5話 勇者
決闘を見ていたのは何も貴族や住民だけではなかった。
エルフの王もまたその試合を見てたのだ。
彼はロンドに会いたいと口にし……兵に頼み込む。
その甲斐があってロンドは王と会う事になるのだが……。
そこには一人の少女も一緒に現れるのだった。
その姿に俺は見惚れてしまった。
真っ黒なようで光が射すと深い緑だと分かる髪は和服に良く似合う。
まるでお姫様の様な少女は俺の方へと目を向けると微笑んだ。
思わずドキリとしてしまったが、固まらずになんとか頭を下げた。
エルフの姫君……巫女に違いないだろう。
そして、高校生ぐらいと言ったが実際の年齢は分からない。
エルフと言えば長身長寿の種族……それが俺が知っていたエルフだが、この世界では違う。
早熟で尚且つ老いが遅い種族だ。
人にはよるが3~9歳で人間での成人並みに成長し、それからずっと15~30ぐらいの体力、見た目を保ち60から老い初め、人と同じ寿命で一生を終える。
だが、子供が作れるのは早くても10歳以降と人とあまり変わりはない。
その為、彼女が子供なのか、それとも大人なのかは分からない。
エルフにはそれが分かるというのだが、一体どこで判断をしているのかはさっぱりだ。
すると彼女は可愛らしい笑みを浮かべ――。
「とうさま! とうさま! あの子と私は遊んでいいの?」
とぴょんぴょんと跳ねはしゃぎ始めた。
俺は思わず固まってしまったが、これはエルフにとっては普通の事なのだろう。
「ああ、そうだな……話が終わったら、遊ぼう? と誘えば良い」
そして、父親である王様はデレデレとした笑みを浮かべている。
隠すそぶりすらない。
「あの、王よ……ルティナ様までお連れして私たちに何用ですか?」
ザードが話を切り出すと彼は急に真剣な表情になる。
そして、俺の方へと目を向けた。
「それだが、ロンドとか言ったな?」
「……は、はい!」
俺は彼の言葉に頷いた。
すると彼は柔らかい笑みを浮かべ……。
「君の目には魔法がどう映った? 何故消せた? それは人間では出来ない事だ」
「……え?」
この人は俺が魔法を消した事を知っている?
「何を言っているのですか王よ、ロンドは運が良かっただけです。偶々魔法が失敗し……」
「いや違うぞザードよ……その少年は魔法を消せると確信し行動を起こし事実魔法を消して見せた。あれは運良く魔法が失敗した訳ではない」
まるで「どうだ?」とでも問うかのようなその瞳に俺は一瞬迷う。
何故ならこの世界で魔法が使えないのは特殊だ。
だが、俺は魔法が使えない。
それだけなら良い……その上魔法を消すとなれば話は違う。
この世界は魔法によって成り立っている。
それを消すというのは俺は敵として扱われる可能性だってあるからだ……。
だが、もし……。
俺はそこまで考え、ルティナと言う姫様の方へと目を向けた。
彼女は可愛らしくも首を傾げている。
もし、俺を単純に敵だと考えているのならお姫様である彼女に会わせるだろうか?
「……はい、確かに僕には魔法の弱点が見えます」
一か八かだ、そう思い俺は王へと真実を告げた。
「だから、僕はその弱点を突き魔法を消しました」
「そうか……」
うんうんと頷いた王は再び口を開く……。
「ロンド、君は知っているか? 何故この世界に9人の神子が居るか」
「……9人?」
あれ? 巫女と言えば8人のはずだ4つの都市に住まう巫女。
そして巡礼をする4人の巫女……。
だから8人……だが、何故この世界に居るのかは知っている。
「各地の巫女は魔物の活性化を押さえ、巡礼の巫女は天の都市に集まった4人が各地を訪れ、その力を高め、天の都市へと戻り、その力で世界を守る結界を張る……魔物や魔王を退ける為です」
答えると彼は頷き……。
「よく勉強をしている。その通りだ……だが、もしそれが完全な物ではないと言ったら?」
「王よ! 何を言い始めているのですか!?」
ザードは慌てて王様へと詰め寄った。
当然兵士に止められるのだが、王様はその拘束を解く様に告げる。
「この子を不安にさせるのですか!?」
「いや違う、ザードよ、この子だから言わねばならない。この子は我らこの世界に住まう者の希望となる者……」
へ? なんだろうか?
なんか嫌な予感がする。
「勇者だ……!」
「なっ!?」
驚いているザードだが、俺としては顔に出さないでいるのが辛い。
正直に言いたい……止めてくれと……。
だが、そんな事を言える訳が無い。
「あ、あの勇者って?」
俺が問うと王は満面の笑みで頷いた。
「魔法では魔物を殺す事は出来ん、当然魔王もだ……だが、魔法で封印を施す事は出来た。今まで世界を保ってきたのは9つの封印のお蔭だ……」
「……だが、かつて一人だけ二人の魔王の内一人を殺した者がいる」
父はそれに続く様に語り始めた。
「その勇者の力を引き継ぐ者がロンドだというのですか!? まだ幼いこの子にそんな力はありません!」
「そうだな」
その通りだ! って……王様? 今あなたが勇者だのなんだの言い始めたんですよ?
「その子はまだ幼い、魔法も使えん……資格があっても力はないだろう……」
「でしたら、何故勇者などと……」
俺の父親であるザードは俺の方へと目を向けてきた。
心配してくれたんだろうなぁ……。
「この子は勇者などでは……」
「だが、その資格はある……だから、ザードよその子をロンドを我が娘土の神子ルティナのいや、巡礼神子の護衛として預かりたい」
………………。
「「はい?」」
俺とザードの声は重なった。
だが、感情は別々だろう……ザードの方は本当に何を言っているのか分からないと言った感じだが……。
俺はそれが嬉しくとも信じられないと言った感じだ。
風の巫女ルティナの護衛と王様は口にした。
しかもはっきりと巡礼巫女の護衛と言ったのだ。
「つまり、僕がルティナ……様の護衛になって巡礼を共に?」
と尋ねると王様はうんうんと頷く……。
「ま、まままままままままままままままま!? 待ってください王よ!! 魔法が使えないロンドに――!?」
「落ち着けザード勿論、候補としてだ……まずは勇者になる修行をしてもらう……伝説の剣が扱える程度にな」
伝説の剣。
なんか、話が壮大になって来てないか?
困るなぁ……俺の目的は確かに巡礼巫女の護衛になる事だ。
だけど、その理由は日本に行ってたった一言を告げたい相手がいるそれだけなんだ。
勇者になってこの世界を救う事は目的じゃない。
なんというか、別にそう言うのは良いんだよ……確かに勇者ってかっこいいとは思うけどガラじゃないよなぁ……。