表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王になったあの娘のために(プロトタイプ)  作者: 団子の長
第3章・牙と爪は誰が為に
58/60

18.世界を越えて

この作品を下敷きにした次作を執筆中です。

 


 ◆◆◆



 魔王の魂を降ろす祭壇を前にして私は魔力を高めていく。膨大な量と高すぎる濃度によって周辺の大地が唸りを上げながら震える。魔境で最も力を張り巡らせる事の出来る場所で私は今までで最大の魔力を操るために集中を高めていく。


「クレアお姉ちゃん。本当に大丈夫なの?」


「問題無しよアフラ」


「御一人で成せる事とは思えません」


「もう決行直前よ、カガシさん。・・・それに他の皆も平気よ、私の力を見せてあげる」


 隣で心配そうに私を見るアフラ。角と翼の純白は色褪せる事無く輝き、少し前まで傷付き痩せ細っていた身体は完全に復調している。綺麗なドレスなんかも着せて見た目はとっても可愛いお姫様といった所。着せ替えがとっても捗りました。

 その少し後ろで不安そうな様子を隠しもしないカガシさん。外出中だというのに相も変わらずメイド服。彼女にとってはこれが戦闘服といった気合いの入れよう。背後にいるダークエルフの皆は隠行に適した効果のある黒装束を纏っているので余計に周囲から浮いている。


 その全員がこれから私が行う『魔法』に対して不安な面持ちを見せている。・・・いや、1人だけ静かに私を見てる人がいる。ダークエルフの頭領である男性、タイファンさんだ。


「タイファンさんは何か言っておく事は無いの?」


「・・・失敗した時はその時だ」


「あははは、それもそうだけど。私は失敗する気なんてさらさら無いからね」


 いつも通り冷静な態度を崩さないタイファンさん。でも心の中では誰よりも皆の事を思ってる優しいお爺ちゃん・・・見た目は全然若いけど。いつまでも若々しいのは羨ましいと思う。カガシさんとかヒューマンで考えたら結構な・・・というかかなりの歳だし。


「・・・余計な事を考えてませんか?」


「カガシさんは美人だなーって考えてました! ねえアフラ?」


「え? うん。カガシお姉さんはすっごく綺麗です」


 睨め付けるカガシさんを華麗に受け流す。私の言葉に素直に賛同してくれる可愛らしいアフラに癒やされながら魔力の奔流を制御する。感覚的には暴れ馬の手綱を握っているのに近い。・・・今の私なら馬どころか上位の竜、それよりも更に上の古龍さえも引き摺れる筈だから幼少の時とのギャップが激しすぎて馬鹿みたいな顔をしてしまいそう。

 魔力が震える。何かを掴んだ感触が私に返ってくる。


 ・・・きた。


「準備は良い? 行くよ皆!」


 皆がその瞬間に備えて表情を真剣な物とする。それを確認して私は『未踏破地帯』の大陸を駆け回って各地に刻んだ魔法を発動させる。


「・・・確か消失位階魔法(ロスト・マジック)黄金錬成・理想郷顕現エルドラド・タブレッド】だったかしら? これを最初に編んだ魔法使いさんは本当に凄い人だね」


 十位階魔法の立体多重式と、各地の刻印と祭壇を繋げる連鎖接続式。それを用いて太古に使われた『大陸創造術式』を改変した物を起動させる。

 私の魔力が各地に繋がっている経路(パス)を通じて大量に注がれていく。こんなに魔力を放出した事は今まで無かったから少しびっくりする。それは魔力だけでダークを破裂させて殺せる量になっている。


「・・・向こうでも似たような事をしようとしてたんだっけ?」


 魔力の昂りで私の全身から力が噴き出して空間を歪ませる。


「・・・ええ。何でもワービーストを作り替えるようです。その為に私達と似た手順を取っています」


「へ~、奇遇だよね。示し合わせた訳でも無いのに」


 カガシさんの答えを聞きながら更に魔力を開放する。その圧力に耐えきれなかった空間が軋む音を立てて亀裂が入ってくる。それは私を中心として祭壇を呑み込むように広がっていく。


 それを目で見ていると、遠くで魔力の昂りを感じた。


「あ、向こうでも始まったのかな?」


 未踏破地帯の向こう側、人間種族の生活圏。その場所からこっちの魔力の4分の1程度の魔力が輝きを伴って立ち上っている。・・・あれで魔力が足りるのかな? 『創造』って対象をまず幻想粒子にまで破壊する必要がある。あれでは全くと言っていいほど足りていない。


「・・・大丈夫なのかな」


 落ち着かない。そわそわしてくる。こっちは大丈夫だけど向こうの方が心配になってくる。

 問題が無かったら良いんだけど・・・。



 ◆◆◆



 今回の要になる『破壊者の隕星(ヴァジュラ)』を引き抜いて構える。

 ゲルダ大平原の中央に位置する、中央の宮殿の頂上である屋根の上に立つ。上から見下ろした宮殿の下、そこでは既にいつでも魔法が発動できるようにコーラルが魔法陣を魔石を使って起動、経路となる地脈をシルフィーが角杖『龍血角』を使用して活性化させている。2人とも膨大な力の奔流に間接的にでも触れている影響か身体から光を発している。


「・・・準備は良いな」


 宮殿の広い屋根の上、その4角に守護聖獣が宿る精霊武装を持った男女が配置されている。確認の意味を込めて視線を向けて見る。


 東には大刀『雷召樹』を持つナズナ。俺が視線を向けると興奮で顔を真っ赤にして、飛び跳ねながら両手を振っている。・・・面識なんて無かったのに初対面の時から全開で好意を向けて来てくれている。正直どう対応したらいいものか。


 西には双剣『白風・金風』を持つヤナギ。『王』を単身で降したからか、今までに無かった風格のような物が出ているように感じる。俺の視界に入った瞬間に謎のポーズをとる。幾つもポーズを変えながら俺の反応を見ている。・・・うん、相変わらずだな。だがまあ無事で本当に良かった。


 南には斬糸籠手『極糸火焔』を持つバルサム。過去にヤナギとスターチスと確執があったらしく、集合して2人が揃った時に殴る蹴るの暴行を受けていた。しかし2人の心の中で既に折り合いが付いていたのかそこまで酷い暴行では無かった。・・・その暴行の後から少しだけ彼の重苦しかった空気が軽くなっていた。彼の中でも何かが変わったのだろう。


 北には大太刀『水無月』を持つスターチス。彼女もヤナギと同様に風格のような物が出たと同時に、前よりも大人になった気がする。見た目は以前から大人であったが、例えるなら今は少女が女性に変わったと言える変化である。母親が出来たと言っていたのと関係があるのだろうか。


 そんな4人の精霊の使い手達と共に力を高めていく。

 東ではナズナが雷と成って、更に変化していき『青き龍』と成る。西ではヤナギが風と成って『白き虎』と成る。南ではバルサムが炎と成って『朱き雀』と成る。北ではスターチスが変質していき蛇の尾を持つ『黒き亀』と成る。


 宮殿の下ではシルフィーの輝きが篝火の赤を越えて黄色と成る。そして地中から噴き上がる地脈を纏って『黄金の龍』と成る。人の形を失ったシルフィーを繋ぎ止めるように、コッペリアが地脈の奔流に呑まれているシルフィーの本体を『踊り子の手(ボレロ)』で捕まえている。


 これで全ての準備が整った。

 俺は全ての力をヴァジュラに集めていく。いまだ振るっていない筈なのに、ヴァジュラを中心とした空間が軋みを上げて亀裂が入っていく。それで留まらず、空間の亀裂はこのゲルダ大平原を上から囲い込むように広がっていく。

 集中を高めるように息をゆっくりと吸って吐いていく。目を瞑りこれから自分の力を叩き付けるこの大陸の姿を脳裏に浮かべて、構えたヴァジュラを更に強く振りかぶる。


「・・・行くぞ!」


 そしてその瞬間が来る。・・・その時にクレアの声が聞こえた気がした。



 ◆◆◆

「『全て壊れろ!』」

「『創り変われ!』」

 ◆◆◆



 ―――人間と魔族が住む大陸を隔てる境界。そこを中心とした対象になるように2つの巨大な魔法陣、大陸に被さるように現出した魔法陣が光を放つ。

 片や種族改変。片や大陸改造。

 目的は違えど規模は互いに比する超大規模魔法が発動する。それは片方は目に見えない変化で、片方は世界の形を変える物であっても、そのどちらもこの世に生きる全てにとって無視する事が出来ない世界改変を巻き起こす。


 まず『破壊』の衝撃が世界を覆う。それはワービーストを中心として、しかし男の込めた力が強すぎたのか他にいる数多の種族にさえも破壊の影響が現われる。

 その次の破壊の衝撃は大地を掻き回す物だった。それは未踏破地帯を作り替えるだけに留まる筈だったのに、男が起こした破壊と干渉して更に高く深い衝撃となる。

 破壊の影響によって生きとし生けるもの全てに亀裂が入る。大地や空、海さえも亀裂に覆われる。破壊の波がぶつかり弾け、混ざり合う。それは彼らの想定以上に広がりを見せる。


 そして『創造』が世界に満ちる。星の全てに亀裂が入った影響で2つの魔法陣が地脈によって繋がる。モンスターとダークの魔石から抽出した魔力と、魔王の魔力が混ざり合う。

 破壊がそうであったように、2つの創造も干渉し合い、相乗的に力と影響を増大させる。局所的にしか影響を及ぼさない筈だった魔法は激しさも規模も計り知れない物となり、その力の奔流に抗える者はこの世界で2人の男女しかいない。


 男は破壊を続ける。自分が歩む道を塞ぐ全ての障害を打ち砕く為に。

 女は創造を続ける。壊れてしまった大事な物を再び組み上げる為に。


 距離も空間も時間さえもその瞬間だけは意味を無くす。


 男と女は共に光を見た。直感で理解した、それは自分が求めて止まないものであると。

 だから手を伸ばす。触れたい、触れ合いたいと願って手を伸ばす。

 破壊と創造の中で存在を確立出来ない世界の中で、それでも自分を保ち続ける2人の男女。だから伸ばした手が触れ合うのは偶然では無く必然であった。

 それは刹那すら悠久と思える時間の狭間。それでも2人はその瞬間に繋がったと心で理解した。


 カイルの手に触れる女性。それは求めた人、会いたい人。

 クレアの手に触れる男性。それは求めた人、会いたい人。


 そんな一瞬の邂逅は、始まった時と同じように唐突に終わりを告げる。

 破壊から一転。新しく構成されて『創造』される世界。

 距離も空間も時間も再び存在を取り戻し、2人はあるべき場所に戻っていく。


 幻想や夢と言われたとしても否定できない2人だけの時間。しかし2人とっては自分の心に更に強く激しい火を灯すのに十分な出会いであった。



 ◆◆◆



 未踏破地帯と呼ばれたダークやデミヒューマンが蔓延る魔境。その大地はクレアの引き起こした魔法によって次元歪曲空間、『ダンジョン』と呼ばれる土地へと変貌する。

 周辺の大地から瘴気を集め、ダンジョン内の瘴気の濃度を上昇させて固定化させて祭壇へ収束させる。それをクレアの魔力と反応させて増幅、それによってこれまでの歴史で積み重ねたダークの暗躍を上回る完全な『赤い月』を出現させる機構を完成させた。それは同時に人間の生活圏でダークの暗躍、それを行う意義を奪うに等しい事であり、これによってクレアはダークを直接殺せないまでも絶対なる命令権を手に入れた。

 何故ならクレアがした事は邪神の復活に大きく貢献した事になり、他のダークではどう足掻こうとも達成し得ない成果を上げたクレアは、邪神復活がくるその時までダークを命令によってダンジョン内に隔離する事が可能になった。


 ――――――


「どうだっ! どうどう!? 私ってやっぱり凄いよねこれ!!」


「お、お姉ちゃん? どうしたの?」


「やったーー!!」


 アフラが戸惑ってるけど今の私はそれどころじゃない。絶好調である! 目に見える風景は相変わらず辛気くさい魔境の空だけど今の私の心は晴れ渡ってる!

 歪んだ空も組み替えられた大地も何もかも予定通り。しかし予想外の事が起こった。


「・・・クレア様。超魔法の成功、おめでとうございます」


 カガシさんが驚きを抑えながらも私に祝福の言葉をくれる。


「うん! ありがとうカガシさん! それに皆も! これは全員の力があって出来た事だよ!」


「・・・あとアフラ様がクレア様のその異常な機嫌の良さに戸惑っています」


「異常ってなにさ! 私はただ嬉しい事があったからそれを全身で表現しているだけです!」


「・・・魔王。これで月が昇るまでの期間が3ヶ月を切った事になる」


 タイファンさんが近付いてきて私に確認してくる。彼が聞いてきたそれは魔法を使う前から想定していた事なので問題は無い。問題があるとすればその後である。


「つまり、それまでに私の魔王の加護の事や邪神の事に決着を付けないといけないって話しだよね? 大丈夫! 安心して! だって私がいるし、()だっているんだから!」


 しかしそんな問題も今の私にとってはあってないような物。

 今も私の手には温もりが残っている。彼がくれた温もりが残っている。

 彼の手が私に触れた時、温もり以外にも伝わった物がある。


「・・・くふっ・・・ふふふふふ」


「・・・うわぁ、クレア様。ちょっと淑女としてはその表情はどうかと・・・」

「お姉ちゃん? 本当に大丈夫?」


 駄目だにやける。こんな顔を見られたらきっと彼に幻滅される。でも両手で顔を押さえても感情は抑えきれない。何だか皆にこの気持ちを共有してもらえないのが歯痒い。でも気にしない。

 胸がドキドキする。気分が昂る。状況はまだまだ根本的な改善はしていない。それでも私がこの瞬間に幸せの絶頂にいる事実は変わらない。まさか自分がここまで単純な事で無敵感に浸れるようになるとは思ってもみなかった。


 感情がいっぱいいっぱいになる。駆け出して祭壇の天辺に登る。頂上について大きく息を吸って―――


「カイルーーー!! 私も愛してるーーー!!」


 今の私は誰にも負ける気がしない。いずれ来る魔王の魂も、邪神も、どんな存在が来ても立ち向かえる。


 私も君のように誰にも負けない存在になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ