なぜ怒っているのか、それがわからない
それから二日。
ルハネスたちは無事、王都セレナートへ到着した。
「で、でかい……」
目の前にそびえる鉄の壁を見上げながら、ルハネスは思わず感嘆の息を漏らす。
王都の周囲をこれが守っているようだ。
鉄壁――まさにそんな言葉がピタリと当てはまる。
この壁の前には、どんな賊や魔獣でもなすすべないだろう。
「ふふ。王都ですからね。もしかして、来たことないですか?」
「ああ、うん。ずっと山で過ごしてたから……」
鉄壁の向こう側からは、人の喧噪が間断なく聞こえてくる。山と違って賑やかそうだ。
鉄壁の中央部には巨大な門が設えられている。出入りはそこで行うようだ。
警備のためか、門の左右を兵士が監視していた。入場の際、ルハネスとミレーユも一瞬だけ視線を向けられたが、問題ないと判断されたか、そのまま入ることができた。
王都の警備というだけあって、なかなかやり手の兵士が配置されているようだ。通る際、全身がくまなくチェックされているのを感じた。
「おおお、でかいっ……!」
門を抜けたルハネスは、さらなる衝撃に見舞われることになる。
人、人、人。
どこを見ても人がいる。
そこかしこの住居や商店などもなんだか垢抜けており、まさに別世界のようだ。
「ちょ、ちょっとルハネスさぁん」
そんなルハネスの手を、ミレーユがぎゅっと握り締める。
「あんまり動かないでくださいよう。見失っちゃうじゃないですか……」
「あ、ごめんごめん、つい」
「次からは気をつけてくださいね――って、あ!」
瞬間、ミレーユは恥ずかしそうにルハネスから手を離した。
「すみません、手なんか握っちゃって。そ、その、不快じゃなかったですか……?」
「ん? 別に。むしろ嬉しかったよ」
「う、嬉しい……そ、そうですか……?」
「うん。俺が迷子にならないためにやってくれたんだろ? 有り難いことさ」
「…………」
そこでなぜか、がっかりしたように肩を落とすミレーユ。
「そうでした……。ルハネスさんはそういう方でしたね……」
「え? なにが?」
「なんでもありませんっ」
ちょ、なんで怒るんだよ。
という突っ込みを入れる間もなく、ミレーユが次の言葉を発した。
「それで、教会に行くんでしたね。ご案内します。ついてきてください」
「う……うん」
ちょっとした威圧のようなものを感じながらミレーユの後をついていくのだった。
セレナート教会。
そこが、ミレーユの案内した場所だった。
中央通路には赤い絨毯が敷かれており、その先には祭壇がある。両脇には長い椅子が等間隔で設置されていて、所々で祈りを捧げている人々も見られた。
「えっと……」
ルハネスが戸惑っていると、
「なにかご用ですか?」
修道服をまとった女性に話しかけられた。質素な服装ではあるものの、かなりの美人だ。
「その……適正魔術を調べたいんですけど……」
「まあ。新入生の方ですか?」
「はい。そうですね」
「わかりました。専用の部屋までご案内致します。ついてきてください」
そうして、ルハネスとミレーユはシスターに連れられ、奥の部屋へと消えていった。