絵師
白い空間を無と言い切れるか?そう俺に問いをかけた奴がいた。
確かに白い空間とは無そのものだが、その無の空間に少年時代の鮮やかな絵の具を垂らすと無とは言い切れないだろう。
年老いてから無の空間に絵の具を垂らせなくなった。
少年期というのはわんぱくで楽しいものだ。
たとえなにもない空間でも自分たちで考えたものや幾多もの空想、妄想などを繊細に描くことができる。
私は今無の空間にいる、なにも想像はできない。いや私は自分の楽と引き換えに自由を売った。
私がいるこの"家"は家と言うには狭く殺風景だ、だが私の住処である。
そして私はここから出れない。
この家ではなにをしても自由だがこの狭く殺風景な空間の外に出れない。
想像することも許されない。
窓もない、外がどうなっているのかもわからない。なにが流行りなのかなにが起きているか、アメリカの大統領は誰なのか?
そんなことすら教えてももらえない。
なぜなら私はこの狭く殺風景な空間で誰とも話せない。
この狭く殺風景な空間からはもう出れない。
雨が降っても雪が降っても。
ただそれは私の家の上に積もる地を強くする。
いつかこの家に光が差し、扉が開き再び自由を空想する世界が来ることを望み私は眠りにつく。
その後私は起きることはなかった。
私の家は今もここにある。
線香の香りが漂うこの家の中に私は"いる"
完
連載とは別の短編小説を書いてみました
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