17話 儀式
ルティナは神子として正式に任命される。
その為就任の儀を執り行わなければならない。
同時にロンドもまた彼女の護衛としての儀を行う事となった。
果たして彼らの運命はどうなるのだろうか?
俺達は儀式の為に神社へと向かい。
呼ばれるのを待っている訳で……。
俺とルティナは同じ部屋へと通された。
「…………」
彼女と言えばガチガチに緊張している。
どうしたものか……取りあえずこういう時は……。
「ルティナ、何か飲むか?」
俺はそう彼女に提案する。
こういう時は飲み物でも飲んで落ち着いた方がいい。
そう思ったのだが……。
「…………」
「ルティナ?」
彼女はガチガチに緊張している様で動かない。
心配になってくる……。
「なぁ、大丈夫、か?」
俺が尋ねながら肩へと手を置くと彼女はびくりと身体を震わせた。
「ひゃい!?」
いや、ひゃいって本当にそんな悲鳴あるんだな。
俺は驚きつつ彼女の目の前に飲み水を差し出した。
「緊張するのは分かる……だけど、此処でそんなんじゃ先が思いやられるぞ?」
そう言いつつ彼女へと飲み水を押し付けた俺はそのまま頭を撫で……。
「大丈夫だって、な?」
「……ロンド」
「ん? どうした?」
俺の名前を呼ぶ彼女に微笑むと彼女は不安そうな顔を一瞬浮かべるもすぐに笑顔に戻った。
「そう、だよね……ロンドが居るから」
そしてまた「えへへぇ」と笑うと水を飲み始める。
どうやら、一応は落ち着いてくれたみたいだ。
よし、これで儀式は大丈夫、だろう。
多分……だが、その後の修業は簡単に済む話でもない。
どうにかしないといけないよな。
お互いに……な。
「ルティナ様、ロンド……時間だ」
そう言うのは騎士団長だ。
騎士といっても実際に剣を持ってるのは俺だけ、この世界の騎士とは優れた魔法使いの事だから仕方がないんだが……。
それはともかく俺達は団長に呼ばれ部屋の外へと出る。
儀式の場所へと辿り着くとこの街の住民たちが見守る中、それは始まった。
と言っても今の神子から杖を授かり、その杖に魔力を籠め魔法を解放する。
それが彼女の役目だ。
エルフは土の加護を受けた種族だから辺りに花を咲かせればそれで良い。
何度も練習したのだから、彼女が失敗する事は無かった。
辺りには色とりどりの花が咲き乱れ……風によってそれは花弁となり攫われていく……。
この土の都始まって以来、幼い神子の誕生に住民たちは驚きの声をあげた。
彼女は立ち上がると真っ直ぐに俺の方へと目を向ける。
今度は俺の番だ。
俺は彼女の元へと歩み寄り膝を地につく……。
頭を下げるとルティナは俺の右肩に先程受け取った杖を当てる。
そして、左肩に杖を移し……。
「ロンド、貴方は私の盾として……」
そこで彼女の言葉は止まった。
どうしたのだろうか? 続きの言葉を忘れたのか?
いや、そんなはずはない、彼女はただ「魔法となる事を誓いますか?」と言うだけでいい。
俺は一応確かめるため顔を上げかけた。
「……ロンド」
「っ!」
だが、それは杞憂だったようだ。
ルティナの言葉に慌てて顔を下げた。
「貴方は私の盾として、剣となる事を誓いますか?」
その言葉に辺りは騒めき立つ。
言葉が違うのだ……。
本来なら、盃と果実の搾り汁を持ってくるはずだった人もその場で戸惑い立ち尽くしている。
誰もが知っている誓いの言葉。
なのに彼女は言い換えた。
それは彼女が俺を護衛とするのに大切な事と考えてくれてるんだろう。
「……はい、貴方の剣であり盾である事を誓いましょう」
そう言うと辺りに静寂が広がった。
「ではロンド、私の騎士……いえ、勇者よ顔を上げ立ちなさい」
彼女は精一杯考えたのだろう。
何度かつっかえながら誓いの言葉を紡ぐ……。
俺がやる事は何も変わらないのに辺りはただただその成り行きを見ていた。
「私と共に巡礼をし、この地の魔を滅する為に」
本来の言葉は「振り払う為に」だ……。
だが、彼女は彼女の言葉で儀式を執り行う。
「私は貴方の支えとなりましょう」
それも違う「貴方は私を支えなさい」だ。
王に言われたという訳ではないだろう。
現に王様も驚いている。
「その鉄の剣にて私達に光の加護を……」
その日、俺はこの街の中においてもっとも有名な人間になってしまった。
普段と違う儀式を見ていたものだけではない。
話は瞬く間に広がって行ったのだ。
俺はどうやらその運命からは逃れられない様だ。
でも、もう……そんな些細な事はどうでも良かった。
俺はこの世界で得た友人や家族も勿論失いたくない。
生まれた当初の想いを忘れた訳でもない。
だから、それを成すためには勇者と言う立場は利用できる。
いや、利用をして……強くならないといけないんだ。
そう思いつつも昼間の事を思い出しながら、俺は鉄の剣の手入れをしていた。
俺専用の武器……この世界においては誰も使おうとしなかった武器。
だが、俺にとってはこの上ない武器であり、魔物に特効を持つ物だ。
「……勇者、か……」
まさか、とは思うが事実あの後色々調べたが魔物を倒すことはできないらしい。
嘗て一度だけ現れた勇者をのぞいて……だが、俺はゴブリンを殺した。
つまり、今この世界には魔物を倒せるのは俺一人かもしれないって事だ。
探せばいるかもしれない。
だが、それはあくまで可能性の話……。
だから俺がやらなきゃいけないんだ……! いや、やってやるさ目的のためにも、な。