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魔王になったあの娘のために(プロトタイプ)  作者: 団子の長
第3章・牙と爪は誰が為に
60/60

20.愛してる

これで『魔王になったあの娘のために(プロトタイプ)』は完結となります。

「そういうわけで貴方達は今日から魔王覚醒と邪神復活まで外に出るの禁止で」


 王城内で私が玉座の上から50に迫るダーク達を睥睨しながら宣言すると案の定彼らは不満を露わにする。それでも彼らの反応には辟易してしまう。


「何を言ってやがる!?」「逆に殺しても良くなっただろっ!」「人間は俺達のオモチャだ!」「国の一つは好きにしても良いぐらいの余裕は出来た筈だ」


 やーうるさいうるさい。ダークって何でこんなに血気盛んなんだろ、もっと穏やかに生きられないのかな? イーグルさんは好きな人の為って理由で離反したんだし普通に生きれる可能性も無いわけじゃないのに。


「・・・魔王様」


「あらテンタクル。貴方も私に何か言いたい事でも?」


 色々あって上位魔人も数が減って、魔将なんかは5人を切った。誰も彼も人を残虐に扱い殺す事を生き甲斐にしてるような奴らだったし死んでくれて清々してるけど。

 そんな数少ない生き残りの上位魔人の1人であるテンタクルが進み出てくる。ちょっとお疲れ気味かな? 計画の何もかもが上手くいっていないものね。流石はカイル、彼がいた事がテンタクルの敗因だったわね。


「・・・まずはぁ儀式までの期日を大幅に短縮する事に成功、誠におめでとうございます」


「どういたしまして」


 いきなり労いの言葉。どうやらこれは本心みたい。まあダークがちまちました所で到底する事が出来ない事を私は達成したのだし当然ね。・・・問題はその後のようね。


「―――・・・今後の事について伺いたい事が・・・何故に我らに人間の領域へ打って出る事を禁じるのですか?」


「必要が無くなったから。それ以外に何か?」


 わざわざ大地を瘴気で汚染しなくても『赤い月』は完全なる形を持って顕われるし、絶望や怨嗟を集めての魔王の精神汚染も私には欠片の効果も無い。


「・・・ワタシ達は邪神様の祝福により超越者としてこの世を謳歌していました」

「へーそう」


 下劣な彼らの謳歌だなんて耳が腐りそう。


「邪神様の望みはこの世を絶望で覆い尽くす事」

「知ってる」


 魔人の加護が私に求めるのはいつだってそれだ。


「ワタシ達は邪神様の祝福を授かった身として、自由に動けない邪神様の代わりに人間共に絶望を与えなければならないのです」

「そうなんだー」


 本当に面倒な主従関係だこと。

 まあこのまま私の力だけで儀式も、邪神復活の段取りも全部完了させられるとなったらダークの存在理由が無くなる。だって私という最強の手駒が一つあれば、ダークを束にしたよりも遙かに高い働きをするのだし。そうなれば力の分散は弱体化以外の何物でもなく、その先にあるのは授けた『祝福』の徴収だ。


「魔王様はワタシ達のような敬虔な邪神様の使徒を滅ぼす御積もりですか?」

「さあ? いても邪魔にしかならないなら消えても問題無いんじゃない?」


 私にとっては業腹な事に邪神はご機嫌だ。復活が目前に入り、更に復活の後には自身が享楽に興ずる事が出来る生け贄、つまり人間達が大量にあると檻の中から舌舐めずりをしてる状態だ。

 事がここに至ればダークは無用の長物。その内こいつらから圧倒的な能力が失われる日が近いかもしれない。


「それにねテンタクル。別に死ぬわけじゃ無いんだから気にする必要はないわよ。これからは他の種族と大差ない1種族としての生を謳歌する事ね」


 まあ十中八九、他の種族からの報復で名の通ったダークは抹殺されるだろうけど。まあ自業自得、因果は巡るって事ね。・・・まあそこまでいくより先に殺される方が早いかもしれないけど。


「・・・ワタシ達は他種族の上に君臨する権利と義務がある」

「魔王の私にはあるけど貴方達には無いわよ」


「ワタシ達は力を授けられた選ばれた種族です」

「その内、剥奪されるだろうけどね」


「邪神様が御誕生された時のようにワタシ達は御方の為にこの力を振るうのです」

「生まれたての時は弱かったから手先が欲しかっただけだから」


「ワタシ達は邪神様に喜んで頂く為に―――」

「もう邪神は貴方達に興味なんて無いわよ?」


 だってダークエルフの邪神の契約は全て無効になっている。


 それはつまりダークエルフは邪神から不必要と判断されたわけだ。心臓に邪神の意志が通った魔石という爆弾は抱えていても、・・・後はその魔石さえどうにかしてしまえば彼には真の自由がやってくるわけだ。

 現実を教えてあげた方が良いかもね、こいつらは既に積んでいると。

 私という存在を見つけた時から、『彼』みたいな最高に素敵な男の子を敵に回した時から未来は決まっていたと。

 私はその身に魔力と瘴気を立ち上らせる。それは物理的な影響力を持ってダークの全てに圧力を与える。


「「「「「!?」」」」」


 地に伏せるダーク達。いや、地にねじ伏せられたという方が正しい。


「『・・・諦めろテンタクル、それにこの場に集うダークよ。魔王である我一人いれば貴様らの存在は不要なのだ。・・・どうだ? 現に我は貴様らに直接的な攻撃は無理でも、威圧でねじ伏せる事が可能になったぞ』」


 あの魔法を発動させる前はこれも無理だった。それはダークの務めを阻害すると判断されたからだろう。未だに殺そうとすれば寸止めになるけど、これなら嫌がらせが捗るわ。


「さあどうかしら? 理解した? 自分達がどんな立場にいるのかを」


「っ!」


「全員が揃っても私一人に劣る上に、『彼』がここへやってくる」


 魔境の空間を歪めて障壁を作り、出入りを制限した。唯一残した場所は『煉獄門』として堅き出入り口となり、軽率な行動で犠牲者が出ることを防いでいる。


 そこの境界を『彼』はこの瞬間に越えてきた。


 仲間を、友達を連れてやって来た。・・・楽しみ、カガシさんからの報告だけでしか聞いてない彼の周りの人達をこの目で確認出来る。


「さあ歓迎してあげなさい。貴方達が本当に、自分達が言うような特別な種族ならこんな障害なんて簡単に越えられるでしょう?」


「・・・こっ、この小娘がぁああああ!!」


「ラストダンスを始めましょう。彩り、着飾り、もてなし、交流しましょう。魔王である私と邪神は貴方達の奮闘を期待してるわよ」


 玉座から立ち上がり魔力を込めた手で次元を引き裂く。口を開けた空間の先には別の風景が広がっている。開いた空間を更に押し広げて巨大なゲートとする。


「さあ行きましょうか」


「っがあああああ!?」


 この場にいるダーク全員を魔力で拘束してゲートを越える。引き摺られるようにダーク達もゲートを通過していく。


 首に掛けたネックレスに触れる。紫水の結晶花が輝き光る。

 さあカイル。私達も決着を付けましょう。



 ◆◆◆



 魔境に入り広大な荒野に降り立ち、そこで俺達はデミヒューマンとモンスターの大群に囲まれた。

 正直待っていても向こうから来てくれる筈だから移動をする必要はない。しかし仲間の皆は準備運動目的なのか薙ぎ払っていく。

 その様は相手方にとっての地獄絵図だろう。


「いいですカイル? 私とハルが魔王を倒すのは確定です。貴殿は精々周りの木っ端の相手でもしていて下さい」

「まあ我がいれば余裕なのだけど! だって我は最強なのだから! 我とメアリーちゃんは最強だから!」


「・・・本当に2倍ウザい」


 黒髪黒目の少女。輝かしい鎧を身に纏った勇者ハルが、聖剣ウルス・ラグナを閃かせてデミヒューマンを斬り捨てていく。

 それに続くように聖炎を宿した拳と蹴りで焼き砕いていく聖女メアリー。その身は白銀に輝き地表にもう一つの太陽が出現したようになっている。


『カー君。気配が近付いた』

「これはダークが揃い踏みですね」

『ならさっさとここを掃除するっす! 燃えてきたっすよ!」


 白く染まった大人の女性、聖獣ヴァイフーと一体化して烈風と化したヤナギが両腕を巨大な虎腕にして敵を引き裂き潰していく。

 その側では聖獣シュエンウと一体化したスターチスが身体に鱗を纏い尾を蛇とし、甲羅に覆われた腕で大太刀を振るって周囲を『切断』していく。

 雷と成って敵を貫いていくナズナ。貫通した敵はそのまま帯電を起こす。それはまるで爆弾のように少しの間をおいて破裂して広範囲に雷撃が炸裂する。



「御主人様が退屈になってしまいますね」

「お師匠様の手を煩わせる物はシルフィーが滅ぼします」


 コーラルが広げた影が大地を走る。それは下から湧き上がるようにドームを形成しながら敵を包み込み、そのまま再び影の中に沈む。影に包まれていた敵は跡形も無く消えた。

 シルフィーはその身を黄金の半龍として大地を操る。地に刺した角杖が輝き、近くにいた敵が岩や土に変化していき遂には大地へと還っていく。


『【此程苦しいのなら(ペルトーシュカ)】起動。心を知り、狂い踊れ』


  コッペリアの心臓が赤い輝きを放ち、それが敵対者に浴びせられる。それは精神感応の光。それを受けたデミヒューマンやモンスターは喚き声を上げて胸を掻き毟り、肉を削いで骨を抉る。遂には自らの心臓から魔石を引き摺りだして息絶える。


 どれだけ敵がいようと溶けるように消えていく。あまりにも一方的な攻撃が続いていく。


「もうすぐダークが来るって話しだが」


 ヤナギやスターチスが感覚で拾った情報を伝えてくれたという事は、いつ現れても不思議では無いという事だ。

 ヴァジュラを引き抜いて肩に担ぐ。


「・・・ははは」


 届いた。確かに近付いて来るのが分かる。大勢のダークは勿論、もう1人。間違える筈が無い気配が近付いて来る。

 一瞬の邂逅。されど俺達には永遠。繋がりはか細く、しかし何物よりも熱い。


「・・・ようやくだ」


 怪物の骸が広がる大地。その向こうから押し寄せる更なる怪物と怪人の濁流。

 そしてそれの背後から進んでくるダーク共。


 その中でも異彩を放つ1人の人物。

 待ち侘びた。待ち望んだ。


「遅くなった」


 数㎞は離れた先。しかし距離なんて関係無い。あそこに彼女がいて、俺はここにいる。


 ――――――


 俺の視線が彼女を捉える。

 私の視線が彼を捉える。


「迎えに来た」

「会いに来た」


 ヴァジュラを構えて力を込める。

 手を翳して魔力を高めていく。


 互いの高まる力が際限なく上昇し、中間地点で空間に亀裂が入る。

 それは世界が2人の放つ力に耐えきれなくなった証。それは更に留まることを知らず広がっていく。

 亀裂に触れた骸は分解されて世界へ還り、生ある怪物もそれに触れた途端に崩壊していく。


「そこに君がいる」

「そこに君がいる」


 亀裂は既に崩壊へと姿を変える。お互いの願いを遮る全ての事象を否定して、2人の間では世界が形を失い消えていく。その先には色の無い場所、『世界の向こう側』が姿を顕わす。


 男は駆け出す。正面にある全てを破壊し形を消しながら。

 女は駆け出す。正面にある全てを創造し作り替えながら。


 男は戦斧を掴んだ手とは逆の、何も持っていない手を差し出す。

 女は魔力を込めた手とは逆の、何も持っていない手を差し出す。


 そして手と手は触れ合う。


 極限まで高まった2人の力は溢れるように、握り締め合った手の間で光となって輝き出す。


 世界が崩壊する中心で、2人は輝きの中で笑い合う。


「クレア」

「カイル」


 お互いのこれまでは、その全てが今この時の為に。


「魔王になったクレアのために、俺は会いに来た」

「魔王になった私は、カイルに会うために戦った」


「・・・これからも共にいる為に」

「・・・君と一緒に笑い合う為に」


「「ここから全てを始めよう」」


 壊れた世界のその先で確かに2人が望む未来が見える


 壊れたのなら積み上げれば良い。創造すれば良い


 その為の破壊で、その為の創造する力と能力


 感情はこれまでに無い程熱く燃え上がる


 瞳には己を映す相手の瞳だけを映す


 そこには感情の炎が燃えている


 そこにある気持ちも同様で


 だから2人は愛を囁く


「君を愛してる」



 最後の瞬間まで幸せを諦めない。だから2人は戦い続ける。

 これからも、この先も。


拙作をここまで読んで頂き心から御礼申し上げます。


宜しければ投稿予定の次作も宜しくお願いします。

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