最弱の適正魔術で世界最強
「補助魔術……?」
司祭から告げられた言葉を、ルハネスは辿々しく反芻する。
いったいどんな魔術なのか。
魔術に疎い自分には、なにがなんだかわからない。
……司祭の気まずそうな表情から、なんとなく嫌な予感はするが。
ルハネスのとぼけた反応で察してくれたのか、司祭は「こほん」と咳払いをしたあと、話を続けた。
「補助魔術というのは、対象者の能力を強化する魔術のことを指す。力や敏捷性、賢さや幸運度など……じゃな」
なるほど。
戦闘を補助するための魔術。だから補助魔術ということか。
命のかかった戦場では、ほんのわずかな力の差が生死を分ける。
たしかに華はないけれど、そんなに悪い魔術ではなくないか?
ルハネスのそんな思考までをも読んだのか、司祭は首を横に振りながら言う。
「ただし――いくつか難点があってな。まず第一に、補助魔術の使い手は、他の属性の魔術は使えない。このデメリットがわかるかの?」
「…………あ。そうか」
ルハネスの脳裏でひらめくものがあった。
基本的に、剣も魔術も使いこなす者はそうそういない。
魔術の才がある者は、代わりに剣をまともに使いこなすことができないからだ。
そして補助魔術師は、他属性の魔術を使えない。
――つまり、いくら自己を強化したところで、攻撃の手段を持たないのだ。
たしかにそれでは意味がない……
「もうひとつ大きなデメリットがある。補助魔術は原則、自分にしかかけられない。つまり、戦闘中に仲間をサポートする役割すら担えないのじゃ」
「…………」
なんだそれ。
ハズレじゃん。
思いっきりハズレじゃん。
だって補助魔術を使っても意味ないんじゃ、どうしようもなくないか?
「あ、あの、司祭さん。この儀式で補助魔術の適正があった人は、みんなどうしてます……?」
「魔術の道を諦め、みな一般の住民として過ごしておる」
「そ、そうですか……」
「ま、まあ、そう気を落とすでない。魔術だけがすべてではないからな。平々凡々に暮らすのも悪くはあるまい?」
なにその嬉しくない慰め。
俺の魔術学園生活、いきなり駄目だって言われたようなもんじゃん。
後方では、ミレーユがわくわくしたような瞳で報告を待っている。
待って、この状況、すごく辛いんですが。
「少年よ。名をなんという?」
「……ルハネス。ルハネス・ブレイズです」
「そうか。ワシはソルモロと申す。今後、人生で壁にぶつかったときは悩まずに尋ねてきなさい。いつでも相談に乗るぞよ」
「ありがとう……ございます……」
なんと優しいのだろう。
その優しさがいまは痛い。
剣の才能がないばかりに追放されたのに、魔術の才能もないなんて。
今後、俺はどうしたらいいのだろう……
やりきれない気持ちをなんとか抑えながら、ミレーユのもとへ引き返すルハネスだった。
「え……ほ、補助魔術ですか……?」
ルハネスをわくわくしながら待っていたミレーユは、《補助魔術》の言葉を聞いた途端、表情をひきつらせた。
「はは。そう。俺、魔術の才能もなかったみたいだよ。ははははは」
後頭部をさすりつつ、乾いた笑顔を浮かべるルハネス。
まあ、師匠の提案通り、とりあえず学園には通ってみようと思う。
エリートだけが集うとされる学園に、果たして円満に通えるのか。そもそも入学試験に合格できるのか……。不安は山積みだが。
「ルハネスさん! やったじゃないですか!」
「え……?」
しかしミレーユの反応はこちらの予想を大きく超えるものだった。
瞳をキラキラさせ、ルハネスの手を取りながら言う。
「たしかに《補助魔術》は一般的にはハズレ属性です。けど、ルハネスさんは違うじゃないですか。ただでさえ剣聖レベルなのに、さらに《補助魔術》が加わったら……せ、世界最強じゃないですか?」
「な、なにを……」
ルハネスは思わず目を瞬かせる。
彼女はなにを言っているのか。
道場を追放されたのだから、俺はそもそもそこまで強くない。剣聖などもってのほかだ。たしかに《補助魔術》を使えば以前よりは強くなれるだろうが、世界最強などとは……
「魔術の使い方は私が教えます! 試験まで頑張りましょうね!」
「う……うん。ありがとう」
自分のようにはしゃいでいるミレーユを見て、ルハネスは首をかしげるばかりだった。
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