1話 異世界に転生した少年
「ろんどーいいこいいこ」
さて、俺はどうやら転生をしたようだ。
何故そう分るか? 俺がまだ小さいからだ。
そして、何故か幼女に良い子良い子をされている。
この幼女の名前はジーシャ。
一応俺の姉ということになる。
「ろんどーおねえちゃんべんきょうだからいいこしててね?」
彼女はそう言うと俺の元から去って行きてくてくと部屋を後にする。
勉強というのは普通の教養の事だろうか?
俺は彼女の勉強とやらが気になっていた。
だが、まずはそれよりも……。
この世界がどういう世界か調べんとな。
俺は辺りを確認する。
家はかなり広いが中世のヨーロッパを思わせる。
窓の外には緑が広がっており、その向こう側には街も見える。
この家は裕福だ。
そして……もう一つ気になるのは……。
「…………」
俺は天井を仰ぐ。
そこには空気を循環させるためのプロペラがあった。
だが、この世界に電気は無い。
あれは勝手に動いているが電気で動いていない。
何故わかるか? それは俺にも良く分からない。
だが……これだけは分かるのだ。
電気じゃない! それだけは言い切れる。
理由は分からないがそう思えた。
「ロンド、ご飯の時間よ?」
俺は鈴のような音に呼ばれ、そちらへと目を向けた。
そこに居たのは綺麗なお姉さんだ。
彼女の名前はウィレミア。
この世界の母親だ……。
因みに父親の名はザードだ。
彼女は優しく、育ててくれている。
まぁ、乳飲み子だった時は恥ずかしかったが、役得とでも思っておこう。
それにしても母親か……母さんは元気かな?
父さんもだ……俺はいきなり死んでしまったからな……。
それだけが気がかりでならない。
かと言ってあちらの世界に渡る手段はない。
俺は……この世界で生きるしかないのか?
そんな疑問と思いを感じつつ俺はすくすくと育っていく……。
生まれてから5年経つと流石にこの世界の言葉を話す事ぐらいは出来る。
だが、一つ問題があった。
「…………ロンド、やってみなさい」
険しい顔でそう言ったのは父親のザードだ。
彼と俺は庭に出て人形を前に話していた。
俺の傍には不安そうな姉ジーシャの姿もあった。
「――はい!」
俺は頷き深呼吸をする。
そして――。
「フレイムボルト!!」
魔法の名を唱えた。
だが、何も起きない。
何も起きないんだ……。
「やはり、ロンド君には魔力が無いようですな……どうするのですか? 新しい子を作るか買ってくるかした方が良いのでは?」
嫌味ったらしい口調でそう言うのは派手な衣装に身を包んだ男だ。
蓄えた髭を擦りながら彼は姉の方へと近づいて行く。
「ジーシャ君も特別! 優れているという訳ではございません、ご決断をザード卿」
「決断も何も二人とも私の子供だ。家を継がせることに何ら問題はない」
淡々と口にした父親に俺は疑問を感じた。
本当にそれで良いのか? と……。
何故ならこの世界は――。
「この世界において魔法が使えない者が貴族と言う例はありません! これでは天の都の王に顔向けできないでしょうに……ああ、そうだあの女の子供なのです。きっと美しく成長するでしょう、どうですか? うちの息子とおたくの娘に契りを結ばせるというのは……我らの孫が素晴らしい魔法使いになれば顔も立ちましょう」
「くどいな、それが狙いか? 私はまだ現役だ……この子達も全く才能が無いわけではないはずだ。まだ時間はある」
彼の言葉に父親はそう言うと護衛兵へと目を向けた。
「グレイ卿を丁重にお送りしろ」
そう、問題とはこの家に生まれた姉ジーシャは魔法が苦手であり、俺は魔法が使えないのだ。
そして、この世界において魔法とは……ほとんどの者が使えるものであり、生活に欠かせない物。
更には仕事や地位さえも決めてしまうほどのものだった。
つまり、女性である姉はこのまま才能が芽吹かない限り先程言われた通り誰かへ嫁がされる可能性がある。
魔法が優れていない人間は優れている者に逆らえない。
捨てられるだけの俺の方がマシだ。
「父さん……」
「気にするなロンド、魔法が使えん人間が居ない訳じゃない」
彼はそう言うが、どうにかしなければならない。
あの男の名前はグレイとか言ったか、何度もこの家に足を運んでいる。
そして、姉を狙い、父の座も狙っている。
本当にどうにかしなければ……俺が日本に戻る手段を探すどころでは無いんだ。
「そうだ、もう一度手本を見せてやろう」
父はそう言うと笑みを浮かべ人形へと向き直る。
「フレイムボルト」
名を口にすると炎の矢は現れ人形へと向かう。
その時だ俺は魔法に違和感を感じた。
一体、今のは何だ? 何が起きた?
フレイムボルト……使った事も無い魔法だ。
だが見た目の通り炎の矢だという事は分かる……。
しかし、この世界の魔法は強力で剣士などが全く役に立たなくなるほどのものだ。
弱点などない、そう教わっていた。
だけど……なんだ、これは? 俺が今感じた事は……一体……。
「………………」
「どうした? いずれお前も使えるものだ」
父の言葉は正直頭に入っていなかった。
ただ、俺は俺が感じた事を……試したくなった。
しかし、どうする? 父親に頼む訳にはいかない……。
なら、別の人に頼むしかないが……信じてもらえるのか?
そもそも本当に俺が見た事が真実であれば……体を鍛えるのは良いのかもしれない。
魔法は決して最強で弱点などないという訳じゃないんだからな。