しらが
『よくぞ来たな、ワシリーサ』
「だからどこにそんな登場人物いるのよ!?!?」
『落ち着きなよ、マルタ』
「イワン! あんたも黙れ!!」
傍らのアフロなヒヨコにがなったらため息出たわー。
もうなんなのよ、さっきから城の中で「ゆー! いー! のう! そーれ、ゆー! いー! のう!」コールばっか聞くんだけど。なによ結納結納って。これも本当は違うこと言ってるの?
魔ドロッコシイネ国ドロンココロリン城にやって来たあたしは到着後まだ15分も経ってないのに疲労感がすごい。まあへびに巻かれたままグリフォンに乗ってたから疲れてはいるんだろうけど(あれ地味に体力使うのよ……イワン曰く、緊張し過ぎて余計な筋肉使ったからだって)精神面の疲労がやばいわ。
魔ドロッコシイネ国に到着早々、城に案内され、玉座の間に連れていかれたあたし達は、広い大理石の床に何故か敷かれているゴザの上でちゃぶ台を囲み座布団に座ってお茶をすすってた。香ばし〜い!ほうじ茶かしら、地味に美味いわー。
あ、ちなみに正座ね、胡座はさすがに不味いし、体操座りなんてしようものならパンツ丸見えよ!ラノベの挿し絵とかで女の子がミニスカで体操座りしてるの見かけるけど、中が見えないのは単に絵師さんの技量によるものよ!!あんなの現実でどんなに上手に隠したってちょっと視点変えれば見えちゃうの!!絶対領域in体操座りを見えない絶妙な角度で描ける絵師さんすごい!!神か!!!
そんな叫びを心の中で盛大に行いながら、部屋の奥、ちょっと高めの位置にある玉座に腰掛ける人間を見た。
くたびれたスーツによれたネクタイ。磨く余裕すら無く履き古したビジネスシューズはブラックの証か。これぞまごうことなき現代に生きる下っ端サラリーマンの姿である。
なんで異世界なのにいるんだろう。というか何故玉座に座る!?吸い込まれるように視線はボタンがはち切れそうな腹へ。摘まんでやろうかしら。うちのお父さんひょろひょろでビール腹じゃないから触ってみたいのよ。憧れるわー。
『くくく、この腹に興味がおありかな?』
『親父の発言気にしなくていいからなー』
長くのびた白い髭の間から覗く笑み。白髪を散らした玉座のおっさんが右手で左目を隠しながら宣う。言葉は頭に響くから分かるけど、どう聞いてもあのおっさん、「おぎゃあおぎゃあ」としか言ってないわ!息子のイワンが「ばぶー」だから親子だなって思えるけど!?
それにしてもイワンの親父さんだから40、50代くらいと予測していたが、まさかのジジイ!?しかも中二病!?どんだけ遅れて発症してんのよ、大人になってからだと悪化するのよ!?事前に予防接種打っときなさい!!!
それにしても見事なまでに滝のような真っしろしろすけな髭、シワの刻まれた顔、見た目はまさに板垣退助、中二病のすがた!!!!「板垣死すとも自由は死せりぃ!」おいこら自由死ぬのかい!!!!!意味ねえ!!!!!
だから現代の日本には自由が足りないように感じられるのよ!!おのれ、板垣退助!!あんたもっと頑張れよ!!熱くなれよ!!!
そういえば小学校の時に初めての社会の授業で開口一番、日本のサンタクロースって言って板垣退助の写真を黒板に張り付けた教師がいたのよね。いたいけなあたし、あれガチで信じて自慢気に家で話したらお父さん大爆笑。お母さんは何故かぷるぷるして黙ってたけど。どうもあの先生、昔お父さんの担任やってたみたい。「まだ言ってるのかよ!?」って腹抱えてた。何年越しのネタなんだろう?
『さて、ワシリーサ。カードに封印は出来たか?』
「もういいわ、ツッコまない……。封印はまだよ」
もうため息しか出ないわ。名前言おうとすれば何故か止められるし、もう好きに呼びなさいよ。
『ふむ。まああれはグランドマザーが勇者を助けるために作り出したものだ』
『ちなみにグランドマザーはじいちゃんの名前だ』
アフロなイワンの補足が入る。じいさんの性別どっちなのよ。
『グランドマザーは、優秀な魔法使いを求めている。そのためまずはカードで魔法への興味喚起と苦手意識を無くし、スムーズに魔法見習いへの道に誘おうというのだ』
「ふうん、一応考えてやってたのね」
頷きながらちゃぶ台のお茶菓子に手を伸ばす。図々しいとか言わない。器に山盛りなのよ、早く頂かないと湿気るから。あ、ひなあられかな。マヨネーズ味のこれ、好きなの。
「ところで、鷲と戦うって話はどうなってるんですか?」
そう口にすれば、親父さんはハッとした顔で立ち上がった。
『ククク、よくぞ言った、ワシリーサ! そうとも、このわし、第100169608代目ドロドロネールネ大陸が魔王と戦って頂きたいのだ!』
「はあ」
ふんぞり返り、ワーハッハッハッと笑い出す親父さん。あ、反り返り過ぎて玉座の角に脳天ぶつけたわ。いい音したわね〜、中身詰まってそう。ほらスイカとかそう言われない?
って痙攣してるけど大丈夫かしら、脳震盪とか。
しかし100169608代目ってすごいわね。どんだけ代替わりしてんの。初代生きてるのかしら。生きていたらあの白塗りの世を忍ぶ仮の姿の悪魔なあの方と同窓会出来そうじゃなーい?
「えーと、イワンの親父さんが、鷲?」
『うーんうーんいたた……お、おお! いかにも!』
「頭大丈夫ですか」
『無問題!』
「何でそれ知ってるんですか」
というか、何であたしが戦わねばいけないのよ、あと親父さん鷲にでも変身出来るの?
『エレオノーラ、親父は人間族だから変身は出来ねえ』
「また違う名前出た!? てか人間族変身出来ないのね」
『だが空は飛べる』
「WHY!?」
意味わかんねーよ、なんで人間空飛べるの!?魔法か魔術?
『人間族は変身は出来ないが、老年期に入ると翼が生える。親父は老年期片足突っ込んでいるからな』
「翼が!? 天使か!?」
つかじいさんになると生えるって何それ!?若者に生えなさいよ!!目の保養になるからっ!!!ただしイケメンに限るわ!!!!!
というかどこに生えるのよ。親父さんには見当たらないけど。
『個体差がある。背中や顔から生えるやつもいれば、腕や尻から生えるやつもいる』
「ふーん……って今尻って言った? 尻!?」
あたしの叫びに、アフロを揺らしてイワンは頷く。
『じいちゃんはそれでホワイトドラゴンになった』
「じいさんまさかの人間族ー!? てか背中に生えてたけどあそこ尻なの!? 尻から羽生えるとドラゴンになるの!?」
どんな身体の構造してんのよ。ていうか前じいさんは最古のホワイトドラゴンって言ってたはず。じいさんいくつ!?
悶々とするあたし。その隣でアフロからアフロの描かれた手鏡出してアフロのお手入れを始めるアフロなヒヨコ。アフロがゲシュタルト崩壊だわ。
そんなあたし達の目の前でのほほんとTHE中二スタイリングしていた親父さんが、いきなり目をカッと見開くや立ち上がった!何!?尿意を感じたの!?
『……エカテリーナ』
「どこの女帝ですかっ!?」
ぼそりと呟いた親父さんに反射的に返せば。
――ズンッ
「わ、」
『おお、わぁ』
突然、鳴動と共にあたしとイワンはバランス崩して地に突っ伏した。
「っ!? ななな!?」
な、なんか視界がぶれてるんだけど!?何かゴゴゴ言ってる!地面揺れてる!?城のあちこちから悲鳴が聞こえるんですけどー!?
『……すまぬが、戦いは一時休戦のようだ』
「いや休戦以前にまだ戦ってすらいないから!!」
もはや条件反射になりつつある親父さんへのツッコミ。そしてツッコミにも揺れにも動じず、何だか険しい顔をしてあさっての方向を眺めている親父さん。その凛々しい姿は、あの幼き日、黒板に貼られた写真の中の板垣退助を連想した。
ああ、イワンの親父さんあんなだけど、やっぱ魔王なんだなあ……。
感慨に耽っていたあたしは、次の瞬間親父さんが玉座から飛んだのを視界に納めた。
跳んだじゃなくて、飛んだ。
はためく背広、バサッバサッと音を立てて宙を舞う親父さん。あの長い白い髭を悠然と羽ばたかせ、飛んでいるのだ。
――髭が翼かーい!!
激しい揺れに立っていられずまともにツッコむことが出来ないあたし。
肝心なイワンはアフロがもげると意味不明なことを叫んでいるわ。よって頼りにならない。
どうする、どうするのよカンナさん!ここで何もツッコまなかったら、如月カンナの名が廃る!いざ、叫ばん!
「うおおおおお゛オ゛オ゛オオエ゛エ゛エ゛エ゛エ」
あ、無理。酔った。
ガラッ、
窓をスライドする音に気づいてその方向へ顔をやった瞬間。
ピタ、
震動が、止まった。
ぬう、
親父さんが開け放った窓。そこから、逆光を浴びて何かがぬるりと侵入する。
その姿にイワンが、ああっと声を上げた。
遅れて、あたしも。
『……汝、其のものと契約し、魔法少女となれ』
白いドラゴンが鼻面だけ窓に突っ込んでいた。




