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まさかの一部屋に二人

 さて。


 魔術学園を後にしたルハネスたちは、とりあえず一週間分の宿を取ることにした。


 入学後は学園の寮を借りられるものの、それまでは自分で寝床ねどこを確保しなければならない。


 山籠やまごもり生活を続けていたルハネスだが、一週間分の生活費くらいは師匠から貰っている。これだけは持っていけ、と強く言われたので、断るに断れなかった。


 幸いにして、王都には宿が沢山ある。選ばなければ一週間くらいは問題なく過ごせるだろう。


 そう思って宿を巡っていった――のだが。


「うーん、参ったねぇ……」

 とある宿の受付カウンターで、店員のおばさんが困ったように眉根を寄せた。

「泊めさせてあげたいけど……ウチもほとんど満席でね。一週間ともなると、悪いけど一部屋しか空いてないんだよ」


「そ、そうですか……」


 がっくり肩を落とすルハネス。


 これで十件目だ。

 どの宿も満員で、これまでに王都を何時間も歩き回っている。


 そうして、路地裏――人目につきづらい場所を探していたところで、ようやくこの宿を見つけたのに。


「う、うーん。おかしいですね……。こんなに宿が埋まってるなんて……」


 隣のミレーユも思案顔だ。


「なんでだろうな……。この時期は毎回新入生が駆けつけるのか……」


「まあ、そうさね。入学前になると、大勢の受験生が来るけど……」

 おばさんも申し訳なさそうに両手を合わせながら言う。

「でも、それにしても今年は妙だね。受験生だけじゃない。他の一般客も、今日から一週間の予約を入れてる」


「な、なんでだよ……」


 タイミングが悪いにも程がある。

 なにかイベントでも催されるのだろうか。ミレーユやおばさんはなにも知らないと言っていたが……


「…………」


「ん? どうした、ミレーユ」


「え? あ、ごめんなさい。なんでもないです」

 ミレーユはぺこりと頭を下げると、店員のおばさんに向き直った。

「すみません、このへんに他の宿ってないですか……? 私たちだけで探すのは限界で……」


「うーん。あるにはあるんだけどねぇ……。どこもかしこも埋まってるようでさ」


「や、やっぱりそうですか……」


「あとは、中心部にある高級ホテルだったらまだチャンスはあるかもしれないね」


「さすがにそこまでの余裕はありません……」


 小さな声で突っ込みを入れるルハネス。


 師匠から金を貰ったといっても、必要最低限の額しかない。高級ホテルなどもってのほかだ。


 それはミレーユも同様のようで、困ったように眉を八の字にしている。そりゃそうだ。学生身分で高級ホテルなど泊まれるわけがない。


「仕方ないさ。ミレーユ。窮屈かもしれないけど、二人でその一部屋を借りよう」


「え……!? 二人でですか……!?」


「うん。俺がいたら邪魔かな?」


「そ、そんなことはないですけど……。でも、ルハネスさんが嫌じゃないですか?」


「そんなわけないさ。ミレーユがいれば心強いし、嬉しいよ」


「あう……」


 そう言ってうつむくミレーユ。

 そのままなぜか黙りこくってしまう。


 反して、店員のおばさんは呆れ顔だ。


「あんたね、そういうのをここで言うんじゃないよ……」


「え? なにか変でしたか?」


「なんでもないよ……」

 そうしてミレーユのほうをしばらく見つめるなり、パンと両手を叩いた。

「まあ、本来はひとり用の部屋だけど、状況が状況だから今回は泊まってもいいよ。けど、激しい音を立てたり、大きな声を出すのは禁止だからね。わかったね?」


 そこでなぜかぎろっとルハネスを睨んでくる。


「いやいや、俺、そんなことしないですけど……」


「念のためだよ! 心配だからね」


「心配……?」


 よくわからなかったが、何度もそう釘を刺されるルハネスだった。



 

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