え、これって強いの?
「こちらが《儀式の間》です。ただいま司祭を呼んできますので、少々お待ちください」
シスターに連れられ、ルハネスたちは絢爛豪華な一室に通された。
壁面に張られたステンドグラスが、教会独特の雰囲気を醸し出している。さきほどの場所よりも厳格さを感じる場所だ。
「ふふ。緊張しますか?」
隣のミレーユが、ルハネスに向けて優しく微笑む。
その笑顔に幾分か癒されたルハネスは、「ははは」と後頭部をさすった。
「まあ、さすがにね。この儀式ってやつで、自分の才能がわかるんだろ?」
「そうですね。私もあのときは緊張しましたが……炎適正と聞いて、お姉ちゃんがすごく喜んでくれて……」
「そうか……。俺も炎とか氷とか、かっこいいのがいいなぁ……」
なんというか、一種の憧れだよな。どでかい魔術で敵を蹴散らすのって、やっぱりロマンである。
まあ、そこまで格好良いものでなくてもいいから、最低限、魔術学園で通じるくらいの適正は欲しい。変な適正だけは本当ゴメンである。
「――すまんすまん。待たせたの」
ルハネスたちが雑談に興じていると、白髭をたくわえた老人が姿を現した。いかにも司祭といった感じの風貌だ。師匠とはまた別の風格がある。
司祭はルハネスたちを見渡しながら言った。
「今回儀式を受けられるのは……そっちのお嬢さんかの?」
「あ、いえ、違います。俺です」
「む? おぬしは剣士ではないのか? その腰に下がっているものは太刀じゃろう?」
まあ、当然そう思うよな。
「はい。ちょっと事情がありまして……儀式を受けたいんです」
「そうか……。まあ、駄目とは言わんが……」
剣も魔術も使いこなす奇才も中にはいるが、ごくまれだ。
たいていの者は、剣か魔術……どちらかの才能しか持っていない。
剣の実力がどんなに素晴らしくても、魔術の才能はてんでないことがよくある。たとえ適正魔術が《回復魔術》であっても、初級の回復魔術すら使えないことが多いのだ。
だからルハネスのように、剣士でありながら魔術の儀式を受けるのは珍しいほうである。
「では少年よ、祭壇へ来なさい。心を静めて、落ち着くのじゃぞ」
「は、はい……!」
司祭に言われるがまま、ルハネスは祭壇へと歩を進めていく。心を沈めろだなんだ言われたが、正直それどころじゃない。
「頑張って! ルハネスさん!」
後ろで応援してくれるミレーユだけが、唯一の癒しだった。
「そこでよい。止まれ」
祭壇の手前まで来たところで、ルハネスは歩みを止めた。正面では、司祭が瞳を閉じ、なにごとかをぶつぶつ呟いている。
そして――
「ふんっ!」
司祭が気合いの声を発した瞬間、ルハネスの周囲を淡い光が包み込んだ。優しくて暖かな、不思議な感覚だ。
なんだろう。新たな力が芽生えたのを、なんとなく感じる……
「ふむ。成功じゃ。よく頑張ったの」
正面の司祭はいつの間にかにっこりと表情を崩していた。ルハネスの肩をぽんと叩きながら言う。
「いつもは新入生の心が乱れすぎて何回かやり直すのじゃが……おぬし、どこかで精神の修行でもしてたかの?」
「はは……すこしだけ。まだ未熟者ですけど」
「ふむふむ。結構なことだ」
満足げに頷く司祭。
――って、そんなことよりも。
「す、すみません。俺の適正って、どうなってたんですか……!?」
「おっと。すまぬな。忘れておった」
そこ重要なとこだろう!
ルハネスが心中で突っ込みを入れていると、司祭が「うーん」と唸る。
「なるほどのう……これがおぬしの適正か……うーむ」
「ど、どうだったんですか」
ごくりと唾を飲むルハネスに対し、司祭の表情はどこか暗い。
「まあ、気をしっかり持ってほしいのじゃが……おぬしの適正は《補助魔術》じゃな」