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6/12

谷間は反則である

「ぐ……」


 賊どもはもはや完全なパニックに陥っているようだ。目を白黒させるばかりで、一向に動こうとしない。


 このまま放っておいても良いが、それではまた犯罪を繰り返す恐れがある。特にこの街道は、自分たちのような新入生が通る可能性も考えられる。


 野放しにするのは危険だ。


 ルハネスはそれらの思考を済ませると、遠くで足踏みしている賊二人を睨みつける。


「ひっ……!」


「う、うろたえるなよ……。あいつ、た、たかが学生だぞ……!」


「おまえだって、こ、声がうわずってんじゃねえかよ……」


「くそっ……!」


 破れかぶれとばかりに、賊二人がこちらへ突っ込んでくる。

 片手にはタガーナイフ。

 刀身に細かい凹凸があり、通常のナイフより殺傷能力の高い武器だ。あれをまともに喰らえば、一般人にはひとたまりもないだろう――


 だが。


「あれっ……!?」


 賊たちがタガーナイフを振り下ろした頃には、ルハネスはそこにはいなかった。

 そのまま慌てたように、きょろきょろと周囲を見渡し始める。


「馬鹿野郎! 後ろだ!」


 そう絶叫をあげたのは、さきほどルハネスに手刀を浴びせられ、動けなくなった男。


「え――」


 賊二人があっけらかんとした声をあげる。そのまま急いで背後を振り向こうとするが――遅い。


「おおおおおっ!」


 ルハネスの振りかぶった太刀が、賊どもの両足を的確に捉えた。肉の抉れる音とともに、血しぶきが周囲に舞う。


 悲鳴をあげ、のたうちまわる男たちを見下ろしながら、ルハネスは冷たく言った。


「殺しまではしない。けど……一生動けなくなることは覚悟してもらうぞ」


「く、クソガキがぁぁあ……!」


 そう喚いていられたのも数秒間だけ。

 ほどなくして、すべての賊たちが気を失った。


 街道のど真ん中に置いておくのもあれなので、すこし脇に逸れたところに賊どもを放置しておいた。この場所だと魔獣の出現頻度が多少高まるが、そこまでは責任持てない。


 そして戻ってきた頃には、ミレーユがぽかんとした表情で立ち尽くしていた。


「ん? どうした?」


「わ、私、ルハネスさんが異次元の人に見えてきました……」


「大げさだなぁ。俺程度の奴はどこにでもいるさ」


「そんなわけありませんっ!」


 顔を真っ赤にして反論するミレーユ。その際、またしても彼女の谷間が見えてしまい、ルハネスは慌てて視線を逸らす。


 いかんいかん。こんなことを考えている場合じゃない。


 ルハネスは周囲を見渡し、異常がないことを確認してから、改めてミレーユに向き直る。


「とりあえず先に進もう。大丈夫だとは思うけど、賊の仲間たちが来ないとも限らない」


「は、はい……。それなんですが……」

 そこでミレーユは困ったように眉を八の字にする。

「あの盗賊たち、なにが目的だったんでしょう……? なにか言ってましたか……?」


「んー、えっと……」


 ルハネスは返答に窮し、後頭部を指で掻きながら考える。


 まず間違いなく、ミレーユに欲情しての犯行だとは思う。

 けれど、それを正直に言うことは躊躇ためらわれた。彼女自身はなにも悪いことをしていないのに、引け目を感じさせるわけにはいかない。


「たぶん、金目的じゃないかな?」


「え……」


「俺たちは学生だし金なんかないけど、なりふり構っていられなかったんだと思う。あいつら必死だったし」


「ああ、なるほど。そういうことでしたか……」

 そう言ってなぜだかほっと一息つくミレーユ。

「すみません。助けてくれてありがとうございました。ルハネスさんにはほんと、感謝してもしきれないです」


 そう言ってまたしても頭を下げるミレーユは、やっぱりどこまでも可愛かった。





 

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