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「結局あんたはなんなのよ」

『そうカッカすんなワシリーサ』

「誰よワシリーサって。あたしはカンふぐ!?」

『おおーっと、迂闊に名は言わねえ方がいい』


 黄色い巨大なヒヨコは羽毛であたしの口を塞いだ。


『すまねえな、嬢ちゃん。俺の親父と戦うために協力してくれるなんてな』

「誰も協力するなんて言ってないわよ。しかも戦うって今初めて聞いたけどー。てかあんたの親父さんは何? ニワトリ?」

『だが嬢ちゃんは俺の親父と戦うよう宿命付けられた……!』

「人の話聞きなさいよ」


 アフロを被った身の丈1.5mはあるヒヨコに怒鳴るが、ばぶばぶ鳴かれるだけで会話が進まない。会話は頭に響く声。さっきまで聞こえてたワケわからない声よりは若いわね。

 てか、ヒヨコに乗って裁判所から逃げちゃったけど大丈夫?

 あ、その前に。


「ここ一体どこなの?」

『ドコカシラ共和国だ』

「どこかしらって……」

『説明しよう。この世界、ドロドロネールネ大陸には多種族の住まうドコカシラ共和国と、人間族至上主義な魔ドロッコシイネ国が存在する』

「なにその貧弱そうな大陸名」


 あたしのツッコミを華麗に無視してヒヨコはしゃべる。


『俺はドコカシラ共和国に住んでいるイワンだ。イワンのばかと呼ばれている』

「ガチョウじゃなくてヒヨコでイワンなの? てかばかってけなされてるわー」


 えへんと胸を張るヒヨコにそう言えば、ヒヨコは何故か鶏冠を生やして不機嫌そうに鼻を鳴らす。


『嬢ちゃんは世間知らずだなあ。ばかってのはドロドロネールネ大陸において勇者に並ぶ知恵者のことを言うのさ。いわば称号だ』

「ヒヨコが知恵者……」


 得意そうにぴるぴる鶏冠を揺らしていたヒヨコは、ふんすふんすと鼻息を荒くすると、鶏冠を閉まった。どういう仕組みになってんのよ。

 ん、まって、勇者?


『勇者ってのは、異世界から飛ばされてきた者の総称だ。奴らの言葉はこちらの言語と違うから本来なら分からねえが、俺のような称号持ちは各々自然王の加護を受けているからテレパシーで意志疎通が出来る』

「ああ……だからあんたの声ばぶばぶ言ってるのに意味が分かるのね……」


 なるほど。じゃああたしが森で出くわしたイケメン達の言葉が分からなかったのは、言語が違ったからなのね。そして彼らは称号持ちではないと。

 ん?待って、確かあのフードの妖怪男(仮)の言葉は通じたような……。


『違う言葉でも、脳は自分の知ってる言語で近い発音の言葉にすり替えちまうことがある。俺が知ってる限り、嬢ちゃんと同じ言語を話している奴は見たことがねえ』

「ふうん……」

『というより、異世界同士が繋がること自体が滅多に無い。あってもそこから生き物が生きて流れ着くことはかなりの低確率なんだ』

「え?」


 驚くあたしに、ヒヨコのイワンは語る。


『大概は遺体となっての発見だ。世界を繋ぐ穴なんかくぐって無事なわけねえだろ』

「ちょ……」

『別に好き好んで異世界来てるわけじゃねえのは分かってるが、自分とこの世界越える際にその存在を別の世界に否定されるらしい。よくわかんねえ物体になってこっちの世界に落ちてくるんだ。無事に越えても、着いた世界で誰かに保護されるまで生き延びられる保証はねえし』

「う……」


 よく分からない物体って……。さっき遺体となっての発見って言ってたから……それって。


『だから奴らの弔いとある種の敬意も兼ねて“勇者”と俺らは呼ぶ。生死に関わらず、世界を越えた者は、それで呼ばれるだけの理由があるんだよ』

「そ、そう……」


 うっわー。とんでもない異世界転移事情聞いちゃったよー!ネット小説やラノベで異世界もの読んだことあるけど、こんなシリアスなものないでしょー!?翻訳機能とかチート機能が付くとか以前に生存者少ないの!?なにそれー!?

 てかこれ夢じゃないの?あたしどっこも怪我してないし。穴から落ちた時に尻餅ついたくらいで。

 あ、あの時痛かったから、これ夢じゃないのかも……。やば、夢だと思って意味わかんないノリで来ちゃったわ。


『生存出来た勇者はコミュニティを作って狩りを行う奴らが多いな。嬢ちゃんが森で出会ったっつう集団は十中八九勇者達だ』

「えー、イケメンばっかの集団が!?」

『あれ嬢ちゃんの感性だとイケメンになるのか……?』


 ヒヨコが目を丸くした。いや、つぶらな瞳がこれ以上まんまるになっても。


「あーでもなるほどね。だからチームワークバラバラだったのね。勇者は言語が違うんでしょー? みんな違う世界からやってきたなら言葉も文化も異なるから、そりゃコミュニケーション上手くとれないわ」


 うんうんと頷いたところで。あ、ということは。


「あたしも勇者ってなるの」

『そうだな。嬢ちゃんも世界を越えた者だ。勇者は俺らの知らない文化と知恵を持つ。保護の代わりにその知識の提供をしてもらう。だから俺みたいな知恵者をはじめとする称号持ちと同等の扱いは受けるぜ。称号は与えられないから自然王の加護は得られねえけどな』

「ふうーん……」

『加護は得られねえ代わりに、さっき言った狩り……嬢ちゃんが持ってるカードを使って“(とも)”を作ることが出来る。どんな凶悪な生き物でも自分の使役下に置けるのさ。そしてそれはこの世界の言葉以外の言葉――勇者達の世界の言葉に反応して作動する。仕組みはよくわかんねえな、じいちゃんに訊いてくれ』

「じいちゃんって誰のよ」

『俺の。俺の親父の親父』

「ふーん……ふんがっ!?」


 は!?いやヒヨコのじいさんが光るファンタジックなカードの製作者なの!?


『いや、じいちゃんのウロコに魔法掛けてるだけなんだけど、その魔法はじいちゃんが考えたものなんだ。でもその理論が複雑過ぎて学者さん達もうまく証明出来なくて、だから仕組みが分からねえ』

「魔法に理論や証明なんてあるの……?」

『まあな。魔法はそれがあって構築されている。そうでないデタラメなものは魔術と見なされ別分野になるな。魔法は過程、魔術は結果を重視するものだ』

「ふーん」

『ま、学者さんが頑張ってるのも、解明されればこの世界のみんなでも使える可能性が出てくるからってわけで。俺らが見よう見まねで勇者と同じ単語唱えても、無反応なんだよ』


 へえー。なんかよく分からないけど、ヒヨコのじいさんはすごいのねー……ん、ウロコ?


「待って、じいさんのウロコ? てか訊いてくれってそれならみんな訊きに行けば良いでしょ?」

『あー、それな』


 目の前で特大ヒヨコはそのもっふりしたアフロを羽毛で掻いた。


『じいちゃんはドコカシラ共和国と魔ドロッコシイネ国の中立な立場にいる。中立だから地下に国作って一人暮らししてる。だから気軽に会えねえし、おいそれと俺らの願いを聞けるわけでもねえ。一応種族はこの世界で残存する最古のホワイトドラゴンで、六枚の羽を持つ……』

「でああああああああああ!! それ魔法少女になれって言ってきた鼻くそほじってたドラゴーーーーン!!!」

『お、じいちゃんに会ったのか。鼻くそほじってたなら元気だな』

「それ元気って証拠なの!? てかなんで魔法少女!? いやその前にドラゴンの孫がヒヨコ!? 親父さんは何なの!?」

『落ち着け、エレーナ。質問は一つずつだぜ』

「だからそんな登場人物いないって!」


 アフロなヒヨコに宥められる如月カンナ16歳。スイートなJKライフを送るはずが、何故だか異世界ライフを送ることになってしまいました。チャンチャン!






 と終わるはずもなく……。






『親父は人間族なんだが、魔法の理論や証明がめんどくなって、魔術に変えたんだ。まあ向き不向きあるからこれは良いんだが……』

「うん、ドラゴンの子供でヒヨコのお父さんがなんで人間なのかってもうツッコまないわ」

『じいちゃんがキレちゃってさ。一応じいちゃんは大陸一の魔法使いだから。その息子が魔術を学び始めるのは許せなかったんだろ』

「あー、あるあるな展開ね」

『でよ、ドコカシラ共和国ってのは魔法も魔術も使われてる国なんだが、魔ドロッコシイネ国は魔術一辺倒なんだ。だから人間族で魔法に苦手意識があるやつらの駆け込み国家みたいな感じになってて』

「ほうほう」


 あ、何となく話が見えたぞ。


『親父は魔ドロッコシイネ国に亡命しちまった』

「デスヨネー」

『連れ戻そうにもじいちゃん仮にも中立を貫いてるから下手に動けないし、俺も成人してるから親父いないと無理ってわけでもねえ。むしろ別に好きに生きて良くね? って感じだ』

「うんうん……成人してるの?」

『当たり前だ!鶏冠見せたろ?』


 憤慨するヒヨコのイワン。

 鶏冠ってヒヨコに生えるものなんですか。そーですか。


「で、何であたしが親父さんと戦うのよ?」

『うん、それがさ、親父あっちの国でそのー魔術に成功しちまって』


 ああ、あっちで大成したってことね!

 確かあたしのお父さんも若い頃にブラック企業から転職してあっという間に出世街道を駆け抜けたそうよ。あのまま転職しなかったら、社長に引き抜かれなかったら今の俺は無いってよく言ってるわ、お父さん。元気かしら。

 やっぱね、環境は大事ねー。


『魔王になっちまった』

「へえ、すごいじゃ……はっ!? 魔王!?」


 待って、人間が魔王になれるの?あ、あたしの魔王の定義と違う?魔王って魔族とか魔物の王じゃ……?


『魔王は大陸の中で魔術に秀でた者のこと。ドコカシラ共和国よりも魔術に集中しているから、代々魔ドロッコシイネ国から輩出してる。ただ滅多に現れないんだよ。さすがはじいちゃんの子だな』

「ほ、ほええ。そうなんですか……」


 うん、なんかあたしすごい人(?)と話してないかなあ。じいさんが大陸一の魔法使いで、親父さんが大陸一の魔術使い。

 そういえばイワンも知恵者って言ってたし称号持ちだから、すごいのよね?


『それで、親父は自分みたいに魔法が苦手な奴らを魔ドロッコシイネ国に移住させようと思ってるらしい。まあ無理にはしないってさ。実際親父みたいに魔法使えなくて嫌な思いしてる奴はいるし』

「ふーん、良い人じゃない? 別に悪さしてなさそうじゃない」


 そう、悪い魔王なら侵略とか迫害とかしてそうなのに、むしろ助けてあげようとしてるもん。


『でもさー、じいちゃんがまたキレた』

「老害め!」

『それで親父を説得っつうか倒せそうな奴を探してたらしく、親父が好きなアニメが魔法少女ものだったから魔法少女になって欲しいってワケわからないこと言い出して』

「それで魔法少女かあああああああ!? てかアニメあるのこの世界!?」

『いやあるけど……嬢ちゃんの世界にもあるのか』


 驚くヒヨコ。いや、あたしの方がびっくりしたよ!?魔法や魔術あるのにアニメあるのね……しかも魔法少女もの。


『親父は親父でじいちゃんの魔の手から候補者を救うために、見つけては説明して謝ってるらしいんだよ』

「お、親父さんも大変ね……」


 そりゃじいさんの迷惑行為を受けた人間一人一人に謝罪して回るって大変だわ……ん?


「そういえば、あんたに会う前……あんたのじいさんに会った後からへんな声が聞こえてたいたんだけど……」

『あ、多分それ親父』

「まじかあああああああああ!!」


 謝るんなら、封印したら教えるだのなんだのあんな間怠っこい方法せずにさっさと姿見せて頭下げなさいよ!?


『あれ? 親父菓子折持って来なかったのか?』

「菓子折持って来るんですか、親父さん!?」


 どんな魔王だ。


『ふうん……ほらやっぱり。親父と戦う宿命にあるじゃないか』

「どこが!?」

『戦うって言ってもさっき言った通り説得するだけ。一応ドコカシラ共和国の知恵者だし、じいちゃんの孫だし。俺が魔ドロッコシイネ国へ今度使いに行くことになったから。良かったあ、裁判で嬢ちゃんが同行者に選ばれて』

「あのスタンディングオベーションが!? あの判決のどこが!?」


 ギロチンって魔ドロッコシイネ国へ行く同行者になる罪なんですか?断首刑言ったよね?切断言ったよね?なに、これも脳が似た単語にすり替えるってやつ!?


『よし、さあ出発は明日だ。準備をして早く眠ろう! 明日は早いぜー!』

「まてまてまて、話に付いていけない。あああだから裁判所からあんたに連れられて逃げ出しても何にも言われなかったのね……同行者だから』


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