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とうふメンタルよ



『うるぃやあああああああ! 待たせたなあああベイビー! 楽しい飯の時間だあああああああ!』


 突然現れたハイテンション野郎。おいおい、髪が重力に逆らってますよーロックンロールか!?てか赤髪って片腕の海賊か!?

 赤髪野郎は何て言うか赤かった。真っ赤に染まった半袖トップスにチノパン、なんかものっそいメイクアップされた顔にまで返り血が飛び、とってもスプラッターである。

 ノーチさんに続きあんたも90年代V系か!?あたしの生まれる前だから写真でしか知らないけど!?え、何で知ってるかって?お母さんの部屋になんかあったのよ……そういう人達が表紙の雑誌……。


『てめーがワシリーサかあああああああああああん!?』

「そんな登場人物はいないわ!」


 勝手に決め付けないで欲しい。あとよく見たら包丁持ってた。恐っ!?


『ディエーニ……看護師はメスを使ってはいけません……人体の解剖を許可されているのは……ドクターと歯科医、およびそれらの学生のみです……』

「いやいやいやこれメスじゃなくて包丁よ!? てかあなたもV系看護師!? あとさらっと人間の解剖匂わせないで!? 恐い!」

『うるせえな! 俺はテメーらと違って調理師の資格もあるから大丈夫なんだよ!』

「調理師もメスや人体解剖は駄目でしょ!?」

『今日もばっちり(さば)いたからよお! 別のブツも解体ばっちりだぜ! 今は冷凍庫ん中でそろっておねんねだ!』

「話を聞けい! って、待ってあんたら人間食うの!? 別のブツって何!? てか包丁怖っ、しまって! しまって!」

『ありがとうございますディエーニ……。わたくし達では下ごしらえが出来なくて……当分は食料調達に悩みませんね……』

「人の話聞けえええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 え、待って。あたし人肉食べさせられるの!?JKカニバライフとかイヤー!


『へいおまち、ディエーニ様特製煮込みスープだ!』


 ってぎゃああああああああああああああああああ!真っ赤な血まみれスープだああああああああああああああああああああああああああ!JKカニバライフの扉を開いてしまううううううう!!


『なんじゃ。晩飯はスープか?』


 鼻をひくつかせロボロフスキーハムスターなおばあさんが言う。


「こ、これは、何の肉を、つかっているのでしゅか……?」

『ふん! とれたてを捌いてやったぜ! 覚悟して食いな、ばーさん!』

「とれたて……何の……?」

『嬢ちゃんは本当に世界を知らねえなあ。これは肉じゃなくて野菜のスープだ』


 アフロマティックなひよこのイワンにそう言われ、目配せを受けたウートロさんがキッチンからカブみたいな赤い汁の滴るブツを持ってきた。

 カブもどきかよ!?



 なんやかんやで食事が終わると、真っ白なウートロさんは朝が早いからとおばあさんの家を出ていった。住み込みって聞いたし、この病院と一体化した建物内のどこかに住居があるみたいね。

 ディエーニさんは隣室で(やっぱりキッチンみたい)食器の片付けとか始めたから手伝おうかなと聞いたら『客人だから』と椅子に座らされた。後でおやつ持ってきてくれるみたい。それまで飲んでろと何やらガチャガチャ置いていく。テーブルど真ん中に両手鍋とバケツの合の子みたいなものが鎮座したけど、何あれ。

 下の方に蛇口がついてるけど、あれかな、回転寿司の席でひねるとお湯が出るやつ?理科の実験器具として出てきても違和感ないと思う。

 さてさてイワンは『ちょっくら小便』と出ていったわ。異世界ファンタジーキャラっておトイレとか行かなさそうな気がしたけど、生き物だもの、そりゃ排泄するわよね……。

 真っ赤なアフロを盛大に揺らして出ていったイワンを見たおばあさんの、あれは大雉を撃ちに行ったなという呟きをあたしは聞かなかったことにした。

 いやいくら同性のおばあさんが隠語使っててもね、ほら……あたし腐っても乙女だから!


『さて、ワシリーサ』

「そんな登場人物はいません!」


 反射的に返すと、アフロハムスターは苦笑した。


『食事の前にした質問の続きをと思ったが、先ほどもいの一番にそれを聞いてきたな』

「はい、ワシリーサとかエレーナとか、何でわけわからない呼び方をされるのですかね」

『何故そう呼ばれるか教えられてないのか?』

「教えられるも何も最初からそうですし否定してもひたすら呼ばれるし、ツッコミが追いつきません」

『ははあ……。イワンは何も言わんかったんじゃな』

「何も。あとギャグですか、ツッコミ待ちですか」

『バカモン、余は真面目一筋じゃ』


 ふん、と鼻を鳴らすとロボロフスキーハムスターは理科の実験器具もどきの蛇口をひねり、ティーポットにお湯を入れだした。

 ああー、お湯が入ってるんだ、魔法瓶ね。


『仕方無い。余が話せることだけ話そう』

「あ、はい。宜しくお願いします」


 何となくペコリとお辞儀をした。ていうか、本当はイワンが話すことだったのかな。後で絞めてやるわ。


『まず、この世には“名を継ぐもの”が存在する。その最も有名な一つが“世界の管理者”』

「名を継ぐもの? 世界の管理者?」


 あ、さっきノーチさんが言ってたやつ!


『ほう、ノーチから聞いていたか』

「名前だけですね。あとはおばあさんに聞いて欲しいって言ってましたけど」

『なるほど。では答えよう。この世には多数の世界があると言われておってな。今いる世界はその一つに過ぎん』


 おおおっ!?なんか異世界ファンタジーっぽくなってきましたよ!これは盛り上がって参りました!!


『この世界の管理者は“アファナーシエフの名を継ぐもの”。もっとも女性じゃから正確にはアファナーシエヴァと名乗っておるがな。皆からトリプルAと呼ばれておる』


 トリプル……なんかのグループかい!?


『そして余は管理者ではないが、“バーバ・ヤガー”の名を継いで今に至る。こちらは名というより称号じゃな。この世界の管理者が代わったことで、先代から継いだのじゃ』


 へえー、じゃあおばあさんの名前は本名じゃなくて称号なのか。そういえばイワンも知恵者(ばか)の称号があるのよね。


『ウートロ、ディエーニ、ノーチは称号を継いだ頃に雇った。ちょうどその頃じゃな、今の管理者にとって初めてのワシリーサが現れたのは』

「初めてのワシリーサ?」


 そうだ、ワシリーサは過去にもいた。それもノーチさんから聞いた。 

 でも。


「その人は、あたしと何か関係あるんですか?」


 コポポ。

 あたしの問いに黙ったままアフロハムスターはティーポットから器用にティーカップにお茶を注いだ。


『……その質問に余は答えられない。“外”に関することしか答えられぬ』


 それもノーチさんが言ってたな。外ってなんなんだろ。

 でも何であたしワシリーサワシリーサ呼ばれてるんだけど。確か……イワンじゃなくて親父さんが最初に呼んだっけ。あれ、じゃあ親父さんがあたしに説明すべきだったの?

 それに初めてのワシリーサってことは、その後も別の“ワシリーサ”が存在したってことよね。実際あたしの前にも“ワシリーサ”がいたみたいだし。でもそのワシリーサをあたしは知らない。

 待って、じゃあまさか、ワシリーサってのはこのおばあさんと同じで――


『ふむ、聡いな。ワシリーサ』


 おばあさんは鼻をひくつかせ、あたしの心を読んだかのようにそう言うと微笑んだ。


『だがまだその時ではない。アファナーシエヴァに認識されるまでは、何も縛られることはないのだから』

「縛られる?」


 え、何それSMプレイ?やだー。


『そんなプレイはアファナーシエヴァとコシチェイしか楽しまん』

「そのアファナーシエヴァさん楽しむんですか!? なんつー性癖を――……ってそれよりコシチェイって誰ですか?」

『ワシリーサは勇者であるが、勇者はワシリーサではない。……余が話せるのはここまでじゃ』

「いや、あのコシチェイって」

『必要以上に知ることは、早く歳を取る。お前はまだ、若い』

「そんな重要キャラなんですかコシチェイは」

『知らぬことは恥ではないぞ。祝福がお前を助けるだろう』

「人の話聞けい!?」


 ええい、この世界の人達はそろいにそろって人の話聞かないわね!?

 何はともあれノーチさんと同じことを言ったおばあさんは、あたしに温かいお茶を差し出してくれた。

 お礼を言って口にするとふわりと広がる香り。あれ、親父さんの城で頂いたお茶と違う。香ばしくない、ちょっと甘い。色は似てるんだけどなー。紅茶、いやフレーバーティーかな。

 黙々と飲んでいると、おばあさんがひげを撫でながら小鉢を差し出してくれた。木のスプーンと一緒に。

 小鉢の中を見ると、そこにはたっぷりとはちみつが入っていた。


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