むなげもじゃあ
再開です。
『らちあかねえな』
ぽつりとイワンが漏らしたのは、板垣退助な親父さんと真っ白白すけドラゴンなじいさんの魔法少女ヲタトーク耐久バトルがおよそ5時間の長丁場を迎えたあたりだった。
『こりゃワシリーサが魔法少女になるしか……!』
「だーかーらーそんな登場人物は存在しないわよ!」
ええい、どいつもこいつもワシリーサワシリーサって。あたしには如月カンナっつー名前があんのよ!
でも城のお庭でドラゴンと仙人髭のおっさんが罵り合うのを眺めるのも飽きたわねーってたそがれていたら、灰色壁のファンタジック城からメイドさん達がわらわらとバルコニーとかにありそうな白い円テーブルと椅子を運んで来てくれたわ。おまけにポットとお茶菓子まで!え、何、庭でお茶会でもするの?親父さん達が落ち着くまで?あら、寒くないようにブランケットまで持ってきてくれた!サービスが行き届いているぅ。さすが王城で働く方々は違うわ!
よっこらせと小洒落た椅子に座る。丸テーブルの上に置かれたティーカップに、ポットからメイドさんが注いでくれた。紅茶じゃなさそうだけど、何かしら。さっきのほうじ茶かな?
ていうか、日が沈み始めたわね。どんだけトークしてんのよ。
『いつものことなんだよ』
芝生に囲まれたテーブルに頬杖ついたイワンが、そっとため息を吐いた。ティーカップを掲げ一口含むと、どこか遠い目をする。
雰囲気的にはなかなか様になるはずだけど、やっているのは真っ赤なアフロの生えた巨大ヒヨコだ。
『じいちゃんも何だかんだ久々に親父と話せて楽しいんだろ、なんせ一人暮らしだからな。この歳で絡まれるの親父嫌そうだけど、しょうがねえよなあ』
「じいさんそっちなの!?」
親父さん、気持ちは分からなくないけど、うん、確かに親がでしゃばると嫌よねえ。この辺は大人になっても変わらないのかな。
「ていうか、おばあさんとは別居なの、じいさんは」
『ああ。まあ近所だけどな。ばあちゃん一応医者やってるから、病院に近い方が良いんだとさ』
「医者!? まだ現役!? おばあさん御年いくつですか!?」
確かおばあさんはネズミって言ってたわよね。ドラゴンとネズミの子が人間で、人間とナマコの子がヒヨコ。んでもって最上位魔法使いに医者、魔王と自然王、そして知恵者。やばいわ、イワンの一族何なのよ……。
『まあ、ワシリーサが魔法少女にならねえってんなら、仕方ねえ』
「なんであたしが魔法少女にならなきゃいけないのよ!? 親父さんの趣味のせいで!?」
『そうなってきたら、次なる手段は……』
人の話を聞かないアフロなヒヨコはそう言うと、羽をくちばしにあててフースカフースカ言い出した。なにやってんの……あ、これ口笛のつもりなのね。
すると、「コケコッコー!」と雄叫びが聞こえ、遥か上空から力強い羽ばたきが響いてきた!
「あれ、グリフォン……じゃなかった、飛行機?」
「コケーコッコ!」
ニワトリな鳴き声と共に、旋回していた鷲頭なファンタジー生物はぐんぐん高度を下げてくると、とすん、と軽い音を立てて芝生生い茂る中庭に着地した。
『わりぃな。終便まだOKか?』
「コケコッコー」
『よし、まだ間に合ったか』
安堵するイワン。そんな彼に対し乗りやすいよう身を屈めたグリフォンをあたしは眺める。
「この世界でも飛行機に終便あるのね……」
『あたりまえさ、夜は飛行機達は夜目がそこまで効かないからな』
「そっちか!?」
さすが鷲頭、鳥目ってわけね。
「どこへ行くわけ?」
飛行機ことグリフォンに跨がるイワンに訊けば。
『ばあちゃんのとこだ。もうこうなったらじいちゃんと親父は、お袋かばあちゃんくらいしか止められねえよ』
どこの世界も女は強しか……。
と思ったら、絶賛トークバトル中のはずの親父さんとじいさんが、ぐりん、と一斉にこちらを向いた。
『な、何!? 汝、彼の者を呼ばんとするか!?』
『なんと……暗き漆黒の森に生きる闇の支配者を召喚するというのか、我が息子よ……! ぐぅっ……、こんな時に我が右腕に封じられし暗黒の死神が暴れだすとは……いかん、皆の者! ワシから離れろ! このままでは……このままではっ……我が魔術回路の暴走は免れまい! じきに秘められし不死身の魔眼が荒れ狂い……世界が、終末を迎えてしまうだろう……!』
「親父さん! 中二病抑えて抑えて!」
外見推定年齢60歳以上の親父さんは目をかっぴらき、急に呻きながらプルプルする右腕と格闘し、『ワシの、右腕が……疼くっ……!』を見事にやってのけている。ここまでテンプレじみたやつ初めて見たわー。黒歴史って言葉教えた方が良いかしら。
なんて思っていたら、
『黒歴史……なんと甘美な響き……。世界を改変し、黎明をもたらす力を秘めたその書物、魔王たるワシにこそ相応しい!』
あ、ダーメだ、この板垣退助そっくりさん。中二病の魔王ってなんなのよ。あーでも魔王自体が中二的なものか。ていうか黒歴史は書物じゃないし!!!
それにしても旦那と息子にこんな言われるイワンのおばあさんどんな人なんだろう。
『知りたきゃ来るか?』
直系尊属二人を無視してくりくり円らなお目目を向けてきたイワンにあたしは言う。
「行くわ」
だっておっさんずトーク聞いてたってつまんないもん。
飛行機に乗ったあたし達を見て、どんぶらこっこと滝のような涙と鼻水を滴らせ、残るように懇願するホワイトドラゴンじいさん。そして持病の中二病が急変し、色んな意味で危篤状態になった白髭白髪の親父さん。そんな親父さんを介抱しながら、いってらっしゃいませと笑顔で大変美しいお辞儀をしてくれたメイドさんと執事さん。
あたしとイワンは彼らに笑顔で手を振り、飛行機は離陸した。
地平線に向かい太陽が目蓋をゆっくり閉じていく中、グリフォンは滑空する。魔ドロッコシイネ国から出発したので、イワンによる風魔術を使っている。だから空気の流れは穏やかだ。
「静かねー……」
前方は黄色い羽毛、下方は褐色の毛皮というもふもふパラダイスな特等席で、上空を仰いで呟いた。二回目だから蛇には慣れたわ。諦めたとも言う。
まだ夕日が見えるけど、反対の……東でいいのかな、この世界でも。とにかくそっち側はもう夜の帳が下りている。着実に、闇が近づいていた。
「ねえ、夜になるとグリ……じゃなくて飛行機は飛べないんでしょ? 帰りどうするの?」
おばあさんのとこで泊まるのかしら。病院の近くに住んでいる的な発言してたけど、急に押し掛けちゃって大丈夫かな。
そんなあたしの心配もイワンの一言がぶっ飛ばす。
『大丈夫だぜ、嬢ちゃん。帰りはばあちゃんに送ってもらうから』
「お、送る!? え、何、個人で飛行機でも持ってるの!? チャーター機的なやつ!?」
グリフォンみたいに鳥目じゃないのなら、フクロウやミミズク的なやつかしら。
『ばあちゃんは飛行機は持ってねえ。愛車だよ』
「愛車!? 自家用車あんの、この世界!?」
『心配には及ばねえ。ばあちゃんのドライビングテクニックは世界最高峰だ、安心しな』
「どんなおばあさんよ!?」
あたしの脳内で繰り広げられるF1的なレース。命知らずな荒くれレーサー達をいとも容易く引き剥がし、超高等テクニックでぶっちぎりの優勝を飾ったスポーツカーが現れた。全身ぴっちりしたレーサー服に包まれたドライバーが降りてくる。小柄なレーサーはフルフェイスヘルメットを外した。ふわさっと落ちる銀髪。皺の刻まれた、だが凛々しい口元。老いてなお輝きを失わない双眸。群がるインタビューア達をクールに流す彼女は、何処からともなく現れたマネージャーからサングラスを受け取ると、颯爽と去っていく。やだなにこれ、イケメェン……。




