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12話 火種を持つ少年

 ルティナと別れ家へと戻ったロンド。

 だが、そんな彼の姿を見て当然母は悲鳴を上げる。

 ロンドはそれに耐えきれずに倒れてしまい……。

 目を覚ますと心配そうに見つめる家族たちに囲まれているのだった。

 俺は彼の表情を見て、言うべきか言わないべきか迷う事は無かった。

 これは俺を心配してくれている表情だ。

 だが、同時に姫の事も心配だろう。


 そして、目の前に居る人は凄腕の魔法使いだ。


「実は――ゴブリンが花畑に居たんです」


 だから、俺は母親が更に心配するであろう事は知っておきながらそう口にした。


「ゴブリンだって!? それでお前は……いや、聞くだけ聞いても意味が無いか……」


 彼はそこまで言って言葉を止める。

 理由は簡単だ。

 ゴブリンに憑りつかれているのなら俺がここで暴れるだろうことを彼は知っている。

 だからここで俺がまともに喋っている時点でその疑いは晴れるのだ。


「そこで僕ではなく、街の子達が憑りつかれていました4人……でした。ゴブリンは5匹居たようですが」

「4人? それに5匹だって!?」


 そこまで聞くと母はくらりとし、ベッドへともたれかかる。

 まぁ、そうだよな……。

 俺だって魔物並みの肉食動物に子供が囲まれてしまったと知ったらそうなる。

 寧ろこの父親の神経がずぶといのだろうか?


「それで……その子供達は何処に!?」


 父親は俺を襲った後子供達がどこかに行ったと思い込んでいるのだろう。


「いえ、ゴブリンは倒しました。子供達はたまたま居合わせた兵士の方に頼みました」

「「………………」」


 そこは信じられる範疇ではなかったのだろう。

 両親は固まり、何とも言えない空気がその場に流れた。

 いや、気持ちは分かる。

 子供がゴブリンに襲われた。

 しかもそこには姫様も居た。

 それは間違いない。

 だが、その子供がゴブリンを倒したというのだ。

 知恵もあり、姿も見えない魔物。

 確かに魔法が使えれば簡単に封印は出来る。

 だが、俺がしたのはゴブリンを倒す事。

 つまり、ゴブリンを殺したんだ。


 今思い返せば生き物の命を奪うという事はとんでもない事だと思える。

 だが、その時はそれしか方法はないと思ったし何より……。


「彼らと姫様を守るため必死だったんです」


 あの時はそれしか方法はない。

 そう思い込んでいた。

 事実、ルティナも子供も助けられた。


「……お前はまだ子供だ。そんな危険な事――」

「ですが、先程たまたま居合わせた兵士が居たと言いましたが声が届く距離ではありませんでした。あそこで僕が何もしなければ姫はこの世にもう居ません」


 あの時は仕方なかったんだ……。

 そんな言い訳をするつもりはない。


「僕は確かに傷を負いました。ですが……同時に動けたのも僕だけ、姫を抱えて逃げるなんて出来ません」


 だから戦った。

 そして、守ろうと思った。

 結果は視ての通り、俺はボロボロになり、その代わり子供もルティナも守れた。

 だから良いなんて親は言えないだろう。

 何故なら――。


「一歩間違えれば死んでいたんだぞ!!」


 この時、父は初めて声を荒げた。

 分かっていた、そんな事は分かっているんだ。

 だけどな……それでも――!!


「僕は間違った事をしたとは思いたくありません」


 父にとっての正解はその場は逃げ、すぐに大人を連れてくる事だろう。

 だが、あの時は何処に大人が居るかも分からない状況でルティナは動けなかった。

 彼女のせいにするつもりはない。

 どの道、ゴブリン退治に大人を向かわせたところで子供が無事だとは限らないからだ。


「それは……助かったから言える事だろう」

「はい、その通りです」


 だが、同時に父親の言う事も否定できない。

 俺は確かに助かったからこそ、こんな事を口にできるんだ。

 もしそうじゃなかったら……彼の言っている事に何も間違いはない。


「ロンド……貴方はなんて事を……立派だけど私は生きた心地がしないわ……」


 母親は俺をそっと抱きしめ頭を撫でる。

 姫を守ったことは認めてくれているのだろう。

 だが、同時に無茶をしたことを褒めれる訳が無い。


「……すみません、必死だったんです」


 それしか言えなかった。




 父親はそれ以上何も言えないとばかりに苛立った様子を隠す事無く部屋から去って行く……。

 それを迷いつつ追うのは姉だ。

 母親は泣き疲れるまでずっと俺を抱きしめたままだった。




 俺は後悔はしていない。

 あの時、アイツの手を取らなかった事は少し後悔があるが……でも、巻き込まなかった事は正解だと思っている。

 そして、今回もだ。

 ルティナを守ってやれた。

 子供を助けられた。

 俺に重要なのはその事だけだった。

 確かに今の家族(彼ら)にとってはその重要な事よりも俺の安否だろう。


 本当に俺は恵まれている。

 前世でも家族と不仲になるなんて事は無かった。

 友達もいた。

 そして、今回の両親もそうだ。

 悲しませることを不安にさせてしまう事をしたのは申し訳ないと思っている。 

 だが、それでも……。


「……やっぱり、俺はルティナを守る護衛になろう。勇者でも何でもいい。あの子を守って……」


 たった一言を前世の家族と友人に伝えたい。

 彼らは俺が死んだことを知っている。

 だから、いきなり俺が俺だと言っても信じないだろう。

 それでも、伝えたい……。


 きっと俺に前世の記憶があるのはそれを知ろというお告げなのかもしれない。

 そんなありえない事を考えつつ、俺は今の母親に布団を一枚かけた。


「だから、俺は絶対に死なない。生き残って見せるよ、母様」


 それが聞こえたのか聞こえていないのかは分からない。

 だが、眠っている彼女にはあまり関係のない事だろう。

 ただ……俺は重要な事を伝えた。

 一方的な物だったがそれで満足し、その日は眠る事にした。

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