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くさった


『待たせたの!』


 イワンが毛づくろいに満足してアフロの中にお手入れセットを収納させた頃、快活な声が響いた。頭では日本語に変換されるけど、耳での受容はヂュオオ、ヂュオオと地の底から声を響かせているネズミの鳴き声そのものだ。

 声の方を見れば、いつの間にやら本来の向きに倒された石臼の縁にちょこんとちいちゃなおみ足を乗っけて立ち上がる白いアフロなロボロフスキーハムスター。

彼女は勇ましくヂュオオオオオっと雄叫びを上げるや、箒を構えた。

 ……って構え方もろロックギターなんだけどー!?


『者ども! 見知りおけ! 余は、(にわとり)の足の上の小屋に住まうもの! バーバ・ヤガーじゃ!』


 に、ニワトリ要素ついにキターーーーッ!!


『さあ乗るが良い! 余の小屋へ案内してやろう』


 そんな訳でデコトラサイズな石臼の中に皆で入った。でかすぎてよじ登れないじゃないってなったけど、ちゃあんと入口はあったわ……側面に何故かあるボタン押したらゴゴゴッて壁が上がって自動開閉ドアが現れたんだけど……なんなのよこの石臼。

 中はまさに石臼ね。座席も何も無いから立つしかないんだけど、掴めるものもないわ。そもそもさっきみたいな滑車みたいな回転無しでどうやって進むの?魔法で飛ぶの?


『では、全員乗ったな!』


 アフロハムスターはそう言うと、石臼の縁をとことこ歩き、何かの窪みに箒を置いた。カチリ、と音がしたから、設置したの方が正しいわね。

 更にまた縁を歩いて箒と反対側まで来たハムスターは、そのもっふりアフロに手を突っ込み、何やらモシャモシャするとアフロから棒を……いえ、あれ何、え、まさか(きね)!?臼だから杵!?てかやっぱアフロ四次元につながってるのかい!?


『ふはは! では出発じゃ! いざ行かん、余の小屋へ!』


 そう言って杵を振りかぶったハムスター、え、何するの?

 そんな疑問はすぐに消えた。杵を石臼の外側の壁に打ち付けるや、


 グ、ヴヴィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイ



 なんか、機械音が聞こえるんですけどー!?

 その音を辿れば、ハムスターと対極にある箒。

 箒の尻から、何かの光が溢れていた。

 え、待って。さっきそこから謎の光線出たわよね。待って、あたしの予想が正しければまさか――!


 ブボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!

 ズドンッドドドドドドドドンドドドドドドドドドドドドドド!


「ぎぃやあああああああああああああ!?」


 箒の尻からエネルギー波が発射された。それにより、石臼は前進する。地を削り、行く手を阻む全ての木々を凪ぎはらって。


『ばあさま、法定速度は守れよー』

「ぎゃああああああああああああああああああ!」

『バカモン、ノーチ! 余は安全運転じゃ! 制限速度まであと10Kmはある、余裕じゃ!』

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

『ばあさま、事故るなよー』

「ふわぁああああああああああああああああああああああああ!?」

『バカモン! イワンと違ってアクセルとブレーキを踏み間違えたりせんわ!』

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

『おーい、ばあちゃん、俺もう免許無事取れたってば』


 とんでもない振動に叫びまくるあたしを無視してのどかに会話する3人(?)。ええい、こっちの気も知らずにいいいいいいいいいいいい!

 ていうか石臼にアクセルやブレーキあるんかい!

それにこれが世界最高峰のドライビングテクニックだというの!?つーかドライブ!?そしてイワンあんたも石臼運転出来るんかい!?



 絶叫マシンよりも恐ろしい地獄のドライブ後、なんだか奇抜なランタンの吊るされた豪邸前であたし達は降ろされた。ランタンはドクロをかたどっていますよーなにこれー。おまけに白い壁の邸宅だと思ったら、どうやら病院らしい。色んな意味で恐いわよ!あと石臼その辺に置きっぱだけど駐禁取られない!?大丈夫?

 そんな病院の隅っこにある外階段へノーチさんとおばあさんは向かう。イワンとあたしも追いかけた。階段をえっちらおっちら上っていけば。3階くらいの所の白い壁に木製の扉が現れた。隅の方に表札がある。

 ――バーバ・ヤガー、と。

 ギィ、と軋む扉を開けるノーチさん。完全に開き切る前に隙間からにゅるりと入る巨大ロボロフスキー。


『入りな』


 ぽろろんという音と一緒に頭に響いたノーチさんの声に頷くと、イワンとあたしはお邪魔しまーすってお行儀良く入った。

 おばあさんちだからイワンまでお邪魔しますって言わなくても良いのに。案外育ち良いのかな。

 お家というか、部屋はそんなに広くない。でも奥に扉があって、ノーチさんは扉の向こうへ行ってしまった。

 ふつーのリビング。中央にダイニングテーブルみたいな丸机がある。椅子は4脚。この部屋には流し台とかないからノーチさんが行った先がキッチンかな。

 周りには天井まで届く本棚だらけ。背表紙に知らない記号が書かれた本がぎっしり詰まってる。こんなの図書館や本屋さんじゃなきゃ見ないよね。さすがに電子書籍は無いのかな、クレジットカードやテレビがある世界だけど。

 ぼへーっと周りを眺めていたら、アフロハムスターがえへんと咳をした。


『さあ! 余に聞きたいことがあるのじゃろう!? 壁のように突っ立ってないで何か話すが良い!』

「あ、はい」


 おばあさんから適当に座るよう促されてイワンと座る。

 えーと、異世界については聞いちゃだめなんだっけ?なら……。


「何であたしはワシリーサワシリーサって呼ばれているんですか?」

『その問いが最初か!?』


 ヂュオオ!と鳴くと、椅子に座り向かい合ったハムスターは机を齧った。さすが齧歯目。


「え? 聞くこと決まってるんですか?」

『何故愛車が臼なんですかとか! ノーチは何者なんですかとか!』

「ノーチさんはV系看護師で、あなたは施設利用ハムスターなんですよね? というか愛車なんですかあれ」

『レンタルではない、立派なマイカーじゃ! あとノーチはうちの夜勤の従業員で余がバーバ・ヤガーじゃ!』


 ガックリ項垂れたアフロハムスター。と同時に奥の扉が開いた。ノーチさん戻ったのかな。


『バーバ・ヤガー様……。お気を確かに……』


 ノーチさんじゃない。白い男の人だった。なんか病院で男性スタッフさんが着ているような白い制服に白いメディカルシューズ。ノーチさんと反対で全身真っ白。肌も真っ白。若白髪かしら、髪もほぼ白。でも年配に見えないのは、あまりにも肌が決め細やかで張りがあるから。唯一色があるのが、自然に染まったリンゴのような唇。

 歳、あたしくらいかしら。

 真っ白な人はアフロロボロフスキーの隣まで来ると、片膝をついて頷きながらなんか話を聞いていた。あたしにはヂュオオヂュオオしか分からんけど。

 やがてじっと観察していたことに気づいたのか、その人ははっと顔を上げた。


『ああ……ワシリーサ様、申し遅れました……。わたくしは……ウートロ……。“真昼”の称号を(あずか)らせて頂いております……』


 ささやきのような声が頭に響くと、あんたは執事かってレベルの美しいお辞儀をされた。わーお、こんな美しい男の人いるんだークラスにこんなのいないわー。てか称号?


『はい……わたくしを初めとして……、“太陽”の称号を持つディエーニ……、“暗夜”の称号を持つノーチが……おります……』


 ん?ノーチさんも称号あるの?

 あーでもイワンと同じで会話頭で響いていたし。称号持ちは加護があるから言葉の壁が無いのよね。そういえばおぎゃあもばぶうもどんぶらこっこも言わないわね。ノーチさんはぽろぽろりん言ってるけど、ウートロさんは……うん、実際何しゃべっているか分からないわ。言葉は頭で響くのに。


『イワン様、ご無沙汰しております……』

『おう。久しぶりだな、ウートロ坊や』


 執事のお辞儀をするウートロさんに片手……いや片羽を上げて挨拶するイワン。


「イワンの方が年上なんだ?」

『すこーしだけな』


 そういえば、ディエーニって人もノーチさんとの会話で出てたわね。


『ディエーニ兄貴ってのが俺よりすこーし上。ノーチのにーちゃんが最年長だ』

「へえー」


 どんな人かな。兄貴って言われるくらいだから、頼り甲斐がある体育系?いやオーソドックスにヤンキー系だったり。案外真面目系とか?


『バーバ・ヤガー様……まもなく夕餉(ゆうげ)のお時間です……。ご令孫様方と……お食事はご一緒されますか……』

『もちろんじゃ』

『かしこまりました……』


 おお、なんかご飯お呼ばれするのね。こっちから押しかけたようなもんなのに。申し訳ないなーって思ったら、ウートロさんは再びお辞儀をすると予備の椅子なのか、丸い切株みたいな椅子を1つ持ってきた。いつも踏台で使うやつなのかな。

 あれ、そうすると全部で5人で食べるの?


『ノーチのにーちゃんは夜勤だからな。ばーちゃんに俺らと坊や、兄貴で5人』

「え、ノーチさんご飯……」

『気にすんな。ノーチのにーちゃんはいつも出勤前に食ってる。だからさっさとキッチンに行ったんだよ』


 あ、やっぱりキッチンなんだ。奥の扉。

 しかもキッチンから病院に繋がっているらしい。だからノーチさんはそのまま出勤するみたい。


『ノーチ達は実質ここに住み込みじゃ。食事は彼らといつも一緒でな』


 アフロハムスターの言葉に納得した。なるほど、それで4脚なんだ。

 どんな食事なんだろうね、とイワンに話し掛け、彼がくちばしを開いた途端。


 バタンッ


 キッチンの扉が、勢い良く開いた。


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