ。

 だけど、子供じゃない……子供を利用し人を貶め、挙句その子を食い殺すゴブリンを許して良いのか?

 いや、駄目だ!! だが、すでにこの子達はゴブリンに操られている。

 もう、彼らが人を殺める前に意識を取り戻すことは難しい……運良く凄腕の魔法使いに会えたならそれで助かるかもしれない。

 だけど、そう上手い事世界が回るはずがない。

 もしそうであればここにゴブリンなんているはずがないんだ。

 助けを呼ぶ時間はない、叫んでもここでは意味が無い!!


「子供も助ける……俺が、俺だけなんだ……!!」


 俺がここで助けなきゃいけないんだ!!

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