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魔王になったあの娘のために(プロトタイプ)  作者: 団子の長
第3章・牙と爪は誰が為に
50/60

10.雷の化身

 


 ◆◆◆



「ふわー! 痺れるっす! 感無量っす!」


「・・・そう?」

「すごい喜びようですね」


 ナズナ・ナノハナ。・・・ナーちゃんに連れられて東の宮殿の一室にボク達は案内された。

 大きい部屋。昔ボクが西の宮殿であてがわれた部屋よりよっぽど綺麗で素敵な部屋。置かれている家具や寝台からもここでナーちゃんが大事にされてるのが分かる。


 両手を広げたぐらいの丸いテーブルに着いて自己紹介を済ませたら、正面辺りに座ったナーちゃんは顔を赤くして元気いっぱいに喜んでる。どうもボク達に会えたのがそれだけ嬉しかったみたい。

 部屋の棚から出してきた色んなお菓子や果実水(ジュース)が沢山テーブルの上に並んでいる。


「あ、どうぞ遠慮無く食べて欲しいっす! 私も食べますから! あれだけ動けばお腹も空っぽになるっす!」


「・・・あ~、ナズナちゃん? 歓待してもらえるのは嬉しいんやけどうちら一応押し入りってか犯罪者なんやけど?」


 アーちゃんが困ったようにナーちゃんに理由を聞いてる。それはボク達も気になってた。


 ・・・でもどうしよう。ボク達ちゃんとアーちゃんに謝れてない。スーちゃんを見れば向こうも同じ事を考えてるのが分かる。色々あって有耶無耶になってここまで来てしまった。


「ああ!? そういえば、皆()()()な事してたり家の外で伸びてたっす!? 朝御飯作ってくれる人がいないっす!?」


「そこっ!? 今気にする事はそこちゃうやろ!?」  


「・・・ラクーンドッグ氏、御飯作れたりしないっすか? 実は私お料理が苦手なんっす・・・」


 両手の人差し指を突き合わせながらしゅんとしてアーちゃんに聞いてる。


「え? 作れるけど・・・っていやいやいやいや! だからうちらあんたの身内とかこの宮殿の戦士とか伸してしまった人やで!?」


「それっすか? あっはっはっはっは! 過ぎた事は水に流すっす! 小さな事っす!」


「ええー・・・」


 ・・・本気で言ってる。

 2つ結いの髪を跳ねさせながら、とても楽しそうに生き生きしてる。それは些細な事であったと笑って流している。


 ボク達が宮殿に来てからダークを倒すまでの()()()()を見ていてこの反応。


「お父さん。転がったままだけど」

「手当もしてませんね」


 外には今も転がってうんうん唸ってるナーちゃんの父親がいる。

 答えは何となく分かるけど聞いておく。・・・人の気持ちはやっぱり難しいから。


「え、ああ良いっすよ別に放っておいて。鍛錬以外は女の人と寝てばっかりなんすから。その内怪我も塞がって起きてくるっす。他のも気にする必要無いっす」


 あっけらかんとしてナーちゃんは言う。確かにあれぐらいの傷ならその内復帰してくる。


「じゃあお菓子食べる」

「では自分も頂きます」


「どうぞどうぞ! まあこれだけお菓子があったら一食抜いても問題無いっすね!」


「ええー・・・。これってうちが可笑しいんか?」


「大丈夫です! ラクーンドッグ氏は普通です! 私が最近生まれ変わっただけっすから!」


「生まれ? ・・・あれ、そういえば・・・」


 アーちゃんが何か考え込み始めた。気になる事があったのかな?

 まあボク達もナーちゃんには色々聞いておきたい事があるけど。


「ねえねえ、ナーちゃん」

「自分達も聞いておきたいことが」


「何ですか! 何でも聞いてくださいっす! 好みの人でも嫌いな人でも何でも答えるっす!」


 ひまわりが咲いたような笑顔。朗らかで底抜けに明るい様子で身を乗り出してくる。綺麗に手入れされている艶のある角が近くに来る。とりあえずスーちゃんと一緒に撫でる。


「あれ? えへへ~、どうっすか? これから人と会う事が増えると思って磨いたっす」


「すべすべで気持ち良い」

「形も綺麗です」


「嬉しいっす! 頑張って磨いた甲斐があったっす!」


 なでなで。すべすべ。顔と同じぐらいの長さがある角。立派で格好良い、それに先は丸っこくて可愛い。これは良い角。


「ナーちゃん。ボク達この後も他の所にも殴り込みに行く」

「目的と頼まれ事があるのです。それに『守護聖獣』が―――」


「それは私も行くっす! だから大丈夫っす!」


 ・・・理由も何もまだ言ってない。


「・・・来てくれるの?」

「自分達が言うのも何ですがかなり派手な事をしますよ?」


 どうしてナーちゃんはこんなに友好的? 他の人と違って読みにくい。それはカー君にちょっと似てる。


「大丈夫っす! 『チーロン』様にも頼まれたっす! それに私も皆と一緒に行きたいっす!」


 チーロン。壁に立て掛けられている槍を見る。ボクやスーちゃんが持ってる武器と一緒。守護聖獣が宿る神剣、精霊武装。


「あ、話すなら呼ぶっすよ?」


「――――――」


「一緒にお話ししましょうチーロン様!」


 こっちが何かを言う前にナーちゃんは席を立ち、壁まで行って槍を手に取る。

 変化は一瞬だった。

 槍全体に稲妻が走り、帯電して輝く。ナーちゃんの加護の力じゃない。()()()()()()。それはつまり槍に宿る精霊が力を放出してる。・・・ナーちゃんの呼び掛けに応えてる。


 ナーちゃんは神剣の力を振るえる英雄という事になる。


「・・・あれ~おかしいっすね?」


 しかし稲光が出るだけでそれ以上の変化が起こらない。


「え? え~と・・・まだ駄目? ・・・もうちょっと?」


 槍に向かって話しかけるナーちゃん。そうやって少し話していると帯電も消えていく。ついには元の槍に戻った。

 ・・・そうしてナーちゃんは少し気まずそうな顔で頭を掻く。


「・・・何かごめんっす。チーロン様、ヴァイフー様とシュエンウ様に表に出てこないように頼まれてるらしいっす」


 酷く落ち込んだように槍を再び壁に立て掛けて席に戻ってくる。


「大丈夫。問題無い」

「自分達が対話出来ていれば良かっただけの話しですしね」


 多分ボク達がまだそれが出来ていないから、ナーちゃんの方にお願いしたんだと思う。だから駄目なのはボク達。


「ありがとうございます! じゃあ僭越ながら自分の口で説明するっす! そしてその前にこの出会いを祝して乾杯するっす!」


 ナーちゃんがジュースの入った瓶を手に取る。ボクやスーちゃん、色々な事があって考え込んでるアーちゃんも飲み物を持って掲げる。


「かんぱーい!!」


「かんぱーい」「乾杯」「か、かんぱーい?」


「おー! 個性が爆発っす!」


 そうして皆でお菓子にも手を付け始める。うん美味しい。ちょっと食べたらお腹が空いてた事に気付いた。大きな饅頭がある・・・美味しい。

 ナーちゃんがふわふわの糸状にした飴を食べながらうんうん唸ってる。それも美味しそう・・・うん、美味しい。砕いた炒り豆が良い感じ。


「そうっすね~。なんかジューチュエの今の持ち主の『バルサム』が面倒な事になってるらしいっすね。それでこの宮殿に来る皆が来るから気が向いたら協力してやってくれって言われたっす」


 バルサム。あの男・・・許せない、次に会ったら殺してやろうと考えていた相手・・・の筈だった。

 スーちゃんと顔を見合わせる。きっと今、考えてることは一緒。スーちゃんが少し呆けた顔になってる、きっとボクもそう。


 ―――何故かそこまで憎く無くなってる。


 何でだろう。


「・・・ナズナちゃんは今のワービーストの暮らしが一変したら如何する?」


 アーちゃんが言葉が出なくなったボク達の変わりにナーちゃんと話してくれる。


「今の暮らしっすか? むーそう言われても分からないっす。私はどちらにしろここを出て行くつもりだったっす」


「そうなん? ここの『王』を目指すんやなかったの?」


「いやー、実はっすね。・・・私が生まれ変わった話しと関係あるんすよ!」


 蒸しパンを片手に立ち上がり、黒い目を輝かせて嬉々として語っていく・・・かに見えたけど違った。


「・・・あの日まで、私は引き籠もりでした」


「え?」


 椅子に座り、会った時から発していた陽気で溌剌とした空気が無くなり、しっとりとした雰囲気になった。何故か青い結び紐も外して髪を真っ直ぐ(ストレート)にする。アーちゃんはナーちゃんの突然の変化に驚いて声を漏らしてた。


「発情してばかりの父。それに嬉々として付き合う宮殿の戦士達。親の影響で性に奔放な姉妹。私はそんな生活に違和感を強く覚えていました」


 ナーちゃんが部屋の窓に目を向ける。ここの窓は北側の外向きに付いていて庭園は見えない。それでも多分ナーちゃんが今見てるのは庭園で転がってる人。


「5歳で『栄緑鱗竜』としての修行が始まり、周りに目を向ければ私の中にある違和感が強くなっていったのです。どうして私は強くなる努力をしているのに皆は何故()()()ばかりしているのかと。そしてある日、風の噂である事件があったと聞いたのです」


 ナーちゃんがスターチスに目を向ける。その目には涙が浮かんでいる。・・・これは恐怖?


「・・・5歳になった私よりも、更に幼い女の子が男に犯されそうになったと」


 バルサムっ・・・やっぱりあれは気のせい。ボクはまだこんなにもあいつが憎い。顔を合わせればきっと殺したくなる。


「そして気付いたのです、それは私も人事では無いと。私が感じていた違和感、それは彼らのあまりにも性に対する意識が軽い事への恐怖だったのです」


 黒い手袋に包まれた腕で自分の身体を抱くようにするナーちゃん。当時のナーちゃんがいったいその時どれだけ怖かったのか・・・。


「そしてこの宮殿の人から身を隠すように私の引き籠もり生活が始まりました」


「・・・ナズナちゃん、それ大丈夫だったん? あれが父親だったんやろ、無理矢理部屋から出したりとか」


「そこはチーロン様に助けてもらっていました。私の加護とチーロン様の神力があれば、他者がやすやすと私に触れる事が出来なくなりますから」


 チーちゃんの神力は雷。ナーちゃんの加護と合わされば『雷そのもの』になれる。それが使い手が所持する加護によって選ばれる理由と神剣の本当の力。


「・・・そんな生活が続き、痺れを切らした父に言われたのです。10歳になれば意地でも夫を決めてもらうと。・・・流石に何年も引き籠もっていれば諦めが出ていました。自分はこの東の宮の女である事は変えられないと。自身の家族と同じように私もいずれ誰かと肌を重ねなければならないと」


 ナーちゃんが俯き長い髪で表情が隠れる。それに彼女と精霊の力の影響か感覚で捉えにくく、今ナーちゃんはどんな顔をしているのか分からない。


「・・・そして私が10歳になるこの年。()()をみたのです」


 ・・・ナーちゃんの息に熱が籠もったのが分かった。


「窓から空を見上げ、ただただ落ちては昇る日を見ていただけの日々。きっと自分は死んでいるのだと、生きてはいないのだと考えていました」


 身体が震え始める。声の熱が更に熱さを増していく。


「そして死んだように外をみていたある日、()()()()()()()()のですっ」


 振り上げられた顔。

 その瞳に宿るギラギラとした生気は、さっきまであった空気を押しのけて発せられる。


「それは、それはまるでこの世の物とは思えない光景っ。あの瞬間、私の中にあった全ての物が真っ白に塗り潰されっ! 本当の『死』を味わい! 蘇った! それはつまり私は生きながら生まれ変わったのです!」


 振り乱した髪に再び結び紐が付けられる。椅子から立ち上がりテーブルに片足が勢いよく乗せられ、器に盛られたお菓子が跳ね踊る。


「その時に私は決めたっす! 気の合わない家族とこれからも過ごすぐらいなら、望んだ生を手に入れると! 自由に生きるんだと! 今までに無いほど心が燃え上がった私は部屋を飛び出たっす!」


 感情の昂りに合わせるようにナーちゃんの全身から放電現象が生まれる。


「止まっていた時間が動き出し、私は最初にあの時の事件を調べたっす! そして知るヤナギンとスタチンのこと!」


 ・・・ヤナギン、スタチン?


「なんとあの2人は襲われたというのに負けなかったのです! 私のように泣き寝入りのような真似はせずにしかる(のち)ボコボコにしてやったと聞いたっす! 感動したっす! 尊敬っす!」


 ナーちゃんの角は放電を越え、その姿を物質から完全な雷と化している。


「そしてチーロン様が言うにはヤナギンとスタチンはあの閃光、『雷霆』と関係があると聞いたっす! 何という運命だと思ったっす!」


 ナーちゃんは倒れ込むようにボクとスーちゃんの前に手を付いて迫る。目も完全に転化して眼窩(がんか)から雷が溢れるようになってる。


「だからここに来た時に失礼ながら皆の戦いぶりを拝見させて頂いたっす! 結果はご覧の通り! まさに私の気持ちが霹靂(へきれき)状態っす! 皆素晴らしい人達だったっす! そんな皆が慕う雷霆に逢いたい欲求が最高潮になったっす!」


 そしてナーちゃんはテーブルの上から席に戻る。放電が収まり、雷の相が消える。

 そして頭を思い切り下げてテーブルに叩き付ける。大きな亀裂がテーブルに走り揺れる。


「どうか私を皆の、雷霆の仲間に加えて欲しいっす! この通りっす!」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ボク達の・・・雷霆であるカー君の仲間になりたいと懇願するナーちゃん。


「・・・うちはカイルくんのチームってわけじゃないからそっちで決めたってよ。うちはそれに文句は出さんよ」


 アーちゃんがそう言ってボク達の答えを待つ。・・・答えは決まってる。


「―――いいよナーちゃん」

「自分達に否は無いですよ」


 断る理由なんて無い。それにきっとナーちゃんは良い子。


「・・・ほ、本当ですか?」


 頭を上げてボク達を見るナーちゃんは少し、昔の事を喋ってた時みたいになってる。


「よしよし」


 おでこにお菓子の粉が付いてたから払うついでに頭を撫でる。なんだかシーちゃんみたい。・・・振り切れ方は違うけど。


「ナズナ殿が居れば心強いです。こちらこそ宜しくお願いします」


 スーちゃんがナーちゃんの手を握って優しく笑いかける。本当にスーちゃんは良いお姉ちゃん。


「っ・・・ぅぅ・・・」


 また頭を伏せるナーちゃん。そして身体が震え出す。・・・来そうな気がしたからスーちゃんと一緒にお菓子を脇に避ける。


「感謝感激っすーーー!!」


 開いた道を通り、跳び上がってきたナーちゃんにがばっとスーちゃんと一緒に抱き締められる。

 おお、これは中々の・・・。スーちゃんと同じぐらいある。張りも柔らかさもある。うん、これは格好良いおっぱい。


「これから宜しくっす!」


「うん。よろしくねナーちゃん」

「一緒に頑張りましょう」


 とりあえず皆で頭を撫でっこする。なでなで。


「・・・若い子は直ぐ仲良うなるな~」


 アーちゃんに見守ってもらいながらボク達に新しい仲間が出来た。 

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