ごりらの
え、ちょいちょい待ちなよお。魔ドロッコシイネ国に白ドラゴンがいるんですけどー!?このじいさん中立じゃなかったの!?
それに対して何か返そうとした白ドラゴン。でも声が響くことは無い。代わりに鼻の穴がぐんぐん広がっていく。
ややっ、何か起きるのか。身構えたあたしの前で深淵はふしゅうと縮んだ。そしてまたふくふくと鼻腔が蠢く。それを繰り返すのを鼻毛の数を数えながら眺めていたら、どうも突っ込んだ鼻が窓につっかえて困ってたみたい。しびれを切らして火を吹こうとし出したイワンのじいさんをあわてて庭から皆で引っ張った。窓から颯爽と登場するつもりだったそうよ。身内とはいえ別居中なら玄関から入りなさい!あと体格考えなさいよ!ハチミツ好きな黄色いクマか!?
王城の芝生の生えた庭に、白髪白髭スーツのおっさんと6枚羽の白ドラゴンが向かい合う。
『おお、これはこれはグランドマザー。ご足労感謝する』
『我、汝を裁かんと欲す』
『待ってくれ、じいちゃん!』
バチバチと見えない火花を散らす身内2人の間にアフロことビッグヒヨコが飛び込んできた。あんたにかかってんのよイワン!
『すまねえ、エレーナはまだ魔法少女じゃねえ!!』
第一声それかーい!
「なんでエレーナなのよ!? てか魔法少女まだ引きずってんの!?」
『!? 真か!? 汝、魔法少女に成らぬと申すか!?』
「だから何で魔法少女!? イワンの親父さんがアニヲタなだけなんでしょ!?!?」
『いや、わしはアニメが好きなのではない。魔法少女が好きなのだ。それも魔女っ子ぷりりんに出てくる――』
「んなこと聞いてねーー!!」
というか、魔法少女じゃなく魔女っ子という名称を使うところに時代を感じるわ。さすがはイワンの親父さん。世代がバレるわよ。
『な、何ぞ、何故、汝は、魔法少女に成らぬのか……!』
「なんでじいさんの方が嘆いているのよ!?」
ボタボタと目と鼻腔から何かの汁を滴らせ、白ドラゴンは「どんぶらこっこ、どんぶらこっこ」と嗚咽を漏らす。どんぶらこっこって桃が流れる音でしょ?大丈夫?ほんとに血繋がってる?
『大丈夫だ。ああ見えてじいちゃんも親父も一途でよ、ばあちゃんもお袋も生涯現役で頑張ってる』
「そっち!? いや仮にも女子高生にそんな話しないで!?」
真っ昼間からよそ様の事情なんて聞きたくないわ! これ以上だと年齢制限入るわよ!?
「というか、白ドラゴンの嫁とヒヨコ産んだお母さんってどんな方よ」
もう何が来ても突っ込む気力はないと思う。さあどーんとこい!!!超常現象!!!
『ばあちゃんはネズミで、お袋は自然王だ』
「ちょおおおい、どうしたーサイズ!? おばあさん大丈夫!? 潰れない!? いや、それよかお母さん自然王!? どんな姿なのよ、ニワトリなの!?」
『お袋はなあ、普段はナマコの姿だ』
「まさかの棘皮動物!!!」
この世界の生き物、どうやって繁殖してるのよ。
『繁殖って……産卵に決まってるだろ?』
「産卵」
『なんだ知らねえのか。卵産むんだよ。でもたくさん卵作っても全部孵る訳じゃねえし。特にドコカシラ共和国では出生率が年々低下していてさ、これは産卵周期の間隔の広がりが関係して――』
「いぎゃああああああああああああああ!?」
ヒヨコは分かる、だが人間も卵から孵るの!?
『俺は25人兄弟の末っ子なんだが、友人は100人兄弟の末っ子だ』
「サケの産卵か!?」
てか富士山の上でおにぎり食べられるじゃない!?!?あれは友達だけど!!!いやその前に、イワン25人兄弟なの!?みんなヒヨコなの!?ナマコや人間もいるの!?
『皆なあ……足が生える前にカエルに食われちまった……』
「足が生える!? オタマジャクシ!? いやカエルに食べられるの!? 共食い!? いやその前にすごくデリケートなこと訊いちゃったね、ごめんね……」
アフロに謝った。そっかあ、元の世界でもそうだったけど、兄弟たくさん産まれても皆順調に育つ訳じゃないもんね。
『生き残った俺は無事にヒヨコになれたが、手足生えるまで地を這っていた幼少期は大変だったぜ』
「ストーップ、あんたどんな幼少期送ったのよ」
『お、気になる? 気になる? 写真見るか?』
相変わらず鼻水だか唾だか火花だか散らしているじいさん達を無視して、イワンがいそいそと自らの赤いアフロからアルバムを取り出した。四次元空間にでも繋がってるのかしら、あのアフロ。
『ほれ、これだ』
「どれどげえええよあああああああああああああああああああああ」
いやいやいや蛇じゃん!写っているのはアフロを生やしたデブりんスネークさん。アフロこの頃から!?ていうかこれツチノコじゃない!?ツチノコをカエルが食べるの!?蛇に睨まれたカエルじゃなくてカエルに睨まれた蛇ですか!?
『びっくりだろ、産まれた時はみんなこうだぜ』
「何が起きたのよ、進化? 進化なの? 魚がタコになるあの進化なの?」
確かあの進化は生物学的に正しくは変態が近いのよね。でもあれゲームだし。
それにツチノコがヒヨコって、もう生物学に喧嘩売るどころが大砲ぶちこんで壊滅させてんじゃないの!大丈夫?
「ていうかなんで爬虫類からアフロ生えてんのよ、お母さん譲りなの!?」
『アフロはばあちゃんだ』
「ああそうかネズミだったものね……」
アフロの生えたネズミ……どんなのか気にならなくはないけど。
なんだかどっと疲れを感じながら、魔法少女の魔法少女具合がいかに魔法少女であるかを唾を撒き散らして演説し始めたイワンの直系尊属コンビを生暖かい目で眺めるのだった。




