凄腕の剣士、魔術についてすこし勉強する
――さて。
魔術学園を目指すのはいいが、ここでひとつ、問題が発生した。
「え……適正魔術を調べなきゃいけないって!?」
思わず声を荒らげるルハネス。
ミレーユは上目遣いでこちらを見据えたあと、こくこくと頷いた。
「は、はい……。別にやらなくてもいいですが、魔術学園には天才や秀才がいっぱい集まりますから……。最低限、それくらいしないとついていけないかと……」
「マ、マジか……」
がっくり肩を落とすルハネス。
――適正魔術。
その名の通り、自身に適した魔術のことだ。
炎や水など、属性は多岐に渡るが、ひとりにつきひとつしか適正はない。ここでショボい属性だと判明した場合、残念ながら魔術師としての道は諦めるしかないと……ミレーユは言っていた。
ちなみに彼女の適正魔法は《炎》。
生活していくうえでも使えるし、戦闘においても甚大なる効果を発揮する。その汎用性の高さから、炎は比較的優秀な属性と認識されているようだ。
「魔術学園では試験もありますから……合格のためにも、これだけは調べておいたほうが良いと思います」
心配そうに覗き込んで言うミレーユ。
うん、可愛い――って、そうじゃなくて。
「う、うーん。そうなのか……」
ルハネスは後頭部をかきながら唸った。
長らく道場のみで生活していたのが仇になった。
魔術学園のいろはというものが、ルハネスにはまったくわからない。
こんなんでやっていけるのだろうか。師匠を疑うわけではないが……
ミレーユいわく、適正魔術は教会で調べることができるようだ。その教会も魔術学園も、これから向かう王都セレナートに存在する。
まあ、行く先は変わらないから問題はない。とりあえずは教会に向かうのが優先だろう。そのあとは試験に備えて魔術の鍛錬をしなければなるまい。ここで落ちたら話にならない。
「ルハネスさんなら大丈夫ですよ。命の恩人ですし、私もできる限り手伝うので!」
「ミレーユ……」
なんて良い子なのだろう。
師匠以外にもこれほどの人物がいたとは。
感謝の気持ちを込めて、ルハネスは笑顔とともに言った。
「ありがとう。君に会えて良かった」
「……え、えっ?」
ミレーユの顔がなぜだか真っ赤に染まる。急に挙動不審になり、視線があちらこちらへと忙しなくなる。
「ん? どうした?」
「あ……いやその。えっと。なんでもないです、けど……」
「体調悪いんだったら先に休もう。俺が周辺を警戒してるから」
「は、はい……。その……大丈夫です……」
そしてため息をつき、ミレーユは呆れたようにこちらを見た。
「ルハネスさん、その……たまに天然って言われませんか?」
「え、ど、どうしてわかった?」
ぎょっと目を見開くルハネス。
「まだ会って一時間も経ってないのに……。もしかして、炎属性以外にも適正が……!?」
「ありませんよ、そんなの……」
どこまでも呆れたようにため息をつくミレーユだった。